鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などのコメントをしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。
【2016年8月30日】 ついに主力の古本事業が前年比マイナス。4月の記事では「家電買取」が計画どおり進んでいないという話でしたが、その家電買取の告知に力を入れたら、そのぶん古本買取が落ちこんでしまったと分析しているようです。ただ、これだけ長年やってきて認知されたサービスの業績が、いまさら告知の多寡で大きく変わるものなのでしょうか? 気になったので調べてみたところ、環境省による「平成27年リユースの市場動向調査結果」で、「書籍」の利用者数が3年前と比べると激減してる(▲8.5%)ことがわかりました。タイトルにあるように、まさしく「中古本離れ」が起きているようです。
![撮影:Yuya Tamai[CC BY 2.0]](http://dotplace.jp/wp-content/uploads/2016/09/3465506156_e0deb896f4_z.jpg)
撮影:Yuya Tamai[CC BY 2.0]
【2016年8月30日】 私が理事長をやっているNPO法人の主催イベントで、私も登壇しているので面映ゆいところですがピックアップさせていただきます。まず現状を把握したうえで、作家としてはこの新しいツールをどうやって活かしていけばいいのか、について討議をさせていただきました。なお、初月の結果は9月中旬に判明し、金額の多いところでは鈴木みそさんが約141万円、アダルト系マンガの同人サークル「IronSuger」が約282万円の収益、という報告がありました。
【2016年8月31日】 6月27日に文化通信が報じた「年内特別条件」が、前倒しで終了になっている、という話。私の元にも複数のタレコミがありました。「年内特別条件」じゃなくても、Amazon から一方的に終了通告され読み放題から外されるようなケースもあったようです。具体的にどんなジャンルや出版社が変動しているかを開始時と比べてみたところ、コミック、アダルトジャンルなどに大幅な減少が見られました。単品販売では配信の多い講談社、KADOKAWA、小学館、集英社などの大手出版社が、「Kindle Unlimited」へのコンテンツ配信をかなり抑制している状況は開始時と変わっていません。

ブログ「見て歩く者」2016年9月1日付の記事「Kindle Unlimitedサービス開始から30日経ったので、ラインアップをジャンル別・出版社別に当初と比較してみた」より
【2016年9月6日】 集英社の2016年5月期決算は増収増益でした。ところが部門別の対前期比では、「雑誌」「書籍」「広告」がいずれも減少しており、「その他」の大幅増によって好決算になっていたのです。この記事では「その他」の内訳が公開されており、「Web」が121億8200万円(約48%増)、「版権」が121億3300万円(約13%増)、「物販等」が75億7500万円(約25%増)とのこと。「少年ジャンプ+」などの電子コミックは「Web」に含まれているようです。「Web」と「版権」の売上は「広告」を上回り、すでに「書籍」に肉薄している状態。そろそろ「その他」扱いを脱却してもよさそうです。素晴らしい。
【2016年9月8日】 「電子書籍ビジネス調査報告書2016」を元に再編集した特別企画記事。無料マンガアプリの広告市場が急成長していて、2016年は85億円と予測されているのが興味深いです。この特別企画記事は全4回で、第2回は「電子雑誌の動向」、第3回は「定額制読み放題と今後の展望」、第4回は「多様化する電子書籍市場の今後」です。元になっている調査報告書はCD(PDF)版でも6万8000円(税別)と、ちょっとフリーランスの個人が入手するには辛い金額なので、このように一部でも公開いただけるのはとてもありがたいことです。多謝!

INTERNET Watchより(スクリーンショット)
【2016年9月12日】 これまで文教堂の筆頭株主(親会社)だった大日本印刷が株式を一部売却、連結子会社から外れて持分法適用関連会社になります。タイトルだけを見たときはちょっとびっくりしましたが、「一部売却」なので今後も大日本印刷との関係は続いていきます。なお、東洋経済オンラインの記事によると、文教堂はこれまでメインの仕入れ先がトーハンでしたが、筆頭株主になった日販に帳合変更される可能性が高いと予想されています。日販&トーハンの二大取次による書店の奪い合いは、今後ますます苛烈になっていくことでしょう。
【2016年9月15日】 アプリ開発者から「アップル税」と呼ばれている決済手数料について、経済産業省の研究会が「競争相手の排除につながる」とする異例の見解を示したそうです。Apple「iBooks Store」と競合する電子書店からすると、決済手数料だけで30%とられる(コンテンツ販売での利益が激減する)うえに、ウェブストアへのリンクが禁止されているため、「ただのビューワ」以上のアプリを提供するのは難しいのが現状(Apple IDの決済に対応している電子書店は、「iBooks Store」以外では「BOOK☆WALKER」と「紀伊國屋書店Kinoppy」くらい)です。ストレートに言えば、Appleとしては最大のライバルであるAmazon「Kindleストア」の競争力を削ぎたいがゆえにこの施策を行っている、というのが本音だと思われます。ユーザーにとって不便な状態なので、公取委の指導で是正されるのは一見いいことのように感じられるのですが、もしAppleの制限が緩くなると「Kindleストア」がますます強くなって独占状態を招いてしまうかもしれないのが難しいところです。
【2016年9月16日】 状況がきちんと把握できるようなメディア記事が存在しないので、プレスリリースをピックアップ。ブクログ関係者から、パブーを譲渡した理由はブクログにリソースを集中させるためであること、譲渡先に2Dfactoを選んだのは複数の候補で最も条件がよかったから(親会社ブックオフコーポレーションの意向ではない)、という情報を提供いただきました。実際のところ、パブーは2013年8月23日の編集画面デザイン変更以来ずっと、目立ったサービス改善が行われない状態が続いていたので、運営会社が変わることによって今後はいろいろテコ入れされるのではないかと思われます。とりあえず、はやくEPUB 3に対応して欲しいところです。

「Puboo」トップページ(スクリーンショット)
【2016年9月21日】 8月初旬に始まった「Kindle Unlimited」と「楽天マガジン」の1カ月経過した状況を、バランスよく取り上げている記事なのでピックアップ。「楽天マガジン」は当初見込みを上回る契約数とのこと。「Kindle Unlimited」も、出版社向けの特別条件をはやめに打ち切るなどしてラインアップを減らしているのは想定以上に読まれたのが理由ですから、読み放題サービスに需要があるのは間違いないようです。「dマガジン」は会員数などが公開されていて、コンテンツを提供している出版社も非常に儲かっていて喜んでいるという声が聞こえてくるのですが、「ビューン」「タブホ」「ブックパス」「コミックシーモア」「Yahoo!ブックストア」など先行他社がどういう状況なのか、あまり見えてこないのが気になるところ。
【2016年9月23日】 初日に行って、ぐるっと一週回ってきました。ほぼどのブースにもレジがあって、エプロンをしたスタッフがいるという「本の安売り市」状態。これはこれで悪くないとも思いましたが、電子出版系の展示で目立つのは、大日本印刷グループの「honto」と、トークイベント中心のボイジャーくらいでした。「国際電子出版EXPO」が消滅して業者向け展示が「コンテンツ東京」へ移管したことにより、「東京国際ブックフェア」は名実ともに一般向けイベントになったわけですから、一般ユーザーへの認知拡大を図りたい電子書店はいまこそ出展すべきタイミングなのでは、と思いました。
9月もいろいろ興味深い動きがありました。さて10月はどんなことが起こるでしょうか。
ではまた来月 (๑•̀ㅂ•́)و✧
[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2016年9月 了]
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