INTERVIEW

〈ゆとり世代〉の編集者

〈ゆとり世代〉の編集者
第1回:武田俊 2/4(KAI-YOUディレクター/1986年生まれ)

ゆとりバナー21980年代後半以降に生まれた〈ゆとり世代〉周辺の若手編集者にインタビューしていく「これからの編集者」スピンオフ企画。
第1回目は、ポータルメディア「KAI-YOU.net」などを手がける、今最も“POP”なメディアプロダクション・KAI-YOU LLC.ディレクターの武田俊さん(1986年生まれ)です。

※下記からの続きです。
第1回:武田俊(KAI-YOUディレクター/1986年生まれ)1/4

takeda_face02(▲武田俊さん)

◆「ポップかどうか」だけが基準

――“ポップポータルメディア”と銘打たれたニュースサイト「KAI-YOU.net」が今年の3月にオープンして、今現在のKAI-YOUの活動の1つの軸になっていると思うんですが、その編集方針はどのように定めているんですか?

武田:まず先ほどお話したように、僕らは「ポップ」という曖昧なものをたとえば「文脈依存していないもの」ととらえています。「KAI-YOU.net」では大別すると、独自に取材を行ったオリジナルコンテンツと、日々更新するニュース記事が主なコンテンツです。オリジナルコンテンツに力を入れるのは当然ですが、ニュース記事もジャンル横断的に1日に10個弱ぐらい更新しています。というのも、Webメディアだからこそ、文脈に頼らない「新しさ」という価値を大事に思っているから。なので、ネタをどう選ぶべきかという意識や方針は、部内でかっちりと共有していますね。

もう少し踏み込んでいえば、大きく分けて2つの方法があると思っています。まずは取り上げるべき対象が、単純に文脈依存度が低い=ポップなコンテンツであること。例えば、最近多くの方に見て頂けた現役中学生イラストレーター・金子開発さんのインタビュー記事は、金子さんのイラストのクオリティの高さももちろんですが、金子さんを知らない人にも、若い才能が与える衝撃という点で注目していただけました。
もう1つの方法は、文脈依存度の低い届け方を考えるという方法。例えばアニメのレビューをやろうという企画があっても、普通にただレビューしていてはアニメファンの人にしか見てもらえません。でもこの記事(「オタク女子が選ぶ! 男子と観たい名作アニメ10本」)のように「編集」すれば、アニメ好きな女の子の気持ちが見えるコンテンツとなり、より多くの人に届きうるものとすることができるんです。

――KAI-YOUのトップページに「本・文芸」「情報化社会」「アニメ・漫画」「イラスト・アート」「音楽・映像」「エンタメ」という6つのカテゴリがありますが、その分け方はどのようにして決まったんですか。

kaiyou_top(▲「KAI-YOU.net」トップページ)

武田:まずローンチする前に、どういったカテゴリにすべきかみんなで考えました。そこでもジャンルを横断して見てもらいたいという意見が強くあり、少し工夫しています。「アニメ・漫画」でセットにしているのも、本来なら例えば「本・マンガ」とするのが分かりやすいかもしれないし、単独でもいいのかもしれない。でも「アニメ・漫画」をセットにすれば、そのタグで見たアニメファンなら、とりあえず1つ隣の漫画の情報も入手できる。「本・文芸」カテゴリを見てみても、出版業界や書店に関するニュースもあるんだけど、そこに文芸のニュースも入れる。そうすることで、自分は文芸が好きだと普段は思っている人が、より広い領域で出版全体を考えるきっかけを与えることができるかもしれない。
あとはどれだけ“引き”のあるものを常に置いておけるか、というのも大事な気がします。ニュース記事だけじゃなくて、独自の取材記事なんかは時間が経っても継続して見られることが多いです。
市原えつこさんに「セクハラ・インターフェース」について取材した今年の6月の記事は、実際に今でも継続的なアクセスのある記事の1つです。この間、WIREDのクリエイティブハックアワードに市原さんの作品がノミネートされるなど、その後のご活躍もあいまって、いきなりアクセスがバコーンと上がることもありますね。なので、ニュースは出し続けながらも、どんどんオリジナルコンテンツをつくっていきたいです。
◆世界と遊ぶ人たちのためのブランド

――KAI-YOUとしての今後の目標はなんですか。

武田:今はまだ準備中なんですけど、次はオリジナルのプロダクトを展開したいと思っています。他のポータルサイトでも物販機能を持っているところはたくさんあると思うんですけど、そういうサイトを今から追いかけても遅いので、ちょっとやり方を変えよう、と。
まだ詳しくは話せないのですが、簡単に言うと「KAI-YOUのストアで、おすすめのクリエイターのアイテムが買えますよ」という見せ方ではなく、KAI-YOUとして、1つの世界観を持ったブランドを立ち上げようと思っています。

――KAI-YOUが以前設立されたビジュアルレーベル「Recode」では、所属クリエイターの作品をモノとして買えるような状況をつくっていましたが、それとも繋がってくるんでしょうか。

武田:そうですね。「Recode」で利用している、提携印刷会社とともに独自に作品をつくり流通させる仕組みを活かすこともできます。「KAI-YOU.net」はポータルサイトとうたっていながら、ポータル性をまだ100%活かせていないので、プロダクトを展開していくという施策を含めて、さらなる充実化の施策を開発・企画中です。実際に展開する商品は、エディションの付いている「作品」でもいいですし、書籍でもアパレル商品でもいい。コンセプトにマッチしていて、実際に僕らが制作できるものであれば、これもまた形態にこだわるつもりはないです。

takeda_office02(▲ビジュアルレーベル「Record」でも販売していた
イラストレーター・TOKIYAさんの作品)

 

◆「ゲームが完全に変わっちゃった」あとの世代

――「〈ゆとり世代〉の編集者」というインタビューシリーズは、これが第1回目なんですが……自分と同世代の人――1980年代後半より後に生まれた人たちの特徴って、ざっくり言うと武田さんは何だと思いますか。

武田:まず、「スタンダード」がないっていう感覚はあると思います。僕らが就職した時って、多分、スタンダードがなくなりつつある時期だったと思っていて。特に僕が体感しているのは、自分の生まれた年度っていうのは、“浪人しないで4年で大学卒業”していると、就職活動の時期は最も売り手市場だった学年だったんですね。ちょうどリーマン・ショックの前年の2007年が就活の時期で、みんな普通に就活して企業に入っていた。僕は1年休学していたので、ほとんど就活の事なんて分かんないな〜と思っていたら、その矢先にリーマン・ショックが起こって、そこから全くの無理ゲーになってしまって。で、その後3年して、東日本大震災も起こると。なので、ゲームやルールが完全に変わっちゃったんだと思うんですよね。
それで、逆に開き直っているのか、「じゃあ好きな事やればいいよね」っていうスタンスの人たちが、同世代か少し下の世代にすごく増えた。自分で会社を興してみたり、フリーランスで働いてみたり……。自分と周りの環境をおもしろくする、っていう発想の人が多い。
以前、僕の5〜6個くらい上の今32〜3歳の先輩から、「自分たちはマスメディアから欲望を突きつけられていた最後の世代だ」と言われました。つまり、「いい会社に入って、金稼いで、いい車乗って、美人なねーちゃん連れて、いいメシ食う、そういうのがカッコイイ」みたいな価値観を与えられたのが、その世代で最後なんだ、ということです。そう考えると、確かに僕には特にそういうものがない。「みんなが欲しいと思うもの」に対して一定の興味関心はあっても、死ぬほどそれを掴み取りたいというほどの欲求がない。その先輩は僕らの世代に対して「『自分はこういうものが好き』という事との付き合い方が、すごくスマートで自由だよね」みたいな事をおっしゃっていて。確かにそれはそう見えるのかもな、と思いました。

――「スマート」っていう捉えられ方になるというのが、結構驚きです。

武田:「みんなが欲しいもの」が基本的にあまりないのって、多分、単純にインターネットの影響が大きい。まず物心ついた時から、個人の価値観と商品のラインナップが多様化しまくった情報環境が前提としてあって、その中から自分の興味あるものを検索して、それを一覧するということができた。そうすると当然「好きなものを選んでいればいい」「好きなものが近い人と繋がっていれば楽しい」ってなりますよね。もちろんそこには良い面も悪い面も、両方あると思うんですけど。

――「自分の好きなものを検索する」っていう行為までは、おそらく上の世代とも共有できると思うんですけど、「自分と同じものが好きな人と“繋がる”」っていう部分のハードルの低さが、この世代は圧倒的に異なるなと思っています。実際に、KAI-YOUと一緒にお仕事をされている周辺の同世代のクリエイターの方々だけでも、相関図がかなり明確に描けると思うんですよ。一繋がりのインターネットを介したコミュニティというか……。

武田:僕は、メディアをつくる以上、ある程度コミュニティをつくらなきゃいけないと思うんですが、それが1つの、閉じたものではなく、フレームがあいまいでぼんやりとした「シーン」としてつくれるといいなと考えています。「こういう内容のイベントがあるから行くよ」っていう動機はもちろんなんですけど、「KAI-YOUがイベントやるから行くよ」「KAI-YOUが展示やるなら見るよ」という動機で足を運んでくれて、そこで新しく作家やミュージシャンを知る、っていう回路をもっとつくるべきだと思っています。それは個人のリソースではなかなかできない事なので、会社の枠で着実につくりたいです。

――今、この瞬間にもすごいスピードで、そういったクリエイターのコミュニティがつくられたり、逆に分離したりを繰り返していると思うんですが、武田さんご自身はその中でどういう存在として在りたいと思いますか。

武田:そういう形成のスピードが早いのは良いことだと思います。新陳代謝が活発なほうが権威化しづらくて健全だし、結果的に良いもの、求められるものが残るから。僕らとしては、クリエイターがKAI-YOUとタッグを組むことで、本来ひとりでは到達できなかったかもしれないシーンで仕事ができたり、文脈を飛び越えて受け手におもしろいと思ってもらえるような状況を、イベントなりモノをつくったりということを通して実践したいですね。そのクリエイターの持つ「良さ」をブーストさせたい。そうすることで、このなにかとシュリンクしがちな現状の市場を変えなきゃヤバいと思っています。
takeda_office03

 

◆過去を参照して未来を想像する事が、あまりに無意味になっている

――紙の雑誌をつくられていた時に、「想定読者層を“つくる”」とおっしゃっていたと思うんですけど、始めた当初と比べるとそういった人々が増えたという実感はありますか。

武田:増えているとは思いますけど、もっと球を遠くに投げなきゃいけないです。

――例えば10年後とか20年後に、どうなっていたいというビジョンはありますか。

武田:最初にこのインタビューの企画書を読んだ時から考えてたんですけど……僕、あんまりそういう、長期的な考え方をできないタイプなんですよね。もちろん会社の事業計画のレベルではつくれますよ。来年の予算とか売上予想とかを「こんな額にはしたいよね」とか「3年後これぐらいまで行けてて、社員はこれぐらいいるといいよね」とか考えられるんですけど、5年後ってなると一気に想像がつかなくなって、理想的なモデルから逆算していくしかない。
例えば売上高がこれくらいあって、だから社員が数十人はいなきゃで、自社のメディアが充実した状態で回っていて、その上で本やプロダクトも満足いくレベルで数もつくれている……みたいな「こうあるべき」っていうビジョンはあります。けど、多くの人がTwitterを始めた時期が2009〜10年だとして、それ、たったの3年前ですよね。もう、全然状況が違うじゃないですか。3年後はむしろ、Webメディアという存在自体が違うものに形を変えているかもしれません。
もちろん、コンテンツをつくるという部分ではそうとも言い切れないですけど、テクノロジーの領域に関しては、過去を参照して未来を想像する事が、あまりに無意味になっている。
だから、波に乗り続けるって事でしかないんじゃないですかね。1回乗った波が楽しければチャプチャプやって、少しずつでもみんなでデカい波にするとか。

――KAI-YOUを、組織として大きくしていきたいというような思いはありますか。

武田:それはあります。ただもともと僕はビジネスを大きくしてガッポリ儲けたい、みたいな純粋な野心が持てるタイプではない。じゃあどうやって考えるかというと、僕らがビジョンに忠実に動いてやりたい事をやるには資金と規模感が必要で、そのためには会社を大きくする必要がある、と考えます。つまり、ビジョンが単純に方針や欲望に繋がっているというだけの話です。なので、着実によい仕事をして、信頼とキャッシュを得てステージを上げていきたい。だってお金って、社会と対面して何かを行うときの、コミュニケーションツールですよね。だからこそ純粋に、お金があればもっとおもしろいこと/できることがいっぱいあるなって思います。

「武田俊(KAI-YOUディレクター)3/4」に続く(2013/10/17公開)

 

【プロフィール】
武田俊(たけだ・しゅん)

1986年、愛知県名古屋市生まれ。 KAI-YOU, LLC. ファウンダー/ディレクター。2011年、「すべてのメディアをコミュニケーション+コンテンツの場」に編集・構築するメディアプロダクション、KAI-YOU, LLC.(合同会社カイユウ)を設立。編集者、エンジニア、UI/UX/3DCGデザイナー、Webディレクター、イベントプランナー、イラストレーター、シナリオライターなど様々なスタッフを擁し、新しいメディアとコンテンツ、ユーザーの関係を「編集」すべく多くのプロジェクトを展開中。
http://kai-you.net
http://kai-you.co.jp
https://twitter.com/stakeda

聞き手・構成:後藤知佳(numabooks)
1987年生まれ。ゆとり第一世代。東京都出身。
出版社勤務などを経て、現在「dotPlace」編集者。


PROFILEプロフィール (50音順)

武田俊

元KAI-YOU, LLC代表/メディアプロデューサー/編集者/文筆家

1986年、名古屋市生まれ。法政大学文学部日本文学科在籍中に、世界と遊ぶ文芸誌『界遊』を創刊。編集者・ライターとして活動を始める。2011年、メディアプロダクション・KAI-YOU,LLC.を設立。「すべてのメディアをコミュニケーション+コンテンツの場に編集・構築する」をモット-に、カルチャーや広告の領域を中心に、文芸、Web、メディア、映画、アニメ、アイドル、テクノロジーなどジャンルを横断したプロジェクトを手がける。2014年12月より『TOmagazine』編集部に所属。NHK「ニッポンのジレンマ」に出演ほか、講演、イベント出演も多数。右投右打。