2015年2月。東京マラソンに向け、カゴメ株式会社と明和電機がコラボレーションを果たし制作された「ウェアラブルトマト」が発表されました。マラソンランナーが走りながらトマトを補給するためのウェアラブルデバイス――。その奇天烈なコンセプトとフォルムゆえに、ギャグプロジェクトの一言で片付けられてしまいかねないこのアイデアが実を結ぶまでの過程には、明和電機代表・土佐信道さん独自のロボット観が存分に活かされています。今回のプロジェクトにとどまらず、これまでの明和電機の製品づくりは、ウェアラブルという切り口や新しい技術に対してどのようなアプローチを続けてきたのでしょうか。掘り下げてお話を伺ってきました。
【以下からの続きです】
1/6:「明和電機は全然そっちの『ウェアラブル』ではないんですよ。」
トマトをウェアラブルすることの難しさ
――具体的なアイデアが固まり始めたときに、実際の開発の中で技術的に一番難しかったポイントはどこだったのですか。
土佐:まずいつものことなんですけれど、僕はアイデアスケッチが固まったら次は等倍のドローイングを描きます。この過程でイメージを固めて、ボリュームを見るんです。この段階で、トマトを口に運ぶことは難しくないなということはわかりました。ただ、非常に細かい話になってしまうんですけれど、このままだと背中につかんだトマトを前に持ってくるときに、トマトを落としてしまうんです。そこで「行き」と「帰り」では違う動きをする機構を考えました。
中の機構を開いてみるとわかるんですが、メカ全体の動力は今回はモーターひとつで、あとはからくり人形にもよくみられる「カム」でトマトを送り出す機構や腕を回す機構をすべてコントロールしているんです。非常にメカニックだけど、アナログな方法でやるということに苦心しました。
トマトを実際に装填して動かしてみると、想像以上にトマトはデリケートで破れやすいことがわかりました。当初は、ランドセルの中に積み上げてひとつずつ送り出せばいいやと思っていました。これは野球のボールだったら可能ですが、トマトだと送るときにぐちゃぐちゃにつぶれてしまいました。どうしようかと悩んで、これはもう部屋を分けるしかないと。そこで、キャタピラのようなベルトコンベアにひとつひとつ別の部屋にトマトを入れて、トマトを送るという機構に変えました。この設計が非常に大変でした。この部品は3Dプリンターでつくったんですけれども、これがなかったら完成していませんでしたね。図面はすべてCADで引きました。
ウェアラブルトマトを装着して走ってみた
――完成して、東京マラソンの前日のフレンドシップランでカゴメ社員の鈴木重德さんが実際に走られたということですが、土佐さんも一緒に併走されてみて実際にどうでしたか?
土佐:そもそも私は出場登録をしておらず、ゼッケンも付けずに鈴木さんに併走してしまったので、あとで東京マラソン財団の方に怒られました(笑)。頭の中では、メンテナンスとして後ろについていくことしか頭になかったので(笑)。
8kgの重さのあるものを担いで走るということで、鈴木さんはすごく大変だったと思います。僕の気分としてはF1レースのピットインクルー(整備士)のような感覚でしたね。後ろをついていっている感じが特にそうでした。また、当日に向けてもメンテナンスなどのために徹夜を続けていて、納品したあとにまた一緒に走らないといけないというのは「エンジニアのトライアスロン」みたいで、大変でした。
今回の企画が面白かったのは、これまでは自分でつくった機械を自分で背負ってやってきたので、壊れればその場で直せたりもしたんですが、今回はまさにF1のレーサーに託すような気持ちで、「壊れるな……、壊れるな……」と祈りながらついていく、という経験は面白かったですね。
――これまでに、ご自身がお使いになる製品以外で、今回のように他者の身体にあった製品をつくるということはあったんですか?
土佐:一品モノとしては初めての経験でしたね。肩のアジャスターなどで多少は可動しますが、基本的に鈴木さんの身体に合わせた形でつくっていますね。
――鈴木さんは実際に走り終えられたあと、なんとおっしゃっていましたか?
土佐:私が「よくこんな重いものを背負って走りましたね」と言うと「今そんなこと言わないでください」と言われてしまいました(笑)。
[3/6「『モダン・タイムス』の機械に隠された裏話を聞いた時、更にナンセンスだと思ったんです。」に続きます](2015年3月23日公開)
聞き手・構成:小原和也
1988年生まれ。慶応義塾大学大学院政策メディア研究科。株式会社ロフトワーク。
デザイン行為を支援するための発想方法の研究を行う。『ファッションは更新できるのか?会議』実行委員も務める。
(2015年2月19日、明和電機アトリエにて)
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