鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などのコメントをしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。
【2016年9月27日】 面白い試み。著作権法第35条には制限規定として「学校その他の教育機関における複製等」がある(つまり学校では権利者に無断で利用できる)のですが、「ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」という但し書きが非常にややこしいのです。日本書籍出版協会からガイドラインが出ていますが、出版社の方でさえちゃんと把握できているのだろうか? と思えるほど難解です。そのややこしい部分を代行するというのは、ビジネスとしてあり得ると思われます。
【2016年9月27日】 いいまとめ。簡単に言えば、「書店」という本や雑誌の販売インフラを維持するため、ということになるのでしょう。「取次会社が書店を吸収するというニュースを見ると、「本屋の危機」を感じる人も多いでしょう。わたしもその一人です。」とあるのですが、署名がないので「わたし」が誰かわからないのが残念。
【2016年10月3日】
講談社のプレスリリース。ひええええ。 “弊社が抗議を行っている最中に、アマゾン社は、9月30日夜以降、弊社が提供する1,000を超える作品すべてを、一方的に同サービスから削除しました。” https://t.co/CzcHK3MRak
— 鷹野凌 (@ryou_takano) 2016年10月3日
この講談社のプレスリリースを受け、マスコミ各社が連日のように報じる大騒ぎとなりました。音羽グループの光文社や、一ツ橋グループの小学館も似たようなコメントを出しています。私のブログで10月2日に公開した配信数変動に関する記事が話題になったためか、私のところにも何件か取材依頼がきました。サービス開始から騒動までの一連の流れや私の考えについてはシミルボンに寄稿してありますが、簡単に言えば今回のAmazonはユーザーの信頼を損ねているのが最大の失策だと思います。NHKのまとめ記事に弁護士の福井健策先生が寄せたコメントにあるように、「結局は消費者が損をすることに」なってしまうのです。これは出版社とアマゾンという、当事者だけの問題ではありません。
【2016年10月6日】 無印良品有楽町店の書籍売り場「MUJI BOOKS」や、原宿の「ニコアンドトーキョー」書籍コーナーなどについて。本の「知的イメージ」をブランディングに役立て、客単価の向上を図っているとのこと。最近は業績が落ちているからかこの記事では取り上げられていませんが、1998年に設立され「遊べる本屋」を名乗りながら書籍売上比率は1割程度だったヴィレッジヴァンガードが、こういう業態の先駆けではないでしょうか。
【2016年10月6日】 学研による子供向け読み放題サービス。こういう特定の領域にターゲットを絞った専門サービスは、わかりやすいので手堅い商売ができると思われます。学研子会社ブックビヨンドの方に話を伺いましたが、この読み放題サービスの仕組みは外部にも提供していく計画があるそうです。「wook」の後継サービス「Beyond Publishing」がそろそろリリースされるはずですが……。
【2016年10月12日】 アメリカの The Authors Guild が「会員たちの高齢化と年会費収入の減少にも頭を悩ませている」とのこと。入会に出版の有無さえ問わないそうです。日本文藝家協会にも同じような問題が起きていると聞きますが、“入会には「文芸的」著作物である単行本を、一冊以上出版していること” という条件が緩和される日はくるのでしょうか? ちなみに私が理事長をやっている日本独立作家同盟は最初から「来る者は拒まず」で、審査や許諾などのハードルは特に設けていません。
【2016年10月13日】 Author Earningsのレポートではずっと成長し続けてきたアメリカのKindle Storeにおける個人作家のシェアが、初めて減少傾向にあるそうです。何が起きているのでしょうか? The Digital Readerの推測では「Kindle Unlimited」参加作品を優先表示させるUI変更に中小出版社のほうが積極対応できている、とのこと。Amazon.comを見てみたのですが、私には何が変わったのかわかりませんでした。
【2016年10月13日】 東京国際ブックフェアの講演レポート。インプレス、KADOKAWA、新潮社、スマートニュースの方々が現状と今後について語っています。とくに「Impress QuickBooks」700タイトルの読み放題売上比率が、「Kindle Unlimited」開始前の時点で50%に迫る状況になりつつあるというのは、読み放題とイーシングル(短い電子書籍)の相性の良さを裏付けているように思います。
【2016年10月14日】 記者発表会の様子と合わせてピックアップ。「エニックスお家騒動」から生まれた一迅社(旧スタジオDNA・一賽舎)が講談社の傘下へ。一迅社側からの申し出だったようです。「一迅社がこれまで資本面や人材面のリソース不足から展開しきれずにいた電子書籍事業と海外事業」とありますが、私の調査によるコミックの電子化率は4513冊中1701冊(37.70%)と平均的な数字。問題は、制作体制でしょうか。
【2016年10月19日】 法人向けプラン登場。ターゲットは、美容院、飲食店、病院など。待ち時間を潰す目的で雑誌を定期購読している店舗に利用してもらおうとしている、ということでしょう。書店側が読み放題サービスを警戒する声は高まるばかりですが、むしろ書店がこういうサービスの販売代理店になったらどうだろうか? と思うのですが。
10月もいろいろ興味深い動きがありました。さて11月はどんなことが起こるでしょうか。
ではまた来月 (๑•̀ㅂ•́)و✧
[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2016年10月 了]
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