2015年2月。東京マラソンに向け、カゴメ株式会社と明和電機がコラボレーションを果たし制作された「ウェアラブルトマト」が発表されました。マラソンランナーが走りながらトマトを補給するためのウェアラブルデバイス――。その奇天烈なコンセプトとフォルムゆえに、ギャグプロジェクトの一言で片付けられてしまいかねないこのアイデアが実を結ぶまでの過程には、明和電機代表・土佐信道さん独自のロボット観が存分に活かされています。今回のプロジェクトにとどまらず、これまでの明和電機の製品づくりは、ウェアラブルという切り口や新しい技術に対してどのようなアプローチを続けてきたのでしょうか。掘り下げてお話を伺ってきました。
【以下からの続きです】
1/6:「明和電機は全然そっちの『ウェアラブル』ではないんですよ。」(2015年3月20日公開)
2/6:「納品前後は『エンジニアのトライアスロン』のようでした。」(2015年3月20日公開)
3/6:「『モダン・タイムス』の機械に隠された裏話を聞いた時、更にナンセンスだと思ったんです。」(2015年3月23日公開)
4/6:「機械がその機能にしか注目できなくさせてしまっているだけで、本質はもっと複雑なもの。」(2015年3月23日公開)
5/6:「AK47は明和電機の製品の対局にあるものですが、率直に悔しいなと思いました。」(2015年3月24日公開)
明和電機における制作の軌跡
――今回のウェアラブルトマトの企画でも拝見させていただきましたが、明和電機の作品づくりでは毎回スケッチを描かれています。そのアイデアスケッチの全体像を公開するプロジェクトであるスケッチライブラリーに関してもお話をお聞かせいただけますか?
土佐:明和電機の20周年記念として(2012年に)立ち上げた企画なんですけれど、毎回作品をつくるにあたって膨大なスケッチを描くことになります。毎回の作品ごとにファイリングしてまとめてあるんです。それを僕自身も整理したいな、また皆さんにも公開したいということからクラウドファンディングの仕組みを使ってスタートしたプロジェクトなんです(https://www.countdown-x.com/ja/project/J1225707)。
第一期のプロジェクトとして、全部のスケッチを整理してファイリングするところまでは終わったんですが、そこで資金が尽きてしまっていて、これからどうしようかな、と考えている最中です。こういったスケッチをどこに公開するのか、ということもまた悩ましい問題でして、画像をアップロードするだけならもちろん簡単なんですが、どういう形式でどこに上げることが良いのかを検討しています。
土佐信道のデザインプロセス
――土佐さんご自身は、ひとつのプロジェクトが終わったあとに、自分のスケッチを見返して、どうやって振り返ったりするんですか?
土佐:つくっている最中に描いているこういうものたちは、必死で進んでいる中で描いているものです。なんというか、排泄物のように描き散らしていくものなんですね。でも、終わってからこうやってファイリングなどをしてみると自分の思考のプロセスが見えてきます。必ずここでいつも迷っているなという発見もあったり、あとは意外と後半で出てくる重要な機構が前半のところに意外にも出てきていたな、というような分析ができるんです。また、これはひとつの製品の中での出来事が、別のものとの関連性もあることが発見できます。
例えば浮世絵って1枚の絵の中に沢山の物語や意味が入っていますよね? 着物の柄にも意味があって、それが別の絵にも関連していたりする。そういう意味のつながりとして観察できる、シンボルの固まりのようなものがスケッチなんですが、その関連性もわかるようなシステムができると一番理想ですね。
――オタマトーンのスケッチ(※本ページ下部参照)などを見ていると、ところどころにスケッチの端に短いコメントが見られたりして、創作の背後にある思考の断片のようなものを集めていくことで見えてくるものはあるんじゃないかなと思いました。
土佐:2013年の20周年記念の時点までのすべてのスケッチを無料で公開しようと考えています。
――スケッチライブラリーを通して、土佐さんが現状で捉えていらっしゃる自分なりのものづくりのプロセスとは、どのようなものですか?
土佐:大きく分けると最初に「拡散」があって、後半が「収束」です。で、拡散の時にはとにかく馬鹿らしいと思うことまでなんでも考えます。それはいわゆるアイデアスケッチの段階です。後半には設計というものが入ってきます。設計というものは、現実という定規を持って広がりすぎたアイデアをビシビシ切っていくという作業になります。そんな中、時々アイデアの事故が起こるときがあるんです。その事故というのは、最終的に行きつくはずの到達地点から、どんどん離れていく現象です。その時は、心の中ではよっしゃー!とは思っているんですけれど(笑)。最終的に、その事故に自分で気づき、方向転換をする、ということをやっています。
(以下、「オタマトーン」開発段階のスケッチより抜粋)
――最終的にはこうやって削ぎ落とされた最終的な形しか見てないわけですもんね。そこの過程を見てみたい、という気持ちはありますよね。かと言って、そこにはとんでもない行程があるわけですし、そこが垣間見える企画になるといいですね。今日はありがとうございました。
[明和電機にとって“ウェアラブル”とは ――明和電機代表・土佐信道インタビュー 了]
聞き手・構成:小原和也
1988年生まれ。慶応義塾大学大学院政策メディア研究科。株式会社ロフトワーク。
デザイン行為を支援するための発想方法の研究を行う。『ファッションは更新できるのか?会議』実行委員も務める。
(2015年2月19日、明和電機アトリエにて)
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