INTERVIEW

セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く

セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く
『わたくし版「宇治拾遺物語」現代語訳 第一巻』あやまり堂さん

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セルフパブリッシングの現在に迫るべく、Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)などで注目の作家にメールインタビューしていくシリーズ。今回は、鴨長明「方丈記」をユーモアたっぷりに現代語訳した『わたくし版「方丈記」現代語訳』が好評の中、先月『わたくし版「宇治拾遺物語」現代語訳 第一巻』をリリースした、あやまり堂さんに迫ります。

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作品紹介

kamoわたくし版「宇治拾遺物語」現代語訳 第一巻』は、
Amazon Kindleで立ち読みできます。

中世説話文学の傑作「宇治拾遺物語」の現代語訳、全15巻のうち第1巻です。
適当訳者あやまり堂が自身の勉強のため、ちょっとずつ、まじめに現代語訳にし、注釈をつけていったものです。
第1巻には「こぶとりじいさん」の原話や、芥川龍之介「芋粥」の原典ほか、教科書には載らない下ネタ、「隨求陀羅尼を額に籠める法師の事」「玉茎検知のこと」など、注目作がめじろ押しです。

著者プロフィール

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愛知県岡崎市出身。
現在は放送大学大学院在学中、専攻は日本近世(キリシタン思想)方面。
公式サイト http://ayamarido.otodo.net/

メールインタビュー

Q01・まずはじめに、性別やご年齢、お住まいの場所、ご職業など、お話しいただける範囲で構いませんので、自己紹介をお願いします。

こんにちは。あやまり堂の人です。よろしくお願いします。昨今、自己紹介あるいはセルフ・プロデュースほど重要なことは無いなあと思いつつ、性別男、年齢三十路、住まい愛知、職業あり、といったことを延々語ってみてもさしておもしろくもないと思われ、といって前にインタビュー回答されてた吉野茉莉さんみたいに、自己紹介なんて我が小説に関係ない、わしゃ自己紹介しない、ときっぱり言い切れるほどたくましくもなく、ちゅか隠すほどの人間でもなし、結局こんな中途半端なごたごたしい文体にしてへらへらする始末。あ、ところで「まずはじめに」は重言です。

Q02・あやまり堂さんが、電子書籍でのセルフパブリッシングに注目するようになったきっかけは何でしたか。

アメリカで話題のアマゾンKDPが日本でも始ったよ、早速やってみたよ、人気出たよという山田佳江さんのツイート、ブログを読んだことがきっかけで電子書籍に興味を持ったのは確かで、よし俺も電子書籍だ、人気者になってやるぜといくつか小説を並べたものの、挙句は、フフン、俺はセルフパブリッシングに向いてない人間なのさと強がりをいう始末で、とはいえ普通の小説は普通、読まれないということを最近、でもないですが感じているのは確かで、ならば、小説を並べるより需要あるものをと考えたとき、(つづく)

Q03・あやまり堂さんが、「わたくし版」シリーズの第一作『わたくし版「方丈記」現代語訳』を執筆されるに至った動機を教えてください。

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最初は「テキスポ」というサイト、次いで個人ブログにまとめていた「方丈記」の現代語訳、これは単純に「自分の勉強のため、現代語訳をやってみよう」と思いついたもので、随筆なれば古文といえども読みやすい。短いし、とにかく有名なわりに全文読んだことがないから読みながら現代語にしてみようと、かなり安易に始めたところが自分の予想を超えて日本語のうまさに惹かれ、またよく解らん故事人名を探って行くのが楽しい、楽しいとさくっと完成できたものがあって、これなればけだし電子書籍にして需要があると、まずこの「方丈記」を電子書籍にしたのです。(つづく)
 

Q04・続く第二作『わたくし版「宇治拾遺物語」現代語訳 第一巻』の執筆には、どのくらいの期間と時間がかかっていますか。

ところが調子に乗って、今度も「有名だけど全部を知らない古典」の中から宇治拾遺を選んだところ、なるほど第一巻は「方丈記」をやり遂げた興奮もあり、また第三話にいきなり「こぶとりじいさん」の原話が出てくるし、続けざまにとんでもない下ネタが出てくるし、こりゃ楽しい、すごいぞ宇治拾遺、やったぜ俺、と思いながらぱっぱと一ヶ月くらいで終ったのですが、そのまま全15巻197話つづける気力までは保てず、結局のところ、全部やりきるまでに3年かかりました。そうして3年費やして全訳した後で、今回、第一巻をKDPで電子書籍にし、はいこのインタビューを、というお話をいただいた次第なので、全部の全部にかけた期間といえば3年ですが、実質は1ヶ月余りでした。(つづく)

Q05・『わたくし版「宇治拾遺物語」現代語訳 第一巻』の制作過程の中で、もっとも苦労した点はどのような点でしたか。

それで思い返さずとも第一巻の構成を見れば、最後の「芋粥」がたいへんだった、というのは単純に話が長いからで、ほとんどここで挫けかけてましたが、そういう物理的な問題でなく、苦労したというか気をつかった点をあげれば各話の注釈で、これが楽しい、というか調べ始めると止らないので、苦しかったです。ほかに苦労した点といえば、過去に訳した日本語を読み返して行く作業と電子書籍に当っての体裁調整で、まー、これはどなたでも同じことかと思われます。

Q06・「わたくし版」シリーズの発表から今に至るまで、読者からの反応や、ご自身で感じている手応えなどがあれば教えてください。

ブログに掲載していたもので、読者からの反応といえば「××の訳文はどこですか、まだですか」という、宿題中の中学生、高校生らしき訴えばかりで、完成させた今となれば、ほとんどコメントをいただくことはありません。が、今でも日々200とか300とかのアクセス数があると出ますので、その数字を見るのは、いつまでも楽しいです。
「方丈記」でいえば、「ニートの愚痴」というあたくしの印象が共感されている気がしてうれしく、小さな家に閉じこもって悟った顔で世間を批判し、好きなものだけに囲まれ、時々寵童を連れて遊び歩く鴨さんは、ニートの教祖と言って良いでしょう? と今でも思うております。

Q07・『わたくし版「宇治拾遺物語」現代語訳 第一巻』をセルフパブリッシングするにあたって、参考にされた本やサイトなどがあれば教えてください。

はい。
近代デジタルライブラリー『宇治拾遺物語註釈』三輪杉根, 三木五百枝 註釈 (誠之堂, 1904)これをよく参照しました。あとは、Japan Knowledge経由で、日本古典文学全集「宇治拾遺物語」と「国語大辞典」。

Q08・あやまり堂さんが書き手として、影響を受けていると感じる作家や作品などがあれば、教えてください。

吉川英治、石川淳、筒井康隆、阿川弘之、桂枝雀、里見弴。
基本的に死んだ人が好きです。

Q09・DOTPLACEでは「これからの編集者」という連載を通じて、セルフパブリッシング時代の編集者の役割についても考えています。もし、作家としてのあやまり堂さんのことを新たにサポートしたいという編集者が現れたとしたら、その人に期待したい役割は何ですか。

ほうほう、セルフ・プロデュース方針についての助言、ってのはこのご時世、たいへん貴重になると思われます。「あなたの作風から考えるに、これから、こんな感じで宣伝していったらどうですか」という感じの提案。宣伝そのものは、どうせ作者が自分でしなきゃならんのですが、何をしたら効果的か、どんな方法が自分に向いているか分らん人は多いと思います、などと、今さらまじめに答えてみました。
ちゅか、おもしろそうな連載をされてるのですね、存じませんでした。これから拝読します。

Q10・『わたくし版「宇治拾遺物語」現代語訳 第一巻』が、今後、紙の本として書店に並ぶとして、この本の隣に並べて欲しいというような本を、3冊挙げてください。

これから第2巻以降をつくって行きますので、いつか全15冊ずらっと並んだら壮観ですけど、並べてもらえないですね。
個人的には、日本の古典、宇治拾遺だけでなくあまり知られてないものが現代風体裁でたくさん出版された後、いっしょに陳列してもらえたら嬉しいです。が、需要も供給も乏しいと思われるので、とりあえず供給を、いつか自分でやりたいですね。

Q11・次回作の構想がありましたら、お話しいただける範囲で教えてください。

「宇治拾遺」とはあまり関係ないですが、短期的には、笑える小説を書きたいと思うております。この一ヶ月ほどで続けて、「てきすとぽい」に3編、読者が笑えるよう企図して『サンタの逃走』『中食論』『発酵人種』というのを書きましたが、なかなかに奥深く、くすっと笑える程度でなく、書きながら自分で噴き出してしまうレベルの話を書きたいと思い続けてます。今度、年末締切りで、最前挙げた山田さんや、旧「てきすぽ」に集っていた人たちに声をかけて、同人誌『てきすぽどーじん7号』を作る予定ですが、そこへひとつあたくしも、とびきり笑える話を書きたいです。
「宇治拾遺」について言えば、これから第2巻以降を電子書籍にするとともに、英訳版をこしらえてKDPにしたいと考えてます。”Ten Tales from Uji-Shuui Monogatari” とかいう題名で、10話くらいの抜粋をこしらえる予定ですが、甲斐があるか無いか、「海外進出!」を体験したいです。

Q12・あやまりさんが注目していて、このコーナーで取り上げてほしい、ほかのセルフパブリッシングをされている作者がいらっしゃいましたら、教えてください。

今度の「てきすぽどーじん」へ、自分で描いた挿絵付のラノベ小説を載せようと格闘されてる松浦徹郎さん。
山田佳江さんとコラボで小説電子化した『フリーズドライ』とかの雨之森散策さん。
「てきすぽどーじん」の人たちですね。

Q13・最後に、このインタビューの読者の方に、メッセージをお願いします。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました、と言って普通に締めくくるのはこのご時世いかにも可惜なことで、よしここまで読んでくださった読者がいるなら、彼らはこの後何を書こうが最後まで読んでくださるに違いない、うへへ、よーし、これから十万字を費やす大長編の「ラスト・メッセージ」を述べ立ててセルフ・プロデュースの一助にしてやるぜ、と息巻いたところで実は訴えることも無いので、結句、以上読んでいただきまして、たいへんありがとうございました、ちなみに現在は、長編のロボットものSFを書いております、とまるで脈絡ないことを呟いておしまいに致します。ありがとうございました。

(了)

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