第9回「出版の体制とソーシャルメディア」(後編)
※前編からの続きです
日本でもこうしたチームを結成して、ソーシャルメディア時代のお客さんとのコミュニケーションを円滑にしている事例は出始めているのですが、実は、このチームには、意外なメリットがあります。
それは、「作る人」と「売る人」が近い位置に来て、対話が生まれるという点です。日本の大企業では、いつの間にか「作る人=商品開発担当」と「売る人=マーケティングや宣伝担当」といった人たちが分業されていってしまいました。今、お客さんが「こんなものが欲しい」と思っている声がきちんと商品開発担当に届かなかったり、逆に商品開発者の思いがきちんと広報に伝わらない、ということが頻発しています。実は、このチームがその壁を壊すチャンスを持っているのです。70年代、80年代、日本のメーカーがものすごい勢いで世界を席巻していた時代には、この分業がまだ完全に進んでいたわけではなかったからこそ(つまり、どこかで中小企業的な雰囲気が残っていて、部署を横断したコミュニケーションがあったからこそ)、良い商品の開発が出来たという説がありますが、今、会社の規模が拡大してしまったために、分業で別れてしまっていた人たちが、ソーシャルメディアを通して再び社内で出会い、部署を横断したコミュニケーションを改めて活性化していくチャンスが訪れているのです。
最近、ソーシャルメディアマーケティング界隈では、「コ・クリエーション」「MROC(マーケティング・リサーチ・オンライン・コミュニティ)」といった言葉が注目されています。これらはいずれも、お客さんの声を上手く商品開発やリサーチに取り入れていこうということを指しています。そうしたことを実現するためには、それぞれの分野での専門家を集めたチームでやる必要があるのです。
翻って、現在の出版業界のことを考えてみましょう。僕は、出版業界こそ、分業化が進みすぎてしまっているのではないか?と思っています。今の出版社には、編集部があり、宣伝部があり、広告部、メディア事業部、営業といった形で「分業」されていますが、売れる本を作ろうとした場合、営業からの企画がきちんと編集部に届かないといったことが頻発しているように思います。編集部がドアを閉ざしていて、他の部署が書籍の開発に関われないということもあるでしょう。全てを知っているわけではないのですが、出版業界の中こそ、コミュニケーションが不足しているのではないか?と僕は思っています。例えば、書店員が本の企画を出しても良いし、編集部の人が店頭で本を売っても良い。広告を受注する担当の人が宣伝の企画に参加しても良いし、新しいプラットフォームを作ってしまってもいい。
もちろん、出版社も、広報としてソーシャルメディアを使っていることはたくさんあると思うのですが、それは宣伝部や一部の広報が仕事の片手間で運用をしているだけであり(確かに規模の小さな出版社ではリソース的に難しいとは思うのですが)、社内に読者の声を共有して、お客さんのニーズをつかんでいこうといったムーブメントは起こってはいません。
現状、出版におけるバリューチェーンは、「作家」⇒「編集」⇒「宣伝」⇒「営業」⇒「流通」⇒「取り次ぎ」⇒「店頭」⇒「ユーザ」であった時代から、流通の部分から新たなプラットフォーマーが登場してきている中で、よりユーザの声を聞きやすくなってきていると思います。ビジネスモデルが大きく変わっており、何が敵で何が味方なのかも分からない、といった声も聴くのですが、商売の基本はお客さんの声を聴くことです。聴きやすくなっているということをチャンスと捉えれば、また違ったアプローチも思いつくはずでしょう。出版業界も、読者の声を「聴く」ための体制を作りながら、作る人と売る人との垣根を上手く取っ払いながら、より魅力的な商品開発=書籍作りをしていくことが重要なのではないでしょうか?
[もしも、あなたの本がソーシャルメディアだったら:第9回 了]
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