INTERVIEW

アソシエーションデザイン つづく世界のつくり方[TALK]

年末特別鼎談:「アソシエーション」と「コミュニティ」をつなげるやり方
後編「山田孝之にとって赤羽は、入退可能な1つの『アソシエーション』なんだよ。」

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[年末特別鼎談]

「アソシエーション」と「コミュニティ」をつなぐやり方
――『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『山田孝之の東京都北区赤羽』から読み解く「まちづくり論」。

本サイトDOTPLACEにて、これまで10回にわたってコラム「アソシエーションデザイン つづく世界のつくり方」を連載してきたまちづくり会社「まちづクリエイティブ」。千葉県松戸市に拠点を置いてまちづくりを実践する中での体感とともに「コミュニティ」と「アソシエーション」という2つの概念を各所で対比させながら「まちづくりの教科書」を目指して執筆された彼らのコラムは、連載開始から現在に至るまで、まちづくり業界の内外から少しずつ注目を集めています。
これまでの連載を振り返りつつ、今年2015年に公開/放映され大きな話題となった映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』とテレビドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』の2作品を、まちづクリエイティブの役員3人が「まちづくり」の視点から徹底的に語ります! 前・中・後編にわたって年末滑り込みで公開する特別放談、お楽しみください。
 
●連載「アソシエーションデザイン つづく世界のつくり方」本編はこちら

【以下からの続きです】
前編:「まちづくりやるんだったらイモータン・ジョーぐらいにならないと。」
中編:「『マッドマックス』は、未来に対する儚さみたいなものが残る映画。」

「コミュニティ」の対照的な描かれ方

寺井:西本さんが『マッドマックス』を観た直後に書いたメモみたいなやつを読んでおきましょうか。

西本:伝わるかどうかわからないけど……。
「よかった。私は怖さゆえに微熱が出てきてダウンしました。もう少し怖さを忘れたらみなさんと内容をみなさんと話せると思います。私の感想キーワードは『絶対王政』『恐怖政治』『奴隷』『コミュニティからの逃走』『自分の自由を求めるアソシエーションでの戦いの試練』『試練すぎる』『故郷』『ユートピア(ない場所の意味)』『新しい命(男子)』『美しい女性と天下のブサイク』『仮面』『土壌汚染』『サスティナブル』などです」。
 この中で、小田くんは「ない場所」っていうのを褒めてくれたんだよね。

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小田:要するに「ユートピアはない」ということ。「ある」のではなく「ない」からこそ、その意味があるということですね。

西本:そのユートピアを求めてフュリオサがコミュニティから逃げていくじゃない? でもユートピアはその言葉通りなかった。なぜかというと、そのユートピアだと思っていたコミュニティは、資源管理ができていなかったから、人も動物も植物も棲めなくなった。フュリオサの場所はなくて、結局は帰ってきたという。

小田:あれってさ、家出の構造や心理状況と一緒だよね。俺も中学校のときそうだったんだけど、「もうこんな家やだ!」って言って出て行って、夜中じゅうずっとゲーセンにいて、「う~ん、なんかどうにもならなかった」と言って戻っていくの(笑)。

寺井:それの激しい版だよね。全力で行って全力で帰るっていう(笑)。
 2つの作品を見比べるといろいろと矛盾点みたいなものがいっぱい出るなって個人的には思っていて、コミュニティというものが最終的には「良いもの」だったのか「悪いもの」だったのかと言うと、真逆の作品だと思うんだよね。
 『北区赤羽』では、コミュニティは「良いもの」だったんでしょ? 

西本:山田孝之はコミュニティの力をもらって次の旅立ちに昇華できたよね。

寺井:『マッドマックス』はコミュニティが良くなくて、それを打ち倒す、っていう扱いで終わると。

西本:ユートピア的なコミュニティを求めて、アソシエーションを作って脱走したけど、結局元の場所、コミュニティに戻った。

――結局、一番豊かなのは元の場所だった、と。

山田孝之が赤羽を出て行かなかったら

小田:『東京都北区赤羽』の中で、「ジョージさん」という地元の人が山田孝之にキレたシーン(第9話「山田孝之、UFOを揚げる。」)で、「お前が赤羽に来てチャレンジしたいっていうのは勝手だけれど、お前のチャレンジとは別のところで周りの人たちは普通に暮らしてんだよ」っていう話をしているんですが、なんかそれって本質的だなって思いました。ストレンジャーによってなにか新しい刺激的なアソシエーションが形成されても、周りの人たちの普通の暮らしは続いていくんだろうなって。
 だから単純に『マッドマックス』においても、あの砦の下にいる人たちはきっと、自ら進んでエレベーターに乗らなかった(=為政者の側に回らなかった)人たちもいるんだろうし、そういう人たちは多分いつも通り「水、来ねえかな」って待っているんだろうし、それはそれでちゃんと生活は完結するんだと思う。そこで巻き起こったドラマに対して周りの人が希望を見出だせるかどうかっていうのはすごく大事で、そこは本質的でもあるし、(必ずしも全員が見出すわけではないというのは)ちょっと悲しいところでもあるっていうか。
 今、「コミュニティをデザインする」みたいなことについて、これからどんどん地域のお祭りみたいなものも増えていくだろうし、世の中的にはすごくアゲアゲというか……。でも結局それは、アソシエーションによる「耕し方」を変えるだけであって、その本質的なチェンジにはならない。まちづくりってそういうもので成り立っているものなのかなって気もしますよね。

寺井:『北区赤羽』は、ミクロの部分でいろいろとドキドキしながら観てました。この全12話の中でも、たとえば自分が松戸で出会って、あの人にこんなこと言われた、あんなこと言われたみたいなこととも重なるような、本質的なエピソードがいっぱい出てくる。

西本:あれを「いいな」と思って地域の仕事をしている人もいっぱいいるのかもしれない。そして、あれこそ「地域づくり」だ、コミュニケーションだって言う人もいるのかもしれない。でも、まちづ社は苦手かもしれませんね(笑)。

寺井:だから、山田孝之が言う「赤羽はアメリカのように多様性がある」っていう話は、簡単に言うと、浅いと思うんだよね(笑)。

小田:まあ、そのシーンは物語としては序盤ですからね。

寺井:コミュニティは決して多様なだけじゃないんだけど、彼が最後にそのことに気づいたか気づいてないかは作中では語られていない。多分気づかずに「多様な人がいて楽しかった」と言って最後は出ていく話なのかなとは感じた。

西本:でも、そもそもコミュニティに永久に身を捧げようとしたんじゃないよね、彼は。

寺井:そうそう。楽しむだけ楽しんで抜けたとも言える。だからもしも山田孝之が赤羽を出て行かなかったら「まちづくり論」的にはすごくいいドラマだったけど、そもそもドラマとしては成立してないかもしれない。

西本:このドラマは「まちづくり論」でも「コミュニティ論」でもないからね(笑)。彼にとっては、(赤羽は)入退可能な1つの「アソシエーション」なんだよ。行けたら行くし、楽しかったら楽しむし、帰りたかったら帰るっていう。


『北区赤羽』第12話(最終話)「山田孝之、赤羽を出る。」予告編

「アッパー系鬱」だからこその魅力

――どちらの作品も、主人公が病を持っているということだったんですけど、そこにまちづ社やその代表の寺井さんが重なる部分もあるんでしょうか?

一同:(笑)。

寺井:僕はそりゃ病んでるとは言いたくないけど、でも松戸に拠点を移す前はもともと渋谷方面にいて、逆ギレみたいな感じで行ってるから、なんかもう相当よくわからない精神状態で行っているのは事実です。山田孝之的なああいう感情……病んでるっていうか、「アッパー系鬱」みたいな。う~ん、でもあんまり、マックスみたいな病み方はしたくないな(笑)。

小田:たしかに(笑)。『北区赤羽』に関して言うと、鷹匠との合コン(第4話「山田孝之、鷹になる。」)のときに、山田孝之の実のお姉ちゃん2人が出てきて、「今の山田くん、どうですか?」という話になって「いや、あんなもんじゃないですか? 通常運転ですよ」みたいなことを言っていて。終盤でも綾野剛が赤羽に来て、山田孝之が近況を話したら「え、全然普通じゃん。良くなるイメージしかないよね」みたいなことを言っていた(第8話「山田孝之、綾野剛と語る。」)。
 寺井さんがMAD Cityを始めるという時期に松戸でトークショーがあったんですが、そこで某大御所に「こんなところでまちづくりやってないで江戸川にカフェでもつくった方がいい」とかボロカス言われたときに自分が「ふざけんなよ、全然いいじゃねえかよ。お前にわかってたまるか馬鹿野郎」って思ったこととこれが個人的に重なって。寺井さんがやるって言うならやるだろうし、絶対面白くなると思うんだろうな、って思った自分の感覚とすごく似ているんです。

『北区赤羽』公式ウェブサイトより(スクリーンショット)

『北区赤羽』公式ウェブサイトより(スクリーンショット)

 僕らまちづ社はいろんな仕事をしていく中で、キーパーソンに対して深くインタビューすることをすごく大事にしているんですが、そのインタビュイーとなるキーパーソン――僕らはプレイヤーと呼んでいるんだけど――の基準としては、「あいつやべえよ、アッパー系欝だから放っとこうぜ」と言われてる人ほど面白いことをやろうとしている可能性が高い、ということです。
 だから、山田孝之が俳優でも何でもなくて、ただの赤羽好きの兄ちゃんだったとしても、「俺は赤羽行ってちょっと自分取り戻して、何かやりたいんすよ」って言っている人に対して、周りの人たちは「あいつただのヤバいヤツだよ」って言ってても、自分たちは「面白いじゃないですか、一緒に何かやりましょうよ」みたいなことを言えるようにはしたい。

西本:さっき小田くんが寺井にイモータン・ジョーになってほしいって言ったのは、どうでしょうね。

小田:あははは。やっぱりイモータン・ジョーになって殺されるまでが寺井さんの使命だと思うよ。

寺井:「アソシエーションデザイン」という言葉の本質は、それぞれのプレイヤーの主体性とか自立性といったものが発揮されたときに創造的な何かしらのエネルギーが生まれるんだっていうところにあって。それって「いいよね、いいよね」と周りが後押しすることで生まれる側面もあるのかもしれないけど、その一方で「それは違うよね」とも僕の中では思うんです。
 『マッドマックス』の話に落とし込むと、フュリオサが反乱するようにイモータン・ジョーが仕込んでいたんだとしたら、イモータンは最高に偉いなって思う(笑)。「フュリオサが次の世界をつくるために、俺はもう死ぬ」っていう。作用と反作用というか、ぶん殴ったらぶん殴り返されて、それによってイメージが湧く……みたいな。まちづ社においても、実際にまちづくりの現場でそういうことがあったりしたわけですよ。それは良し悪しの両面があるから語りづらいのだけど……。クリエイティビティみたいなものが発生したときに、自分で反撃するとか、壁をぶち壊していくみたいなことによってしか主体性が生まれないのだとしたら、「イモータン・ジョーが殺されろ」っていうのはある意味正しいと思う。そのぐらい考えて、タフにまちづくりに邁進したいなと思いますね、大変だけど……。

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「アソシエーション」と「コミュニティ」を接続するやり方

西本:『マッドマックス』は、MAD Cityを再構築するのに大切な要素が本当はたくさんあるのかもしれないね。

小田:とりあえず、最初のまちづ社オフィスの前の通りを「Fury Road」って付けたらいいのかも(笑)。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の原題は「Fury Road」だから。

寺井:(笑)「Fury Road」にしましょうっていうのは結構面白くて。ちなみにその通りは、松戸市の駅前のまちづくり計画の中で悲願とされている「シンボル軸」という位置づけがされてるんですよ。松戸のシンボルとしての800m、ということになってる。そこが緑化されて、松戸の人間の心のふるさとである江戸川の河川敷にたどり着く、ということが(計画の中では)明記されているのに、実際は長らく誰にも触れられず、何も変わらないっていう道。だから、「シンボル軸」という風に計画上松戸市が呼んでいたものの名前を「Fury Road」に変えるというのは結構正しいと思う。
 何が言いたいかというと、1つのものを読み替えるという作業によってアイデンティティを重ねていくことが、アソシエーションとコミュニティを接続するやり方になるんです。

小田:なるほど。

寺井:だから、ロゴをつくったり名前とかも付けたらいい。そして宣言したりして、地元の人間が「Fury Road」って呼べば、シンボル軸がもっと活きるかもしれない。

小田:今回の僕らの話は、まちづクリエイティブがやっているわかりにくい物語を、『北区赤羽』と『マッドマックス』にたとえて、「この中間です!」っていうことで。

西本:そうだね。こういう、人の生活をつくるという実はとても大きな問題と接続していることに気づかせてもらえたというか。じゃあ、具体的に何をするのかっていうことは、私たちに課せられた課題だよね。

小田:じゃあ今回の結論としては、例の道をフューリーロードと名付けましょう、ということで(笑)。

一同:(笑)!

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[「アソシエーション」と「コミュニティ」をつなげるやり方 了]

●来年よりゲストを招いた「アソシエーションデザイン つづく世界のつくり方」とまちづくりをめぐる対談シリーズがスタートする予定です。ご期待ください!

構成:二ッ屋絢子、後藤知佳(numabooks)
取材・撮影:後藤知佳(numabooks)
編集協力:大野あゆみ
(2015年5月18日/8月13日、RAILSIDEにて)


PROFILEプロフィール (50音順)

まちづクリエイティブ(まちづくりえいてぃぶ)

松戸を拠点としたMAD Cityプロジェクト(転貸不動産をベースとしたまちづくり)の他、コミュニティ支援事業、DIYリノベーション事業を展開するまちづくり会社。 http://www.machizu-creative.com/ https://madcity.jp/

寺井元一(てらい・もとかず)

株式会社まちづクリエイティブ代表取締役、アソシエーションデザインディレクター。早稲田大学卒。NPO法人KOMPOSITIONを起業し、アートやスポーツの支援事業を公共空間で実現。まちづクリエイティブ起業後はMAD Cityを立ち上げ、地方での魅力あるエリアの創出に挑んでいる。

小田雄太(おだ・ゆうた)

デザイナー、アートディレクター。COMPOUND inc.代表、(株)まちづクリエイティブ取締役。多摩美術大学非常勤講師。2004年多摩美術大学GD科卒業後にアートユニット明和電機 宣伝部、その後デザイン会社数社を経て2011年COMPOUND inc.設立。2013年に(株)まちづクリエイティブ取締役に就任、MADcityプロジェクトを始めとしたエリアブランディングに携わる。最近の主な仕事として「NewsPicks」UI/CI開発、diskunion「DIVE INTO MUSIC」、COMME des GARÇONS「noir kei ninomiya」デザインワーク、「BIBLIOPHILIC」ブランディング、「100BANCH」VI・サイン計画など。

西本千尋(にしもと・ちひろ)

株式会社まちづクリエイティブ取締役、ストラテジスト。 埼玉大学経済学部、京都大学公共政策大学院卒業。公共政策修士(専門職)。株式会社ジャパンエリアマネジメント代表取締役。公共空間の利活用、古民家特区などの制度づくりに携わる。


PRODUCT関連商品

メイキング・オブ・マッドマックス 怒りのデス・ロ-ド

Abbie Bernstein (著), 矢口 誠 (翻訳)
大型本: 167ページ
出版社: 玄光社
発売日: 2015/7/21