今年20周年を迎える東京・世田谷文学館にて、稀代の文筆家・植草甚一の回顧展「植草甚一スクラップ・ブック」展が開催されています(2015年7月5日まで)。「サブカルチャーの元祖」とも呼ばれる植草甚一は、1979年に亡くなるまでに映画・ミステリー小説・ジャズなど幅広いジャンルの評論やエッセイを多く執筆。その蔵書は4万冊といわれました。海外の文化に精通し、専門家だけではなく一般読者にも「読んでみたい!」という気にさせる独特な文体で、当時の若者たちに多くの影響を与え続けました。「植草甚一スクラップ・ブック」展は、洒脱でモダンな紳士・植草甚一の、過去最大級の大規模な回顧展です。
展示の中にある、植草甚一が夢想したという古書店をプロデュースした東京ピストルの桜井祐さん、book pick orchestraの川上洋平さんにお話をお伺いし、「植草甚一スクラップ・ブック」展の魅力を探ります。
※前編はこちら:「もし植草さんがご存命で、下北沢で古書店を出したらどういう店作りをするか。」
植草さんのように買い物ができる、セタブンマーケット
――2015年6月27日(土)、28日(日)に行われる「セタブンマーケット」は、どういうイベントなのですか?
桜井:買い物と散歩が大好きだった植草さんにちなんで、古本や雑貨などを販売する蚤の市です。お客さんに「植草さんのように買い物を楽しんでもらおう」という趣向を凝らしてあります。三歩屋は企画展内の展示もありつつ、このマーケットに出店するお店にもなります。
川上:いま展示室の「三歩屋」に置いているいくつかの本は、このマーケットで実際に買うことができるようにしようと思っています。世田谷文学館になじみのある作家の方からの出品もあれば、当日、出店してくれる作家さんもいます。まさに「ここでしかできない」体験になると思います。
桜井:三歩屋の古書、植草さんグッズはもちろん、暮らしの道具などの雑貨やフードもあります。マーケットは入場無料なので、フラッと来ていただくだけでも楽しいと思いますよ。
「本を読むこと」はもっと自由であっていい
――植草さんを知らない世代には、どういう風に今回の展示を見てもらいたいですか? また、植草さんの魅力とは?
川上:僕は、本の読み方は人それぞれであっていいと思っているんです。仕事で読む以外の普通の読書って、みんなが好きなように読めばいいと思うんですが、「一冊きちんと最後まで読まなくちゃいけない」とか「最初に買った本から読まなくちゃ」とか、縛られている人がとても多いと思います。
植草さんは、アカデミックな分野からスタートした人じゃないから、そういう縛りが極めて少ないんです。自分が本当に好きなものを好きなように読んで、好きなように書いています。その結果が4万冊なんですよね。本を読んで感動するポイントは、読む人の体験によって違いがあるのは当然でしょう。「どう読むか」も、もっと自由であっていいと思います。それぞれの読み方によって、本に対する考え方が開かれていきます。
自由に楽しんで読んだ結果、晩年になって評論家として類まれな地位を築いた植草甚一という人を通して、読書の楽しさを感じてほしいと思います。
桜井:そもそも「植草甚一スクラップ・ブック」展に来る人は、もともと植草甚一をある程度知っている、もしくは好きだった人が多いと思います。でもよく知らない人でも、いわゆる「展示室で資料を見る」のではなく、町で見つけた本屋さんに入るような感覚で来てくれたら、きっと楽しんでいただけると思います。三歩屋はこの企画展の中で唯一、写真撮影が許可されているスペースなので、思い出にも残りますし。
川上:植草さんの文章は、触れた人がどんどん元気になっていくパワーがあります。あるミステリー作家さんが、行き詰まった時に読む本として植草さんの『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』(ちくま文庫)を挙げていました。たとえ行き詰まっていても、読むと書きたくなる気持ちが湧いてくるんだそうです。植草さんは、そういう雰囲気を持っている人なんです。
植草さんの著書はジャンルが多彩なので、自分がいちばん興味を持てそうな本を、一冊買って帰って読んでいただきたいですね。きっと他では味わえない体験ができると思います。
[インタビュー了]
2007年に同館で開催された「植草甚一マイ・フェイヴァリット・シングス」展の後に、ご遺族や関係者から寄贈された関連品を加え、新たに構成された「植草甚一スクラップ・ブック」展。生原稿や草稿はもちろん、映画試写会時の英語と日本語を交えたライブ感あふれるメモ、入院中に作成したコラージュ絵葉書、レコードの売却代金のメモ、ニューヨークから奥様に宛てた葉書など、著作として発表されたもの以外も多数。植草甚一が「何に注目し、どんなものに面白みを感じていたか」そして「いかに楽しんで勉強を続けていったか」を感じられ、「帰ったら何か本を読もう!」という気分になる展示です。
また、展示の最後に植草甚一が下北沢に開店することを夢想していた古書店「三歩屋」が、残された資料を元に再現されています。ディレクションは東京ピストル+book pick orchestra。前述のインタビューで語られた「三歩屋」へのこだわりも、実際に入ってみることで確かめられるはず。
会期中には、クラフト・エヴィング商會のブックトークや、植草甚一と親しく交流していた中平穂積のジャズトーク、植草甚一のように買い物を楽しめる本と雑貨の「セタブンマーケット」などのイベントも開催されます。
ミュージアムショップでは、植草甚一の各著書のほか、『真冬の殺人事件 ―植草甚一翻訳コレクション―』(S・S・ヴァン・ダイン/ジェラルド・カーシュ著、植草甚一翻訳、盛林堂ミステリアス文庫)の世田谷文学館特別異装版(「グレイシイ・アレン殺人事件」モチーフ/イラスト:玉川重機)などを販売しています。
●世田谷文学館 開館20周年記念『植草甚一スクラップ・ブック』
期間:2015年7月5日(日)まで
開館時間:午前10時〜午後6時(入館は午後5時30分まで)
会場:世田谷文学館 2階展示室
東京都世田谷区南烏山1-10-10(京王線「芦花公園」駅より徒歩5分)
休館日:月曜日
料金:一般=800円/65歳以上・高校生・大学生=600円/小・中学生=300円/障害者手帳をお持ちの方=400円
※「せたがやアーツカード」割引あり/※障害者手帳をお持ちの方の介添者(1名まで)は無料
●開館20周年記念イベント 20祭 セタブンマーケット
植草甚一のように散歩や買い物を楽しめる「蚤の市」が、2日間限定で開催されます。
「三歩屋」が出品する古本や雑貨のほか、世田谷文学館にゆかりのある作家・アーティストによる特別出品、アクセサリー作りのワークショップなども。
日時:6月27日(土)午前10時~午後8時、28日(日)午前10時~午後6時
*両日とも各店舗は売切れ次第終了
会場:世田谷文学館 1階文学サロン
出品・出店:クラフト・エヴィング商會、三歩屋(TOKYO PISTOL+book pick orchestra)、谷川俊太郎、名久井直子、ムットーニ、吉本ばなな(敬称略、五十音順)ほか
参加費:無料
※最新情報は世田谷文学館公式Twitterにて。
取材・構成:石田童子
(2015年5月19日、世田谷文学館にて)
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