高山なおみさんの人気シリーズ最新刊『帰ってきた 日々ごはん(3)』(アノニマ・スタジオ)が発売になりました。装画を手がけたマメイケダさんは、DOTPLACEでもご紹介した、注目のイラストレーター。大阪・心斎橋アセンスで開催された出版記念トークイベントは、二人の結びつきが叶えた、ありのままの気持ちが伝わる、あたたかなひとときでした。
高山さんが神戸に引っ越して1年半。作家として本づくりに打ち込み、ひとりになって気づいたこと、見えてきたこと。ひとり暮らしのこと、絵本のこと、人生のこと……。なごやかな笑いに包まれたり、胸がじーんとしたり、このとき、この場だけの濃密な時間を、みなさんにもおすそわけします。
●前編「自分と同じような『しつこさ』を、マメさんに感じたんです。」からの続きです。
本づくりで、スッカラカンになって
高山:本は一回一回、自分を出し切らないと作れないんです。『帰ってきた日々ごはん(3)』にも出てくる料理本『料理=高山なおみ』(リトルモア)では、それこそすべて出し切ってしまって、とても楽しかったけど、スッカラカンになったんです。木皿泉さんとドラマの仕事も夢中になってやって、それで、私、なんにもなくなってしまったんです。
同じものを素材だけ変えてつくるようなレシピはやりたくない。同じことを繰り返したくない。これが一番おいしいってわかっているから、それ以上なんにもすることがない。そう思うと、料理のレシピがもう全然出てこなくなって。
やりたくないのにやっている、へんだな、へんだな。スイセイともケンカしているし、なにかがとてもうまくいってなかった気がして。もう、作家生命の終わりなんじゃないかと思いました。
絵本をつくりはじめたのはまさにこの頃で、楽しくて、楽しくて。泉のように湧いてくるからこっちに来るしかない、選択肢がもうそれしかなかったんです。東京から神戸にはるばる来てくださる編集者もいらっしゃるので、今はちょっとずつ料理の仕事をしています。またやり始めているのは、ただ楽しいから。
マメちゃんはこれまで『日々ごはん』は読んだことなかったんだよね。読んでみて、どうでしたか?
マメ:絵を描くので、ゲラをいただいて読みました。いい暮らしぶりだなって。正しい生き方をしているなって。こんなていねいに私はできていないから。みなさん、そう思われると思うんですけど、ちょっと自分の暮らしを見直して、ふだんつくらない朝ごはんをつくろうと思いました。
高山:朝ごはん、食べないんだ。ひとり暮らしはどうですか?
マメ:高山さんはどうですか?
高山:うちは坂の上で、お店も近くにないくらいのところだから、たいてい本当にひとり。マメちゃんはアルバイトとかで人と会う? いつも絵を描くときはひとり?
マメ:はい。ひとりだと気楽ですけど、がやがやしていても描けます。ひとりの方が好きですが、ずっとひとりはさみしいです。
高山:私は双子なので、生まれる前から母のお腹のなかで兄と一緒だったから、だれかいないとスースーするところがあって。ひとり暮らしをして1年半、最近になって、ひとりもいいなって思えたり、さみしいなって思ったり。ひとりだと、オムライスとか、焼きそばとか、懐かしいものが食べたくなるかも。天ぷらを買ってきて、祖母がやっていたみたいに甘じょっぱく煮て、ごはんにのっけたり。お客さんが来るとちょっと豪華なものもつくるけれど。マメちゃんも泊まりに来てくれたね。
マメ:「飲みに行きませんか」ってメールしたんです。ただ遊びで高山さんと飲みに行きたかったのと、挿絵の相談が少しできたらいいなと思って。結局、高山さんの六甲の家におじゃますることになりました。
高山:屋上で一緒にビールを飲んだよね。
マメ:たくさんビールを飲んでしまって、なんやかんや泊まることになって。楽しかったですね。挿絵の話は10分くらいしかしてないです。高山さんは寝るのが早くて、20時半とか。それから、六甲の家の中の、蛇口とか、スケッチしました。本の中の白黒の扉絵は、ふだん持ち歩いている、鉛筆だけで描いているスケッチブックの絵なんです。そのタッチで描いてほしいって、スイセイさんに言われて、描きおろしてみたのですが、仕事と思って描くからか、いつもとタッチがちょっと違ってしまうようで。けっきょく、スケッチブックのなかの、気の向くままに身の回りのものを描いていた絵が使われました。
高山:スイセイが喜んでいました。こういうのを待っていたって。『日々ごはん』には、誰も見たことがないような圧倒的なオリジナルな絵を載せたいからっていうようなこと、言っていました。
編集・村上妃佐子(村上さん):マメさんは絵の中に文字も書かれますが、スイセイさんは、絵に力があるから文字はなくしたいとも、最初からおっしゃっていました。すごくうまい人だから、そのために描くとなるとちょっと力が入るからと、スケッチブックから選ばれたのですが、本の中の扉絵には、スケッチしたノートの綴じ目まで入っていたり、裏に描いていた絵がうっすら写っていたりするんです。
高山:(扉絵を見ながら)いいでしょう。私もこういうの、すごく好き。
マメ:裏写りを生かしているのなんて、初めて見ました。いつものようにノートに連続で描いているから、スキャンすると裏の絵がちょっと写ってしまうんです。ふつうはそれを消すけど、そのまま生かしてやりたいって。
どうしてもやらなきゃならないことが、きっとまだある
村上さん:最後に、マメさんは、高山さんとスイセイさんと一緒に本づくりをしてみていかがでしたか?
マメ:二人と仕事をさせてもらって……、変な二人だなって思います。ご一緒するかもしれないというときに、『ココアどこ わたしはゴマだれ』(河出書房新社)を読みました。二人の話なんですけど、それを読んで、いま絵本をやりたいっていう気持ちがわかったっていうか。言葉では書ききれない感覚のような。その感覚がわかるっていうか。みなさんもきっとわかると思うんですけど。
二人とも、感覚的。私もたぶん感覚的な方で、似ているタイプだからやりやすかったし、ひと言で言うなら、「おもしろかった」です。
村上さん:高山さんは、神戸に引っ越してきて1年半、あらためていかがですか?
高山:木皿泉さんとも仕事をしていたし、神戸になじみは少なからずあって、町の感じもいいなあって思っていました。だけど、一番は絵本でした。私の絵本の絵を描いていらっしゃる、中野真典さんが兵庫に住んでいらして、中野さんと出会って、やりたいことがむくむくと出てきているので、この人の絵の近くにいきたいと思ったのが最初です。絵を描かれているところを見たかった。ただ、それだけではなく、たくさん伏線はあるんです。夢も見ていたんです。もう、何十年も前にね、いま住んでいるところの外観を。気持ち悪いからあんまり人に言わない方がいいよって、言われるんですけど。引っ越ししようと探しているとき、神戸のR不動産で写真を見つけたんです。そこがすごくよくて、ホテルみたいで。ふだんは忘れているんですけど、繰り返し見る夢ってありますよね。そのあとの夢の中では、行きたいんだけれども、途中で道がなくなってたり、迷ったりして、どうしてもそこに行けないんです。そんなこととか、いろんなことが重なりました。
誰かから神戸に誘われていたわけでもないんです。だけど、なにかやらなきゃならないことがある気がして、それに引っ張られて神戸まで来たんです。絵本のお話は、どんどん湧いてくるし。中野さんがときどきいらっしゃって、最近はうちでも絵を描かれるようになって。そう、本当に最近、ああ、このために神戸に来たのかなってわかるようになった、そんな感じです。変でしょう。シックスセンスというか、五感のほかにもなにか、そういうのがあって、そういうのにずっと引っ張られてここまで来た気がします。それをやらないといけないかなって、いう。こういう話は人前で初めてしましたけど。
いつまで神戸にいられるかわからないけど、いつまでこういう暮らしができるかもわかんないけど、どうしてもやんなきゃなんないことが、きっとまだある。今はそんな気がしています。
[高山なおみ×マメイケダ:『帰ってきた日々ごはん(3)』出版記念対談 了]
取材・文:宮下亜紀/写真:後藤知佳(NUMABOOKS)
(2017年9月15日 大阪・心斎橋アセンスにて)
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