INTERVIEW

映画『鉱 ARAGANE』小田香監督インタビュー

ドキュメンタリー映画『鉱 ARAGANE』小田香監督インタビュー
「見えてはなかったけど、感じるものとしてあったから、私は撮りたかったんじゃないか。」

(c) film.factory/FieldRAIN

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ドキュメンタリー映画『鉱 ARAGANE』
小田香監督インタビュー

聞き手・文:小林英治

ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ近郊にある100年の歴史あるブレザ炭鉱。異国の地で映画作家を目指していた小田香は偶然ここを訪れ、地下300メートルの暗闇に蠢く人々、反射するヘッドライトの光、響くノイズと轟音に一瞬にして魅せられ、単身撮影に通うことになる。彼女がまとめ上げたドキュメンタリー作品『鉱 ARAGANE』は、死と隣り合わせの異空間で石炭を掘り続ける男たちの姿を、一切の説明を省いてただカメラでとらえている。しかし、その映像を見つめる者は、いつしか時代も場所も超越した次元へと滑り込んでいくことだろう。国内外の映画祭で評価を受けたこの作品が2週間限定でレイトショー上映されるこの機会に、ぜひスクリーンで体験してほしい。

●前編「作品を完成させるというより、目の前にある空間をキャプチャーできないかという気持ち。」からの続きです。

見えないからこそ感じるものがある

(c) film.factory/FieldRAIN

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―――映画の終盤でカメラが再び地上に上がってくると、季節が冬になっていて一面雪に覆われている風景が鮮烈です。それから、ロッカールームみたいなところが映るシーンで、いろいろ吊るしてあるのは何ですか?

小田:あれはロッカールームで、シャワー室が隣接してるんですけど、個別のロッカーの代わりに着替えた服とかを吊るしてスペースを確保してるんです。

―――美術のインスタレーションみたいでもあり、刑務所や収容所のようなイメージも浮かびました。

小田:そうですね。私も服が吊ってあるって、初めて見た時は異様な光景だなと思いました。しかもチェーンなのでいろいろ連想するものがありますし。なるべくその印象から離れるようなショットにしようとは思ったんですけど、映っているのが私ができた精一杯です。でもこの場所は必ず作品に入れたいと思っていました。

―――地下でいつも付き添ってくれたと方とは、地上に戻ってきたときに話などもされましたか?

小田:穴に入る前と出てきてシャワー浴びたあとに、いつも一緒にコーヒー飲むんです。そういうときにお互いに話そうとはするんですけど、結局苦笑いで終わるっていう(笑)。彼は安全管理のマネージャーなんですけど、私はもちろん坑夫の方たちからもものすごく信頼されていて、たぶん彼が横にいてくれたから、私はある程度中で自由にさせてもらえたんだと思います。映画が完成した後には、炭鉱で上映会をさせてもらいました。普段は映画を観ない方たちばかりだし、決して観るのが楽な作品ではないと思うんですけど、最後まで皆さん観てくれて、「よく頑張ったね」って温かいコメントをもらって、とても感動しました。

(c) film.factory/FieldRAIN

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―――現代社会の特に都市生活では、本当の暗闇って体験することがないと思うんです。でも、この映画を観ながら、見えないからこそ見えるものがあるんだろうと考えました。

小田:あると思います。見えてはなかったけど、感じるものとしてあったから、私は撮りたかったんじゃないかなと思います。それが何だったのかっていうのは、まだうまく言葉にできないですけど。

私がこの作品で提供できるものは体験

―――「監修」としてタル・ベーラの名前がクレジットされていますが、具体的にはどのようなアドバイスを受けたのでしょうか。

小田:撮影の段階では、「撮っているものに正直でありなさい」ということと、「あなたが何に魅せられてるのかをもう一回撮り直しなさい」と言われました。編集の段階では、私が良いと思ったショットをタイムラインにして並べたものを一緒に見ていくんですが、彼が「これはいい。これは駄目だ、抜きなさい」とショットの良し悪しをアドバイスをしてくれます。

―――彼のジャッジは常に納得するものでした?

小田:自分が良いと思って選んだものなので、最初は「えー?」って思うんですけど、一呼吸置いてもう一回考え直すと、やっぱり彼が100%正しかったです。スゴイなあと思いました(笑)。

小田香監督

小田香監督

―――この作品を撮ったことで、小田さん自身が変わったことはありましたか?

小田:撮ったのは単純に自分が楽しかったからなんですけど、去年大阪で、今回東京で上映していただくことになって、お金をもらって作品を共有するってどういうことなんだろう?と考えるようになりました。今の時点で言えるのは、私がこの作品で提供できるものがあるとしたら、体験だなって思います。地下に入って、こういう光の動きがあって、こういう人たちが働いていてという時間と空間の提供かなって。

―――Twitterでは、炭鉱の中の様子や坑夫たちを描いた絵を毎日アップしていますね。

小田監督による、炭鉱夫を描いた絵

小田監督による、炭鉱夫を描いた絵

小田:撮影時に撮ったポートレイトやフッテージから抽出した画像をもとに、なんとなく9月入ってから描き始めたものなんです。この作品のあとすでに別の作品を撮っていて、今も別のプロジェクトが進行中なので、製作時の気持ちに戻りたいっていう気持ちがあるのと、やっぱりこの作品は決して間口が広い作品ではないと思っているので、上映のためにいろんな人が頑張ってらっしゃるのに、監督の私が何もしないわけにはいかないっていう気持ちもあって。描いた絵を使って全部違うジャケットのサントラCDを作ろうかなと思っています。


「DROP」:『鉱 ARAGANE』100枚限定のサウンドトラックCDより

[ドキュメンタリー映画『鉱 ARAGANE』小田香監督インタビュー 了]

インタビュー写真:後藤知佳(NUMANBOOKS)
(2017年9月29日、都内某所にて)


『鉱 ARAGANE』
http://aragane-film.info/
https://facebook.com/araganefilm/

2017年10月21日(土)~11月3日(金)新宿K’s cinemaにてロードショー

監督・撮影・編集:小田香
監修:タル・ベーラ
プロデューサー:北川晋司/エミーナ・ガーニッチ
2015年/ボスニア・ヘルツェゴビナ 日本/DCP/68分
配給:スリーピン
(c) film.factory/FieldRAIN
公式サイト:http://aragane-film.info/


PROFILEプロフィール (50音順)

小林英治(こばやし・えいじ)

1974年生まれ。フリーランスの編集者・ライター。ライターとして雑誌や各種Web媒体で映画、文学、アート、演劇、音楽など様々な分野でインタビュー取材を行なう他、下北沢の書店B&Bのトークイベント企画なども手がける。編集者とデザイナーの友人とリトルマガジン『なnD』を不定期で発行。 [画像:©Erika Kobayashi]

小田香(おだ・かおり)

1987年大阪府生まれ。フィルムメーカー。2011年、ホリンズ大学(米国)教養学部映画コースを修了。卒業制作である中編作品『ノイズが言うには』が、なら国際映画祭2011で観客賞を受賞。東京国際画LGBT映画祭など国内外の映画祭で上映される。2013年、映画監督のタル・ベーラが陣頭指揮するfilm.factory(3年間の映画制作博士課程)に第1期生として招聘され、2016年に同プログラムを修了。2014年度ポーラ美術振興財団在外研究員。2015年に完成させた『鉱 ARAGANE』が山形国際ドキュメンタリー映画祭2015アジア千波万波部門にて特別賞を受賞。その後、リスボン国際ドキュメンタリー映画祭やマリ・デル・プラタ国際映画祭などで上映される。映画・映像を制作するプロセスの中で、「我々の人間性とはどういうもので、それがどこに向かっているのか」を探究している。