鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などのコメントをしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。
【2017年1月5日】 ドイツ「Tolino」が、Rakuten Koboの傘下に。リアル書店とうまく連携することで、後発ながらアマゾン超えのシェアを持つ電子書店です。この買収によってそのノウハウがKoboにも活かせるといいのですが。なお、買収額は日経の報道によると「数十億円」とのこと。
【2017年1月6日】 無事に推奨仕様として承認。この後は、IDPFがW3Cに合併するため、恐らくこれがIDPFが規定する最後のバージョン、ということになるのでしょう。ただ、すでに会員社の投票で合併は承認されているにもかかわらず、合併反対派からの質問(という名の糾弾)が続いているようで、まだ動きがあるかもしれません(参考)。
【2017年1月10日】 このインタビュー記事が出ることで炎上することも、想定していたのでしょうか? 私は「NAVERまとめ」の新方針に対し、「いろいろ言いたいことはありますが、いい方向へ転換しようとしていることは評価したい」とブログでコメントしました。が、このインタビューの以下の2カ所は、あまりに酷い認識で目を疑いました。
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専門家ではない人がネットに落ちている情報をもとに「美味しいみたいですよ」と記事をまとめるケースが増えてきました。
この箇所、「落ちている情報」という表現が、LINE島村氏の感覚をよく示しているのではないでしょうか。「アップロード」という言葉の意味について、もう一度考えて欲しいところです。
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引用される、されないの定義に関しても、どこの誰かは分からない人に引用されているから権利者は怒るのであって、ネット界隈で有名な人に引用されたら「ありがとうございます」となるのではないでしょうか。
多くの人は、正規の「引用」ではなく「無断転載」されているから、怒るのではないでしょうか。相手が有名か無名かは二の次でしょう。だからこそ「主従関係」がポイントになるのです。
いや、例えば転載先からの流入が増えるとか、本が売れるといった「メリット」があれば、多少のことは許せるでしょう。Googleによるインデックス(ロボット巡回とキャッシュ複製)が許されているのは、それによってトラフィックが得られるからです。ところが現状「NAVERまとめ」に無断転載されても、「メリット」は限りなくゼロに近い。
私のブログは「NAVERまとめ」のサイト内検索結果によると69件ほど使われているようですが、それによるメリットを感じたことは一度たりともありません。具体的にブログへの流入量(2016年)で比較すると、「NAVERまとめ」は0.25%、「Google検索」は40.37%。圧倒的な差なのです。そういう意味で「一次コンテンツ作成者に向き合う」新方針には、まだ期待しているのですが。
【2017年1月13日】 図書館にも書架に限りがあるので、どうしても「除籍」が発生するのは理解できます。長期間借りられていないことを、判断材料の一つとして利用するのはいいでしょう。でも、長期間借りられていないからと単純に除籍してしまうのは危険です。図書館の役割の一つに「アーカイブ」があります。重要な記録を収集保存して未来へ残すこと。ところが、なにが重要なのかを、いまの価値基準で判断すると間違えてしまいます。例えば浮世絵は、江戸時代にはクズ紙として扱われていました。消耗品として扱われる、大衆文化の一つだったのです。200年も経つと、価値基準が変わってしまうのですよね。
【2017年1月13日】 応募受付開始。締切は2月末です。ぜひ一度「たてよこWebアワード」のサイトを開いてみてください。これ、すべてテキストで表現されているのです。HTMLとCSSとウェブフォントで、ここまでできるようになったんですよ!
【2017年1月18日】 電書市場が伸びているのに、期待が薄い理由について。端的に言えば「まだ市場が小さいから」に尽きるでしょう。それは現状ではいたしかたないとして、この記事には細かいツッコミどころがいろいろあって頭が痛くなりました。数字や事例を挙げて解説しているのはいいのですが……。
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インプレス総合研究所によると、2015年の電子出版市場は1826億円(前年比29%増)と大きく成長している。けん引しているのは8割以上を占める電子コミックだが(後略)
2015年の電子コミック市場は1277億円なので、分母が「電子出版市場」なら69.9%と7割を切っています。分母が電子雑誌を除く「電子書籍市場」なら1584億円なので、電子コミックは80.6%と「8割以上」になります。
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まず挙げられるのは、まだまだ紙に比べると出る数が少ないという点だろう。昨年9月、東京国際ブックフェア内で行われたイベントで、ブックウォーカーの安本洋一社長は「電子出版の割合は、KADOKAWAではまだ10%いくかいかないか(後略)
導入は「点数」の話ですが、安本社長は「売上比率」の話をしています。私は前から「売っていないものは買えない」と言い続けており、売上が伸びない理由の一つに点数が少ないことがあるとは思っています。が、ちょっとこの部分は飛躍しすぎでは。
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「規格が統一されていない」といった消費者にとってのデメリットも残っている。
「規格」は利用者にとって本質的な問題ではありません。デジタル著作権管理(DRM)によってベンダーにロックインされている点が問題。だから「本棚が分散してしまう」とか「サービス終了で読めなくなる」といった不便が起きてしまうのです。
【2017年1月18日】 昨年11月に、「Windows 10」の次期メジャーアップデートで、ブラウザ「Edge」がEPUB形式の閲覧に対応する見込みだというニュースがありました。それは、Microsoft自身が電子書店の販売を始めるためだったようです。ということは当然、「Windows 10」以外のメジャーなOSである「Android」や「iOS」や「Mac OS」にも対応するんですよね? いまどき、マルチデバイスに対応していない電子書店なんて、あり得ませんよね?
【2017年1月18日】 貸出回数に応じて著作権者に補償金が支払われる「公共貸与権」がある国とない国とでは、結果に大きな差が付きそうな動き。公共貸与権のある国では、著作権者は大喜びで図書館へ電子版をガンガン提供、有償の読み放題サービスが成り立たなくなる、かも。公共貸与権のない国では、タダで借りられてはかなわないと、図書館へ電子版が供給されなくなる、かも。うーん。
【2017年1月20日】 キングコング西野氏がブログで書いている「糞ダセー」や「お金の奴隷解放宣言」といった言動は、炎上マーケティングを狙っていると思われるので反応しづらい。ただ、「ウェブでの無料公開」を宣伝に利用する手法は「フリーミアム」と呼ばれ、すでに前例がたくさんあります。無名なところから先に無料で認知を広げて有料に繋げる形(いわばボトムアップ)と、有料で販売しているものを無料化する形(いわばトップダウン)がありますが、決して珍しい手法ではありません。これを「クリエイター潰しだ」などと批判するのは筋が悪いでしょう。だったら、「Twitter」や「pixiv」などの無料ツールは、利用できなくなってしまいます。
「紙の本を売る」という目的を考えると、プロデューサーとしては優秀です。売れれば出版社や書店も潤うわけで、まずは売れることが重要。ただ、紙の本をもっと売るための宣伝手段としてウェブでの無料公開を用いているのは明らかなのに、「小学生のため」や「もう『お金』なんて要らない」というキレイゴトで隠しているところが、エゲツナイ。真似できないし、したいとも思いません。
【2017年1月25日】 電子出版の数字が出ました。1909億円(前年比27.1%増)。コミック1460億円(27.1%増)、書籍258億円(13.2%増)、雑誌191億円(52.8%増)。ちょっと伸びが鈍化しています。電子を合わせた出版市場全体は1兆6618億円(0.6%減)と、惜しいところまできているのですが。あと、ウェブには公開されていませんが、「dマガジン」2016年9月末時点の会員数が332万人という情報がありました。こちらもちょっと伸びが鈍化していますね。
1月もいろいろ興味深い動きがありました。さて2月はどんなことが起こるでしょうか。
ではまた来月 (๑•̀ㅂ•́)و✧
[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2017年1月 了]
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