COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2015年8月「紀伊國屋書店が村上春樹氏の新刊を買い占め」など

takano
 鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などをコメントしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、著しく電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

◇ ◇ ◇

2015年7月29日 電子書籍関連で信頼性の高い調査報告。今回から、スマートフォンユーザーを対象とした調査もやっています。PC調査(n=54,634)の電子書籍利用率が29.3%(有料13.5%+無料15.8%)なのに対し、スマートフォン調査(n=11,043)は39.5%(有料15.5%+無料24.0%)です。この差は、「comico」「LINEマンガ」「マンガボックス」「少年ジャンプ+」などの無料マンガアプリが強いのもありますが、PCブラウザで無料閲覧できるWebコミック系は「電子書籍」として認識されていない可能性もありますね。

インプレスによるプレスリリースより(スクリーンショット)

インプレスによるプレスリリースより(スクリーンショット)

2015年8月3日 海賊版撲滅を目指す赤松健さんの活動が、大きくグレードアップ。私も取材に行きました。従来は、絶版になった作品やマンガ誌に掲載され単行本になっていない作品に限定されていたのですが、今回のリニューアルで「プロ・アマチュアを問わず」になりました。誰でも投稿でき、広告収益は100%投稿者に還元されます。

プレス発表会の様子(撮影:筆者)

プレス発表会の様子(撮影:筆者)

2015年8月6日 「comico」のNHN PlayArtが出版事業へ参入。従来は他の出版社に書籍化を許諾する形でしたが、今後は自社で書籍化、流通業務は双葉社が担う形になります。なお、NHN PlayArtは10月1日から会社分割し、電子コミック・ノベル事業を中心とした「comico株式会社(仮)」、スマートフォンゲーム事業の「NHN PlayArt株式会社」、PCオンラインゲーム事業の「ハンゲーム株式会社(仮)」という体制になります。本気ですね。

2015年8月1日 「保護期間延長」「非親告罪化」「法定賠償金制度」と、著作権関連ではアメリカの言いなりになっているかのような報道が続いていたTPP交渉ですが、今回も合意見送りです。複数国家間の利害調整って、難しいですね。なお、「コミックマーケット88」では「TPPとコミケ」をテーマとし、漫画家の赤松健さんや中川隆太郎弁護士などが登壇したシンポジウムが開催されました。

2015年8月19日 『週刊少年サンデー』が、生え抜き新人作家の育成を優先する編集方針に切り替える宣言文を掲載。ナタリーに掲載されている新編集長・市原武法さんへのインタビューでは「藤田和日郎先生、西森博之先生、久米田康治先生。この3名には一刻も早く帰ってきてほしいと思っています」というラブコールが。一般社団法人日本雑誌協会が発表している印刷証明付き発行部数によると、『週刊少年サンデー』は2015年4月~6月の1号あたり平均で38万8417部。この方針変更によって、復活できるでしょうか。

「新世代サンデー賞」の募集ページより(スクリーンショット)

新世代サンデー賞」の募集ページより(スクリーンショット)

2015年8月19日 ウェブサイトへリンクを貼ったら、著作権侵害幇助とみなされた事例。出版社の従業員1名と、編集プロダクションの従業員2名が検挙されています。怖いのは、著作権法が改正された2012年以前に張ったリンクであっても、リンクが現在進行形で生きていれば「幇助」とみなされる可能性があること。心当たりがある方は、ブログなどの過去投稿をチェックし直した方がいいかも。

2015年8月20日 紙版が発行ベースで239万部なので、実売部数とはいえまだまだ電子の市場は小さいことが痛感できます。プレスリリースで興味深いのは、1万ダウンロードを超えているとして名前が挙がっている4ストアがKindleストア、Reader Store、iBooks Store、楽天Koboの順で表記されていたこと。売れてる順なのかな?

2015年8月21日 1年以上ずっとベータ版だった「マグネット」がついに正式オープンしました。エンジニア草野翔氏と、代表の佐渡島庸平氏へのインタビュー記事。さっそく試してみたのですが、誰でも簡単に使えること(有償配信する場合は申請が必要)、印税配分機能が用意されているので複数の著者でコラボしやすいこと、固定レイアウトEPUBの制作ツールとして使えるところが良いと思いました。

2015年8月21日 資本がある小売店しかできない力技。これを、再販売価格が例外的に拘束できる(いわゆる再販制度)書籍のような商品でやるのはどうなんでしょう? 噂によると、紀伊國屋書店購入分から取次を経て他書店へ流通する場合の条件は「買切・卸正味は通常とほぼ同じ」とのこと。返品できない分リスクが大きいので、中小書店は仕入れるのをためらうでしょう。「(版元の)スイッチ・パブリッシングさんから直接仕入れます」と言ってる書店もあります。紀伊國屋書店は大日本印刷(DNP)と合弁で出版流通イノベーションジャパンを設立していますから、DNP傘下の丸善ジュンク堂や文教堂といった大手書店は仕入れることでしょう。しかし、中小書店にはあまり並ばず、ネット書店ではほとんど買えないとなると、多くのユーザーにとってデメリットの方が大きそうです。何のための再販制度なのでしょう? ユーザーが置いてけぼりになっていませんか?

2015年8月26日 ゲームキャラクターを無断で『ハイスコアガール』に登場させているのは著作権侵害だとして、いきなり刑事告訴し、家宅捜索や書類送検にまで至った事件。知財の専門家から「著作権侵害の成否が明らかでない事案について刑事手続が進められることに反対する」という声明まで出ていたわけですが、無事に和解へ至ったことを喜ばしく思います。作者の押切蓮介さんもホッとしていることでしょう。Ledo MillenniumがSNKプレイモアの大株主になったことで、強硬路線から転換したみたいですね。

『月刊ビッグガンガン』作品紹介ページより(スクリーンショット)

『月刊ビッグガンガン』作品紹介ページより(スクリーンショット)

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 8月もいろいろ興味深い動きがありました。さて9月はどんなことが起こるでしょうか。

 
 ではまた来月(=゚ω゚)ノ

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2015年8月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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