INTERVIEW

マンガは拡張する[対話編]

湯浅生史(小学館『ヒバナ』編集リーダー)×山内康裕:マンガは拡張する[対話編]
「IKKIの廃刊の理由は、やっぱり『経済』です。」

hibana_banner

マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]の7人目のゲストは、小学館から新装刊されるマンガ雑誌『ヒバナ』編集リーダーの湯浅生史さん。湯浅さんは2014年9月に休刊した『月刊IKKI』の最後の編集長代理でもあり、最終号で告知されていた新雑誌がついに始動する今、これからのマンガ雑誌が担う役割についての自身の考えや、『ヒバナ』が目指していくところなどをじっくりと語っていただきました。

「雑誌」は求めている何かを引き出してくれた

山内康裕(以下、山内):今日は、ビッグコミックスピリッツ増刊として、3月6日(金)に発刊される新雑誌『ヒバナ』の編集リーダー、湯浅生史さんをお招きしました。2014年9月に休刊したマンガ雑誌『月刊IKKI』の後継誌という位置付けの新しい青年誌である『ヒバナ』創刊にあたり、同誌に込められた想いや目指すもの、また、これからのマンガ雑誌が担っていく役割についてもお話できればと思っていますので、よろしくお願いします。
 僕自身ずっと『IKKI』のファンで、すばらしいマンガ雑誌なんですけれど、もしかしたらマンガコーナーじゃないところに置いてあった方が売れるんじゃないかって思っていたんですよね。というのも、一部のマンガ雑誌って、マンガファンだけではなく、そうじゃない人にもアクセスできる可能性を持っていると思っていて、『IKKI』はアートや演劇など、外のカルチャーにアクセスしやすい雑誌っていう感じがしてたんです。そういう意味でも、休刊したのはすごく残念だったなって。湯浅さんは「雑誌」について、そもそもどういう役割があると思っていますか?

湯浅生史(以下、湯浅):僕も50歳になったのですが、80年代ぐらいに読んでいた雑誌を思い出すと、『宝島』っていう雑誌が好きだったんですね。何故読んでいたのかっていうと、あの頃はまだインターネットとかもないですし、情報の得方とか、どこに自分の考えや感じ方を引っ張り出してくれる材料があるのかが分からなかった。そのときに、雑誌のある一部を読むと「あ、なるほどな」となって、パラパラ読んでみると直接は興味ないことも載ってるんだけど、「そのうちこれも興味出てくるんだろうな」っていう感覚があったんです。

『ヒバナ』編集リーダー・湯浅生史さん

『ヒバナ』編集リーダー・湯浅生史さん

山内:なるほど。自分の知らなかった視点や、情報に出会えたということですか?

湯浅:そう。自分が探している何かの周辺を埋めて、用意していてくれて教えてくれるものっていうイメージです。あの時代って、まだまだ強力にそういう感覚があったんですよね。「かたまり」としての雑誌ってある種の人格みたいなもので、憧れとかもあったので、「雑誌」という言葉を考えるときに、そこがなかなかすぐには離れない。多分『IKKI』にもそういう雰囲気のメディアっぽい感じが何となくあったんでしょうね。でも今は、それがだんだん変わってこざるを得なくなってるんだろうなって。

雑誌に期待や憧れを抱く時代ではなくなった

山内康裕さん

山内康裕さん

山内:マンガファンから見ると「何となくあの雑誌の色」っていう認識があるんじゃないですか。そこで「雑誌」というのは多分「レーベル」の色であって、それが以前は紙だけだったかもしれないけど、今はウェブも含めた、『IKKI』だったらIKKIのウェブサイトも含めた「IKKIっぽさ」を暗黙知で共有するっていう。雑誌の名前ではなくてレーベル化という意味でのブランド力があるなって思います。
 一方で、もうちょっと「橋渡し感」があってもいいな、と僕は思っていて。というのは、今回の『ヒバナ』は『IKKI』から続いている感じがすごくあるんですけど、ものによっては一旦閉じて、また出しましたっていうのを、一見断絶させているようなんだけれども実はそんなに変わっていないっていうパターンがあって、もったいなさを感じることがよくあるんです。批判するわけではないですが、例えば『ヤングサンデー』(小学館、2008年に休刊)がなくなったときもすごく残念な気持ちになった。「『ヤングサンデー』らしさ」という暗黙知がみんなの中に築かれていたのに『スピリッツ』に合流させてしまうのって、文脈で考えるとちょっともったいないと思うんです。

湯浅:確かにそうですよね。でも、それは正直なところ経済的な理由なんですよ。経済の上に乗っかって回っているものだから、分けて考えられないから仕方がない。経済の上で成立すれば雑誌はなくならない。当たり前のことですよね。そこがなかなか大変なところです。

山内:雑誌という面で考えるとそうかもしれないけれど、雑誌自体がなくなってもレーベルだけは残るっていう展開は今後ありえるのかなって思います。『IKKI』についても、雑誌は休刊になっているけれど、これから松本大洋さんの『Sunny』などは、IKKIのレーベルというか、「IKKI COMIX」として残っていきますよね。

湯浅:そうですね。続いているものに関しては「IKKI COMIX」で出し切る予定です。

山内:読者の中で『IKKI』はまだ生きているし、これから『ヒバナ』も生まれて、どうつながっていくのか読者も期待していると思います。

湯浅:さっき話したような、「雑誌」っていういわば「容れ物」のイメージを、僕もそういうふうに持ってきたんですけど、結局『IKKI』は終盤に向かって部数を下げていきましたし、売れないと成り立たないってことは日々言われていて、実感してもいます。江上さん(※編集部注:元『IKKI』編集長の江上英樹さん)も実は爆発的なヒットを生み出したいっていう人間だったりして、「俺の好きなモノを、世の中の1000万人くらいが好きじゃないとおかしいだろ」って思ってる(笑)。だから、『IKKI』に関しては悔しいんだろうと思います。
 雑誌自体がどんどん売れなくなっている中、敢えて新雑誌を出すことになったこの状況で考えるのは、何しろ昔と違うのはネットがあるっていうことと、何だかよくわからないけど知りたいと僕が思っているらしきものを「これじゃない?」って持ってきてくれるんじゃないかっていう、信頼とか期待とか憧れみたいなものを、雑誌自体に抱きにくくなっているんじゃないか、ということです。雑誌にそんなことを課するのは難しい世の中に変わってきちゃってるんじゃないかって。でも僕にとって雑誌って何だったかなって考えるとついそっちの方向に行くんですよ。だけど、そういう考え方にとらわれていると、次の雑誌は作れないのかもしれない。だからもう、最初はどう考えていいのか本当にわからなかったですね。じゃあその後どう解決したのかって聞かれると、すぐに説明もできないんですけど(笑)。

2/7「総意を集めたネットよりも、数人が作る雑誌がまた選ばれるようになる。」へ続きます

2015年3月6日(金)に発刊する『ヒバナ』は毎月7日発売です。
2月27日にオープンしたウェブサイトでは、新連載5作品の先行お試し読みができます!

小学館の新青年コミック誌「ヒバナ」公式サイト

聞き手・構成:二ッ屋絢子
(2015年2月6日、小学館仮本社にて)


PROFILEプロフィール (50音順)

山内康裕(やまうち・やすひろ)

マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。 1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。 また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。 主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭2014」「日本財団これも学習マンガだ!」等。 「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「国際文化都市整備機構」監事も務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)、『コルクを抜く』(ボイジャー)がある。http://manganight.net/

湯浅生史(ゆあさ・いくし)

宝島社(旧JICC出版局)で『宝島』編集部に勤務。1994年に小学館に入社後、1999年から週刊ビッグコミックスピリッツ編集部、月刊flowers編集部、ガガガ文庫編集部を経て2010年に月刊IKKI編集部に異動。現在、増刊雑誌『ヒバナ』の編集責任者としてスピリッツ編集部に在籍。担当してきた作家は石川賢、佐々木倫子、吉田戦車、花津ハナヨ、さいとうちほ、田村由美、漆原ミチ他(敬称略)。


PRODUCT関連商品