マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]。10人目のゲストは、リイド社で「トーチweb」の編集長を2014年8月の創刊から務める関谷武裕さん。近年マンガを扱うウェブマガジンが林立する中、劇画タッチの作品や時代劇コミックといったこれまでの同社のイメージを覆すようなコンセプトのウェブマガジンを立ち上げ、様々な仕掛けを試みる関谷さんが思い描くこれからの編集者像や未来のマンガについて語り合いました。
「ゴルゴ13」と「時代劇」の会社がウェブマガジンを創刊
山内康裕(以下、山内):記念すべき10回目のゲストは、リイド社でウェブマンガという新しい取り組みをしている、「トーチweb」編集長の関谷武裕さんです。今日はよろしくお願いします。実は、これまでの対談の中で、マンガのウェブメディアについて話題には何度も上がりながらも、実際にそれを運営されている方にご登場いただくのは、第2回でご登場いただいた「電脳マヴォ」の竹熊健太郎さん以来なので、その観点からもお話できたらと思っています。
個性が光る気鋭の作家さんのキュレーションや、マンガだけでなくリアルなイベントも行われて盛り上がっている「トーチ」ですが、まずは誕生の経緯から聞かせていただけますか。
関谷武裕(以下、関谷):みなさんご存知かもしれませんが、リイド社は「ゴルゴ13」をはじめとする「さいとう・たかを作品」と「時代劇マンガ」を主に出版している会社です。メインの読者層は40〜60代でしょうか。
昨今、出版不況だと言われていますが、リイド社の業績はありがたいことに好調でして……、あ、これは僕の私見なんですが。3年前くらいですかね、会社から「いま余力があるから増刊を出してほしい」というような意向が編集部にあったと記憶しています。ただ、それまでも時代劇マンガ系の増刊は何度か企画されていて、数冊出しては撤退という状況。時代劇マンガは堅調でこそあれ、市場が拡大していくイメージを少なくとも僕は描けていませんでした。
当時の僕は入社して5年。必死で時代劇マンガ誌を編集していたんですけど、年の離れている読者の考えていることは正直わからない。前後5歳くらいまで、背伸びして前後10歳、40歳くらいまでしか想像がつかないんですよね。例えば50〜60歳の方々の性生活事情はわからない(笑)。いつかは自分と同じ年代の人に向けてモノを作りたいという想いは常に持っていました。
そんな状況での会社の意向があって、「これはチャンスだな」と。最初は雑誌編集部の垣根を越えて若手編集者の有志で時代劇以外のマンガ増刊(紙の雑誌)を作ろうっていう企画を出していたんですが、実際そろばん叩いてみると紙の増刊で利益を出すのは相当ハードルが高い。1号あたり何百万円も赤字が出る増刊を定期的に出版して、それを回収するほどの単行本を、今現在、時代劇マンガ誌を主に作っている出版社がはたして作れるのかって想像がつかなくて……。
そこでウェブマガジンだったら単純に製造コストと流通コスト抑えて、この金額で雑誌が作れて経済が回りますよーという企画で出したのが「トーチweb」の始まりですね。
山内:「ウェブだけじゃ心配だから、紙で出しながら電子とウェブ両方」というパターンではなく、敢えてそうしなかったのは、マネタイズも考えながらにはなるけども、ウェブの方がコストも落ちるし、影響力も出せるっていう勝算があったんですか? 例えば『IKKI』(小学館、2014年休刊)は本誌がありつつ公式サイトの「イキパラ」があったり、『スピリッツ』(小学館)なら、名前を変えてますけど「やわらかスピリッツ」がある。そういう流れが多い中で、「トーチ」はウェブしかない。そこにウェブへの意気込みとメッセージ性を感じました。
関谷:『IKKI』も『スピリッツ』も雑誌があってからのウェブですよね。「トーチ」は単純にマンパワーと予算が制限されている中でどのようにやっていくかというところで「ウェブしかないだろう」という状況。ウェブへの参入も後発で、他社を真似するような形で追従しても絶対に追いつけないし、それこそ勝算ないなと思ってました。ゼロベースで、まったく違うルールを作ってしまった方がいいという考えで始まっています。
それこそ、ウェブで作ることになったとき、「siteってどういう意味? 語源は?」ってとこから考えましたね。「サイトって……敷地、土地だよね?」みたいな。「その土地にどうやって人に来てもらう?」「なに建築する?」ってところから思考して……
山内:あっ、それで「トーチ」なんですか?(笑)
関谷:いやいや(笑)。トーチという名前は、僕は付けてないんですけど……
山内:そうなんですね。名前の由来はどういったところから?
関谷:コンセプトの方を先にどんどん決めていって、最後の方に決めたんですが、編集部の1人が出したアイデアです。ウェブサイトの名前を決める際に「未来へ向かっていくとき、冒険するときのアイテムは何か?」というお題から「たいまつじゃない?」となって「トーチ」に。
山内:参加している作家さんは、SNSに強い人が多いなという印象です。Twitterのフォロワー数なんかも含めて。
関谷:そうですね、そこはちょっと意識しています。集客はSNSでの拡散に頼っているところもありますしね。ただ作品を依頼している作家さんの選び方に関しては、ちょっと特殊で……。
「トーチ」立ち上げの頃「今売れてるマンガの絵ってどれも似たり寄ったりで上手いんだけど個人的に飽きてる」「そうじゃないマンガでもおもしろいものはあるし、正しく紹介すればもっと読まれるはず!」「マンガはもっと自由なんだよぉ(涙)」というようなことを言っていて、それに共感してくれてる仲間と作っていきました。
例えば窓ハルカさんや道草晴子さんはコミティアの出張編集部で出会った作家なんですが、彼女たちの作品は紙のマンガ雑誌で用いられているリテラシーとはちょっと違う文法で描かれているかもしれない。でも、おもしろいと感じる。そういったものを積極的に掲載しています。
山内:作品のラインナップを見させてもらっても、いわゆるマンガだけ読み続けている人だけじゃなくて、マンガ以外にも興味がある人がマンガとの接続点となりそうな作品がそろっている気がするんですよね。そういうフィールドが、この「土地」になってる。
関谷:そうなってたら嬉しいですね。宗教とか国籍とか肌の色とか、ジェンダーとか超えて「トーチ」って辺境の土地に観光しに来てもらいたいです。それで「こんなマンガもあるんだ」って、感動してもらえたり居心地の良さを感じてもらえたら最高ですよね。
[2/8「独自のシステムで経済を回して、“イケてる”ウェブマガジンに。」に続きます]
聞き手・構成:二ッ屋絢子
(2015年4月27日、リイド社にて)
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