「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第3回は、ゲームデザイナー/ライター/立命館大学教授の米光一成さんです。
ゲームデザイナーになった
——米光さんはゲームデザイナーとして「ぷよぷよ」「バロック」などを手掛けられ、独立後は編集者やライターとして活躍されながら、「電書フリマ」や「電書雑誌よねみつ」、「電書カプセル」など独自の活動で電子書籍にも深く携わられ、そして大学やカルチャースクールで教えられてもいます。ジャンルに拘らず様々な形でアウトプットされているのは、私たちが考える「これからの編集者」というテーマにぴったりだと思い、ぜひお話を伺おうと思いました。まずは最初の、ゲームデザイナーのお仕事から伺いたいです。就職がきっかけだということですが、まずそこから教えていただけますか。
米光:ゲーム大好きっ子だったので大学を卒業して、“コンパイル”というゲームメーカーに入りました。フリーターという概念がなかったので、大学卒業したら全員就職するものだという狭い視野しかもってなかった。でも、ちゃんとした企業に勤められる気はしなかったので、ゲームをつくる会社ならなんとかなるかもしれないと思って。
初めての新卒採用らしいです。それまではパソコンショップにたむろしていた若者が仲間でゲームつくっていた。儲かっちゃうから仕方なく会社にしたって言ってました。
米光一成さん
だから、僕が入るまでコンパイルには「企画職」がなかったんです。みんなで「こんなのいいよね」と言ってつくっていた。企画書もない。サークルのかんじですね。いや、今のサークルの方がちゃんとやっていると思います。楽園のようだったそうです。すぐゲームができて、どんどん売れる。でも、いろんなことができるようになって、つくる時間も長くなって、ワイワイつくるだけでは上手くいかなくなってきた。だらだらやって頓挫することもでてきた。でも、それだと会社が回りません。だから、スケジュール管理をする人間が必要になったんですね。
「スケジュール管理」で募集すると人が来ないので「企画職」で応募をかけて、まんまと僕が入社。「企画なんて本当は必要ないと思っていた」と後から社長が言ってました。でも、どんどんゲームの規模が大きくなって、本当に企画も必要になって、僕はスケジュール管理だけでなく企画もやるようになったんです。
——他はクリエイターやプログラマーで、米光さんはいきなりそれを束ねる立場になるわけですよね。
米光:最初はシューティングゲームの仕事で、先輩から、いろいろ教わりながらやったんです。以前から勤めている人もまだ3年目とか若いので、僕がいきなり参加しても大先輩や上司という雰囲気ではなくて、サークル感覚で「新人がきたよ」というかんじの萎縮しない環境でした。
ゲームデザインの肝は「奇跡が起きる」場づくり
——以前「the interviews」で、米光さんは「ゲームデザインの魅力とは」という質問に対して、「奇跡が起こる確率を高めるのがゲームデザイナーのしごと。そこが魅力です」と答えられています。このあたりをもう少し詳しくお伺いさせてください。
米光:ゲームは一定の狭い枠、つまり「ルールをつくる」ものです。たとえば、実際の戦場ではありとあらゆることが起こる。実際には弱いと思ったやつがすごく強かったり、こけたりとか不慮の事故が起こって思ったようには進まないこともあるでしょう。でも、ゲームだとルールで決まったことの組み合わせでしか物事は起こらない。
僕が面白いと思うゲームは「これ、奇跡じゃん」ということが起こりやすいルールがつくられているもの。つまらないルールをつくると坦々と進んでどちらかが優勢になると逆転できない。奇跡が起きない。勝つ方もいじめているかんじでつまらないですよね。土壇場まで何かが起こって「あ、ここ見逃していた」とか「ここの一手、ここに効いてきた」とかあったほうが面白い。
「ぷよぷよ」だと「お邪魔ぷよ」という邪魔する「ぷよぷよ」がいて、画面一杯に埋まって負けそうになっても「お邪魔ぷよ」は消えやすいから、あっという間に逆転することができます。一定のルールの中で奇跡がたびたび起こると人々は「おー、俺すごいわ」と興奮する。「奇跡が起きる」場をいかにつくるか、というのがゲームデザインの肝です。
——さじ加減が重要ですね。
米光:さじ加減というより、仕組みなんですよ。ゲーム序盤では勝ち負けまだ決まりません。たとえば序盤では何かの変化値、つまり変化が起こるパラメータが微増し蓄積していって、後半に影響を与える仕組みになると奇跡が起こりやすいんです。
よくあるのは、「賞金金額がどんどん大きくなるが、外れると今までの分もなし」というやつです。あれも逆転を起こしている仕組みですね。賞金は倍になるけれど、今獲得している金額もなくなる。最初は1万円で、次に2万円、4万円、8万円、というふうに変化の値も大きくなっていくので、後半にいけばいくほど奇跡が起こりやすい。たった50万円だったのが100万円か0円かに大きく揺さぶられる。いや50万円で止めておくという手もある。プレイヤーの決断で、そこまで蓄積してきたものごとが大きく変化するんです。
なので、さじ加減というよりも、大事なのは仕組みなんです。人は文脈を感じて、奇跡を感じるもの。その場をつくるのがゲームデザインだと思います。
ゲーム会社で学んだチームマネジメント
——ゲームデザイナーは「映画の監督」みたいな仕事だということでしょうか。
米光:デザイナーというと絵を書く人のイメージもあったりしてわかりにくいので、「ディレクター」か「監督」と言うようにしています。どういうゲームをつくるかを決めて、モチベーションを下げないよう、完成に至るまで、みんながやりやすい「場」をつくっていくこと。奇跡が起こる確率を高めるような仕事です。
——ご著書の『仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本』(ベストセラーズ)の中で、「チームマネジメントもゲームみたいに楽しむ」と書かれていました。これもやっているうちに考えたことですか。
米光:「企画職をやれ」と言われたけれど、どうやっていいか分からない。現場の人にも「企画って何をするの? ディレクションなんていらないよ」と言われました。でも、ゲームの規模が大きくなって社員もどんどん増えてくと、バラバラでやっていくのは不可能だとみんな薄々気づきます。現場で何度も失敗しました。女子高生みたいにドラッカーでも読めばよかったんでしょうけど(笑)、そんな知恵もなかった。
でも、最初は小さなサークルだったのが、じょじょに大きく組織化されていくなか、現場で試行錯誤していけたのがよかった。スモールステップを繰り返して試行錯誤の果てに見出したプロジェクトを楽しく駆動する方法を書いたのが『仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本』です。書いた後に、アジャイルのカンファレンスに来てくれという依頼があったんです。「アジャイルって何ですか?」と聞くと「知らないんですか? アジャイルのことがご著書に分かりやすく書いてありますよ」と驚かれましたが、僕は全く知りませんでした。後から読めば確かに似ているところがある。もちろん違うところもあって、ゲーム制作の現場でゲームのことを考えているから、ゲーム的な方法論になってるんです。
「書く事」=「場づくり」
——ゲームづくりと広い意味での「編集」とは、米光さんの中では繋がっていますか?
米光:一緒です。ゲームで好きなところは「場である」ところ。しかも何の役にも立たないというというか、何か必要があってやるわけではない。「当事者」としてゲームを楽しみたい人だけが参加する。そういう「場づくり」が好きなのだ、ということにゲームをつくりながら気づきました。
もう1つは「インタラクション」が好きだということです。投げたら何か返ってきて、やりとりしていくうちにお互いが変わっていくという状況が好きです。その「場づくり」と「インタラクション」の2つをやっています。
僕は編集や書くことを、ライターの仕事が紙からネットに移り始める頃にスタートしました。雑誌にも2000年くらいから本格的に書き始めて、その頃にネットに書く事も仕事になりはじめた。ネットに書いたものは反応が速い。雑誌に書いてもメールがきて反応がくる。すごい「インタラクション」です。反応の遅い大昔なら、書く仕事はやってないでしょうね。書いても読者からの反応がほとんどないとなると、きっと僕は耐えられない。でも今だと状況が変わっていますから、「そうか、そう読まれたか。じゃあ次はこう書こう」となって、キャッチボールができるのが楽しい。「書く事」から「場」が生まれるんです。
今、ライターの講座をやっているのも、「ライターをやる」という制約があって、やりたい人が来る。そこでよい「場」を作るのが僕の役目です。一方的に教え込む場じゃなくて、実践の場へつながっていく場です。
「聞いて、いろんなことを教わる」という座学じゃない。僕はそれには興味がありません。こちらが一方的に投げるということはやりたくないんですよ。
「第3回:米光一成(立命館大学教授) 2/5」 に続く(2013/06/11公開)
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インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。
編集構成: 清水勝(VOYAGER)
編集協力: 宮本夏実
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