COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2015年9月「TSUTAYA図書館で選書問題」など

takano
 鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などをコメントしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、著しく電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

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2015年8月28日 7月のまとめでピックアップした、「BookLive! for Toshiba」(「BookLive!」へ統合)や富士通「BooksV」(サービス終了・hontoポイントで購入全額を補償)とは異なり、事業継承によりサービスはそのまま存続されます。ちなみにU-NEXTの代表取締役社長は、USEN会長の宇野康秀氏です。

「BookPlace」トップページ(スクリーンショット)

BookPlace」トップページ(スクリーンショット)

2015年9月3日 武雄市図書館リニューアル時に入れ替えた1万冊は、CCC傘下の古書店ネットオフから調達したことが明らかに。その後の武雄市教育委員会の釈明によると、リニューアル時に書架を高層化したため、緊急で本の落下防止対策が必要となり、図書購入予算を削って対策、古書購入でコストカットした、という経緯だった模様。そして、武雄市図書館と同じくCCCが指定管理者となり10月1日にリニューアルオープンを控えた海老名市立中央図書館でも、同様の選書問題が発覚。小牧市の計画は、是非を住民投票することに。なんだかもう、あちこちで大変な騒ぎになっています。

武雄市図書館 公式ウェブサイトより(スクリーンショット)

武雄市図書館 公式ウェブサイトより(スクリーンショット)

2015年9月7日 歴史的発見ということでピックアップ。佐藤春夫氏によるフィクションではないかとまで言われていた、太宰治氏の芥川賞懇願手紙が発見、事実であることが判明しました。しかし、有名人だと私信でも「歴史資料」として公開されちゃうんですね……なんだか気の毒です。

2015年9月9日 8月のまとめでピックアップした、村上春樹氏の新刊『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング)初版の9割を紀伊國屋書店が買い占めた件について、高井昌史社長がインタビューに答えています。Amazonに対するライバル心は抑え、返品率の異常さと利幅の薄さを解消していかねばならないという思いを吐露。なお、既に重版分も、初版と同様9割買い切りとのことです。私はこの本、ジュンク堂吉祥寺店で買いましたが、Amazonには本稿執筆時点でもまだ在庫があります。高井社長曰く「リアル書店とネット書店の売り上げ比は85対15から83対17ぐらい」とのことなので、1割あれば簡単には品切れしないのかも。ただ、他の報道によると、通常取引は返品可の卸正味77.5%なのに、今回の場合は買い切りで卸正味78%というシビアな条件を突きつけられた書店もあるようです。

SWITCH PUBLISHING『職業としての小説家』特設ページより(スクリーンショット)

SWITCH PUBLISHING『職業としての小説家』特設ページより(スクリーンショット)

2015年9月9日 BOOK☆WALKERの「BWインディーズ」に「著者センター」機能が追加され、直接作品を登録・配信できるようになりました。無料配信可能、最低価格は税込99円、ロイヤリティ50%、複数著者登録(ただし印税配分機能はない)など。KADOKAWA直営ということもありライトノベルが強い電子書店なので、他のセルフパブリッシングプラットフォームとは売れる作品の傾向が異なりそうです。

BWインディーズ「著者センター」トップページより(スクリーンショット)

BWインディーズ「著者センター」トップページより(スクリーンショット)

2015年9月10日 事前リーク通りの発表となりました。発売は11月。最廉価の32GB Wi-Fiモデルが799ドル。1ドル120円計算で約9万6000円。11インチMacBook Airより少しだけ安いのですが、オプションのキーボード付きカバーやスタイラスペンが高い。気になる重量はWi-Fiモデルが713グラム。私の持ってる第3世代iPadが650グラムなので、ほとんど同じ。年初に「600グラム切るのでは」という予測をしたのですが、さすがに無理でした。12.9型ならコミック単行本の見開きがほぼ実寸で表示できるはずなので、データの解像度さえ充分ならルビや欄外などの小さな字を、拡大しなくてもそのまま読めそうです。

2015年9月12日 後編と合わせてピックアップ。前編は、無料漫画アプリ連載作品が、単行本化されて売れている事例の紹介。後編は、既存の作品が無料漫画アプリへ再掲載され、単行本が再度売れるようになる事例の紹介。特に後編は、販売推移グラフを具体的なタイトルを挙げて紹介しており、非常に参考になります。こういう記事を、日販の方が書いているというのに、さらに驚き。「無料漫画アプリが紙のマンガ市場を奪うに違いない!」みたいな感情論を、データで封じ込める良記事です。

2015年9月14日 紙には載ってる佐々木希さんのグラビアが、電子版には載っていないとAmazonレビューが炎上。事務所の方針等の事情により電子版には写真が載らないケースは以前からよくありますが、今回の場合、表紙には載っているのに本文ではごっそり抜け落ちていたのが強い批判を呼んだようです。グラビアに続く特集ページ「an・anマンガ大賞」も、一切書影が載っていないのが痛い。Amazonは、炎上直後にKindle版の販売を停止、購入者に返金対応しました。Amazonはこういう時の対応が素早くうまい。なお、他のストアではまだ普通に売ってます。

2015年9月14日 取次業界では大阪屋・栗田出版販売に次ぐ太洋社が、ついに純損失。「ゲオ、TRCなどの帳合変更が大きく影響」とのこと。販管費を前年比19.1%減少させた上で営業損失7億1500万円って、来期どうやって立て直すんだろう。

2015年9月22日 アメリカの話ですがピックアップ。定額読み放題サービスのOysterが閉鎖され、創業者チームはGoogleに人材買収されたそうです。実は少し前に、ライバルのScribdも定額制モデルの転換を図っているという報道もありました。Amazonが定額読み放題サービス「Kindle Unlimited」を始めたのは2014年7月ですが、日本には未展開。音楽や映画は定額サービスが定着した感がありますが、本はなかなか難しいようですね。

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 9月もいろいろ興味深い動きがありました。さて10月はどんなことが起こるでしょうか。

 
 ではまた来月(=゚ω゚)ノ

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2015年9月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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