コミック累計発行部数が3億部を突破し、『ギネス』世界記録にも認定された国民的マンガ『ONE PIECE』。主人公ルフィが海賊王になるために「ワンピース」(ひとつなぎの大秘宝)を探し海に出る冒険物語です。この『ONE PIECE』から次世代のチーム創りのヒントを読み解き、ビジネスに生かす実践案を提示する書籍『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)をマンガナイト代表・山内康裕さんが上梓(※)しました。
今回は著者の山内さんをホストに、『ONE PIECE』好きで、ビジネスや教育を通じた社会変革の実践者であるお二人(小林琢磨さん[株式会社サーチフィールド代表取締役社長/株式会社ナンバーナイン代表取締役社長]と兼松佳宏さん[京都精華大学人文学部 特任講師/元greenz.jp編集長])を招き、『ONE PIECE』の「読み方」の違いから人のメンテリティを知る方法、キャラクターにみるリーダー像、次世代チーム創りのためのヒントまで、ほとばしる「ワンピース愛」とともに語り合っていただきました。
※マンガナイトメンバーであるいわもとたかこさんとの共著
●山内康裕さんの鼎談連載「マンガは拡張する[対話編+]」はこちら。
●兼松佳宏さんの連載「空海とソーシャルデザイン」はこちら。
[中編]
●下記からの続きです。
前編「同じ『ONE PIECE』を読んでも、ヤンキーとオタクは好きな話が違う。」
自社にスカウトしたいキャラクター
山内:ここからは視点を変えて、『ONE PIECE』の中で一緒に働きたいキャラクターを聞いてみたいと思います。
小林:ちょっとマイナーだけど、不死鳥のマルコ。マルコの「最強のナンバー2感」がいいですね。あまり登場していないのに、あの仕事っぷりと存在感。マルコがいなかったら白ひげ海賊団は絶対にあそこまで大きな組織になっていない。トップである白ひげを立てつつ、主張もしすぎずにいい味出しているなって。
山内:マルコは自分の会社に欲しい人材?
小林:欲しいです。一緒に働きたい。まさに自分の会社に転職させたいキャラがマルコ。だって、自分の会社にルフィがいても困りますし(笑)。
兼松:それでいて「じゃあ自分がルフィなのか?」というと、違うんですよね。
山内:ルフィは偶像に近い存在なのかも。自分がそれになれないのはわかっているけれども「なれたらいいな」と思う対象としてのルフィ。自分が「いくぞ!」って言ったら、みんながついて来てくれる。そういうところに多くの人が憧れるんでしょうね。
兼松:ルフィの仲間を引きつけるパワーってどこから出てくるんだろう? ルフィが何かを与えてくれるわけでもないのに仲間はしっかりついて行きますよね。
山内:ルフィって思っていることを全部言っちゃうじゃないですか。あれって、実際にはなかなかできない。そういうところに憧れてついて行きたくなるのかも。
兼松:そもそも「海賊王に 俺はなる!!!!」って、なかなか思わないですよね。スケールがでかい。
山内:兼松くんの好きなキャラクターは?
兼松:レイリー。歳をとったらレイリーみたいになりたい(笑)。レイリーの魅力は全てを言わないところですね。ワンピース(ひとつなぎの大秘宝)のことを聞かれても答えない。相手の成長を見ながら、秘密を伝授するタイミングを見極める。そういう「わきまえ方」が好きです。
小林:確かに、レイリーはかっこいいですね。きっとレイリーが本気を出せば相当強いし、おまけに何でも知ってるし。だけどそれを振りかざさない。
山内:レイリーはルフィが力をつけるために、教えていく立場でもあるね。
兼松:僕がレイリーに共感するのは、おそらくグリーンズの編集長を経た37歳の今だからこそなのかもしれない。30歳の頃はレイリーが好きだなんて言わなかったと思う。年齢とともにキャラクターへの思い入れも変わりますよね。
あと発言が気になるキャラクターは黒ひげですね。「人の夢は!!! 終わらねえ!!!!」というシーンが、悪役なのに信念を持っていて好き。
他には、ロジャーの残した言葉にある「受け継がれる意志」「人の夢」「時代のうねり」は勇気が出ますね。Facebookでも日常的に使ったりして、自然と自分のボキャブラリーになっています。山内くんの好きなキャラクターは?
山内:僕はクザン(青雉)かな。クザンは海軍に入ってから違和感を持ち続けながらも、ずっと王道の出世ルートを進み、三大将にまでなった。でも、赤犬の考える「正義」に反発して、元帥になろうとする赤犬と戦って負け、海軍を去る。それでも自分にとっての「正義」が世の中に求められていると信じて、正しい未来を作っていこうとしていく。しかも、それを自分だけの力でやろうとするのではなくて、時には前線から一歩引いて、全体を変えていくことを目指していく姿も魅力的だと思う。
小林:あと、自分の会社に転職させたいとなると相談役にジンベエが欲しいですね。頼れる人生の先輩として。
兼松:良い先輩と一緒に仕事をすることはとても大事ですよね。フリーランスで働く人にとっては特に。僕が人の悪口を言わないようになったのも、尊敬する先輩から厳しく忠告されたからなんです。そういう人生の師匠となるような存在が側にいるのは大きいですよね。そして、ゆくゆくは自分が良い先輩と思われるような人間にならないとなって思っています。
山内:僕の本では『ONE PIECE』の主要キャラクターを「ヤンキー」「オタク」「おたやん」(ヤンキーとオタクの中間)に分類してどういう特徴があるかを整理しています。ちなみにルフィはヤンキー、レイリーは「おたやん」。どんなキャラクターとチームを組みたいかと考えてみると、自分のチームに必要なのがヤンキーなのか? オタクなのか? はたまた「おたやん」なのか? が分かるようで興味深いね。
ルフィに見る次世代リーダー像
山内:先ほど話が出た「頂上戦争」だけど、あれって実は「チームの組み直しの話」としても読めるよね。一般的な少年マンガって、主人公の仲間がどんどん増えていくというのが王道だと思うんだけど『ONE PIECE』は違う。麦わらの一味は仲間が増えるどころか、バーソロミュー・くまによってチームがいったん散り散りになっちゃう。で、その間に「ルフィ+インペルダウンの脱獄囚」という新しいチームができる。そのチームは仲が良いわけじゃなくて、例えばかつて敵だったクロコダイルも入っている。さらにはエース救出という目的を同じくしたまた別の組織「白ひげ海賊団」とも手を組む。この「目的のためにチームを組み直す」っていうところがルフィの、そして『ONE PIECE』のすごいところだと思う。実際のビジネスで考えてみたら、経営者にとって、この「チームの組み直し」は理想的な形かもしれないね。小林さんはルフィにすごさや魅力ってどこにあると思いますか? 自分の行動に取り入れているところとかありますか?
小林:ルフィの魅力は裏表のなさですね。僕自身もルフィのように裏表のないように、というのは心掛けています。ルフィの場合、他のキャラクターと違ってフキダシしか無いんですよ。心の声みたいな表現が一切ない。言っていることが全てで、裏なんてないんですよ。当然、現実世界では言えることと言えないことってあるんですけど、僕は自分の意見を言う時は嘘をつかずに思ったことを言うようにしています。社員に対しても、クライアントに対しても、自分の気持ちに嘘をつかない。あとは、挑戦することの大切さや夢と希望の大切さについて。僕はひねくれているので、他の経営者さんやうちの社員と話していて、夢と希望しか話せない人を見ると「お前大丈夫か?」と思っちゃったりするんです(笑)。でも、逆に「夢も希望も無くて仕事なんかできるの?」とも思う。夢と希望ってとても大事で、もちろんそれだけじゃ仕事ってうまくいかないんですけど、絶対無いといけないのが夢と希望なんだと思っています。『ONE PIECE』を読んでいると、信念というか、太くてまっすぐな芯を一本持つことの強さを感じるんです。そこは僕自身仕事でも大事にしているところですね。
兼松:わかります。大きな目標を仲間と共有するのは、当たり前だけど大切ですよね。本心から「海賊王に 俺はなる!!!!」くらい言えちゃう人は魅力的だし、ひとりよがりのものではなく、みんなにとっての「ほしい未来」を示すようなビジョンになっている。「あ、その夢に乗ってみたい!」と思わせてくれることは、一緒に働きたいと思う基準の一つかもしれません。
あと『ONE PIECE』のキャラクターたちはそれぞれが個性を持っていますが、その生かしかたが素晴らしいですよね。悪魔の実って、個性そのものじゃないですか。そこで「自分はゴムだけど火の力がいいな」って外に求めるのではなく、ゴムでできることを探し、極めていく。その上で、仲間たちがそれぞれ信頼し合っていて、「そこはお前に任せた!」みたいな。ドラッカーも「成果はその人の強みによってもたらされる。」と言っていますが、まさに適材適所のマネジメント。
小林:それは本当にそう。僕は会社を10年間やってきて、役員たちとも散々喧嘩した上で、今やっとお互いの良いところと悪いところを認め合えるようになった。それぞれの強みで役割分担ができているから、自分の強みを伸ばすことに注力できるんだと思います。
兼松:それぞれの得意分野をオープンに話しながら、成長の共有をする。そうするとさらにみんなの力を合わせてできることの幅が広がっていく。学びあう人たちが集まると、結果的に生み出せる価値も化けていきます。それは完全に『ONE PIECE』の構造と一緒ですよね。
[後編「人材プラットフォームとしての麦わらの一味」に続きます]
(2017年8月9日(水)公開)
文・構成・編集:岩崎由美
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