INTERVIEW

マンガは拡張する[対話編]

湯浅生史(小学館『ヒバナ』編集リーダー)×山内康裕:マンガは拡張する[対話編]
「総意を集めたネットよりも、数人が作る雑誌がまた選ばれるようになる。」

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マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]の7人目のゲストは、小学館から新装刊されるマンガ雑誌『ヒバナ』編集リーダーの湯浅生史さん。湯浅さんは2014年9月に休刊した『月刊IKKI』の最後の編集長代理でもあり、最終号で告知されていた新雑誌がついに始動する今、これからのマンガ雑誌が担う役割についての自身の考えや、『ヒバナ』が目指していくところなどをじっくりと語っていただきました。


【以下からの続きです】
1/7:「IKKIの廃刊の理由は、やっぱり『経済』です。」

紙媒体への「揺り戻し」が来ている

(左から)湯浅生史さん、山内康裕さん

(左から)湯浅生史さん、山内康裕さん

湯浅:ちょうど昨日(2015年2月5日)、『STUDIO VOICE』復刊のニュースが出ましたよね。がんばってほしいけど、どういうふうにやっていくんだろう、とも思いますね。

山内:マンガ雑誌ではなく活字の方のカルチャーって、雑誌においてはマンガより前にもう衰退してきていて、ウェブの方への移行があった。その中で僕が感じているのは、インターネット上のキュレーションは、世の中の総意になってきているということです。

湯浅:そうですね。

山内:一方で雑誌というのは数人、あるいは数十人くらいの少ない人数の「想い」が詰まっているキュレーションなんです。僕は、活字の方については今その揺り戻しがあるんだと思っていて。だから『STUDIO VOICE』も一回終わった後にウェブでやって、また復活する。今のインターネットの世界は、一般化が進んで逆に尖っていないんですよね。

湯浅:分かります。

山内:尖ってないものがアクセス数によってランキングで上位に行くから、平準化しちゃってるんですよね。インターネットの世界は昔は尖っていたものの方が多かったと思うんですけど、今は違う。じゃあ昔みたいに尖らせたり、想いを乗せたりしたいというとき、むしろキュレーターが少ない紙の雑誌の方が表現しやすいというところに戻っていってるような気がするんですよね。

湯浅:そうだとするとおもしろいですね。

山内:ただマンガについては、出版不況になっても単行本は売れていたので、紙とインターネットの転換や共存の歴史が数年遅れていると思います。でも、多分どこかで次の段階が来る。そのときには数人が作った雑誌がきっと選ばれるし、雑誌名やレーベルっていうものがどうあるべきかがすごく重要な気がします。

湯浅:僕も、まさに山内さんがおっしゃったように、誰しも若い頃は、誰かを信用して、その人の選択や見識を学んで、最初は受け売りだけどそのうち自分が言ったっぽくなれるかな〜…みたいな感じなんじゃないかって思うんだけど、それはネット以前までのある特定の時代だけがそうだったのか、もっと普遍的に回ってくるものなのか、どうなんでしょうね。どちらかというと、回ってくるものだと思ってみたいですけど。

山内:回ってくるものだけど、ウェブがあることで雑誌のあり方自体は多分変わってくるでしょうね。

湯浅:そうですよね。あと、これは常に考えていることなので揺れているんですけど、ネット上にたくさんある匿名のレビューをどう捉えるべきか。レビューの中にはいいものや参考になるものもたくさんあるんだけど、昔僕らが「◯◯さんがこのレコード推してるからこのレコード買うしかないべ!」って一生懸命読んでた、自分が信用している人の文章と決定的に違うのかどうなのか、判断が難しいですよね。匿名のレビューはどういう気持ちで書いているのか分からなくて、やっぱり結局自己顕示欲が強い人の文章として読むべきなのか、あるいは「この人は信用しちゃおう」って思えるものなのか……。

山内:「文章を書くこと」に対するモチベーションなのか、「選ぶこと」へのモチベーションなのかで違うと思います。そして今は「選ぶこと」の方がインターネットとは相性がいいと思っていて、バイラルメディアを含めてインターネット上の「キュレーション文化」ってそれが強いんですよね。それが中心になってくると、書く文章はおまけでよくなってしまう。だから今の時代マンガの論評は弱くなっていて、問題だと僕は感じています。
 一方で、海外の人からしたら日本のポップカルチャーはマンガもアニメも映画も演劇も全部同じフィールドだと思っているのに、かたや国内では映画や演劇は論評と一緒に育ってきたけど、ゲーム、マンガ、アニメといった大衆寄りのジャンルは評論も育っていない。それはちょっともったいないですよね。書き手がなかなか育たないのも、PV(ページビュー)がよくないからです。残る文章っておそらく、瞬間的なアクセス数が伸びないんですよ。

湯浅:なるほどね。

山内:ロングテールで伸びていくものだから、バズらないんです。今ウェブは「いかにバズらせるか」という、初動を意識して動いているので、そのせいで「選ぶ」方が中心になって、ちゃんと「論ずる」ところまでいっていない。

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3/7「『新しい』という言葉自体がもう古い?」に続きます(2015年3月2日公開)

2015年3月6日(金)に発刊する『ヒバナ』は毎月7日発売です。
2月27日にオープンしたウェブサイトでは、新連載5作品の先行お試し読みができます!

小学館の新青年コミック誌「ヒバナ」公式サイト

聞き手・構成:二ッ屋絢子
(2015年2月6日、小学館仮本社にて)


PROFILEプロフィール (50音順)

山内康裕(やまうち・やすひろ)

マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。 1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。 また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。 主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭2014」「日本財団これも学習マンガだ!」等。 「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「国際文化都市整備機構」監事も務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)、『コルクを抜く』(ボイジャー)がある。http://manganight.net/

湯浅生史(ゆあさ・いくし)

宝島社(旧JICC出版局)で『宝島』編集部に勤務。1994年に小学館に入社後、1999年から週刊ビッグコミックスピリッツ編集部、月刊flowers編集部、ガガガ文庫編集部を経て2010年に月刊IKKI編集部に異動。現在、増刊雑誌『ヒバナ』の編集責任者としてスピリッツ編集部に在籍。担当してきた作家は石川賢、佐々木倫子、吉田戦車、花津ハナヨ、さいとうちほ、田村由美、漆原ミチ他(敬称略)。


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