INTERVIEW

マンガは拡張する[対話編+]

菊池健×椙原誠×山内康裕:Webマンガと市場構造
「そのプラットフォームでしか見られないコンテンツを、どれくらい用意できるか。」

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マンガナイト代表・山内康裕さんが、業界の内外からマンガを盛り上げる第一線の人々と議論を展開する鼎談シリーズ「マンガは拡張する[対話編+]」。
今回のテーマは「Webマンガと市場構造」。新人マンガ家の育成を担う「トキワ荘プロジェクト」の菊池健さんと、マンガアプリ「マンガボックス」事業責任者の椙原(すぎはら)誠さんのお二人とともに激動のWebマンガ市場が今現在置かれている状況を整理しつつ、これからのマンガ家・編集者・そしてプラットフォームはいかにサバイブしていくかについて縦横無尽に語ります。
 
●連載「マンガは拡張する[対話編]」バックナンバー(全11回)はこちら

【以下からの続きです】
●前編:Webマンガ市場の動向をデータで振り返る
「電子書籍の普及でマンガ全体の売上は上がっている。その一方で……」

[中編:「マンガボックス」の戦略]

「モバゲー」の収益分析から生まれた「マンガボックス」

山内:ありがとうございます。続きまして、椙原さん。「マンガボックス」についてご説明をお願いします。

椙原:マンガボックスの説明をする前に、マンガボックスを運営しているDeNAの説明を少し。DeNAといえば今は横浜DeNAベイスターズが一番有名なのかもしれませんが、オークション、ショッピングなどのサービスも行っていまして、一番業績が伸びたのは「モバゲー」というゲームサイトの運営を始めたときですね。最近は、芸能人のライブなど生放送を配信している「SHOWROOM(ショールーム)」も。

菊池:あれ、すごいですね!

椙原:はい。これも伸びています。あとは「DeNAがDNA鑑定を始めた」と話題になった「MYCODE(マイコード)」という遺伝子検査サービスや、最近では、CtoCの自動車貸出サービス「Anyca(エニカ)」を始めました。

山内:そんな多様なサービスを行われているDeNAさんがマンガのサービスを始めたのは、どういうきっかけですか?

椙原:収益の柱になったモバゲーの中で、売上が上がっているゲームのタイトルを調べると、いわゆるIP(Intellectual Property/知財財産)もののゲームっていうのが大きかったのです。「キン肉マン」(ゆでたまご/集英社)や「キングダム」、「七つの大罪」(鈴木央/講談社)、「進撃の巨人」(諫山創/講談社)といった、マンガを原作としたIPを活用したゲームの売上も非常に大きいです。
 その数字をまた分析していくと、ライセンス元に対する支出もやはりそれなりに大きな金額になっている。ここが自社のIPになれば、非常に利益率が上がるだろうという、シンプルなことから始まりました。
 IPを自社で保有していきたい。そして人気IPは「マンガ」というフォーマットから輩出されるものが非常に多い。マンガであれば、ゲームと比べると投資も安いですし、自分たちでも多くのチャレンジができる。そこでDeNAでマンガのサービスを作り、最終的にはゲームになるようなIPを作っていこうという流れで「マンガボックス」を立ち上げるに至りました。

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山内:マンガボックスさんを一言で言うと?

椙原:「アプリで読める週刊誌」です。DeNA内で編集部も持っていますが、他の大手出版社さんのマンガも多く配信して、マンガのプラットフォームになることを趣旨として、マンガボックスを創刊しました。

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 自社の編集部には、「金田一少年の事件簿」(作画:さとうふみや/講談社)や「神の雫」(作画:オキモト・シュウ/講談社)の原作でおなじみの樹林伸さん(※編集部注:「金田一少年の事件簿」では天樹征丸名義、「神の雫」では亜樹直名義)を編集長として招聘させていただき、マンガを作っています。

マンガボックス編集部(中央手前:樹林伸編集長)

マンガボックス編集部(中央手前:樹林伸編集長)

 海外への同時配信も行っています。日本語のマンガの制作時に英語と中国語の翻訳も同時に行い、公開時には英語版・中国語版もあるという状態にします。
 マンガボックスは2013年末にリリースしたんですけど、2014年にはおかげさまで『日経トレンディ』(日経BP)のヒット商品第29位に選んでいただき、それなりに認知度・利用度がともに高まってきたという感じです。実際のダウンロード数も、2015年10月に900万ダウンロードを突破しています(図5)。

図5:マンガボックス ダウンロード数の推移(2015年12月時点)

図5:マンガボックス ダウンロード数の推移(2015年12月時点)。2016年4月には累計1000万ダウンロード突破が発表された

菊池:素晴らしいですね。

椙原:2年間運営してきた中で、自社のヒットIPの芽も出てきていて、一番有名な作品は「恋と嘘」(ムサヲ/単行本は講談社より発売)というラブコメです。このマンガは現在3巻まで出ているんですけども、紙の単行本だけで3巻累計45万部を突破している、と。3巻が順調に売れて重版がかかれば、累計50万部もすぐそこに見えてきている状態です(2015年12月時点)。

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「本誌」を支える「コミックストア」と「広告」

 マンガボックスの構成は、大きく3つの要素に分かれています。無料週刊誌にあたる「本誌」の部分(図6中央)と、「マンガボックス インディーズ」(図6左)、そして「コミックスストア」(図6右)です。

図6:マンガボックスの構成

図6:マンガボックスの構成

 「マンガボックス インディーズ」はプロではない作家さんも自由にマンガ作品を投稿できるコーナー。「コミックスストア」は、マンガ好きなたくさんの方々に作品を販売していくために準備したストアです。つい最近まではマンガボックスで連載しているものしか販売していませんでしたが、つい数ヶ月前から、いわゆる普通の電子書籍ストアと同じような品揃えになっています。

 マネタイズは「コミックスストア」「広告」で行っています。

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 まずコミックスストア。「無料で1巻・2巻・3巻が読める」というものが売れやすいのですが、その中でも一番売れるのはマンガボックスの本誌連載分のマンガで、売上を大きな部分を占めています。週刊連載をすると、1話が終わったところで「単行本を買いたい方はこちら」という導線を準備して、そこから「もっと早く読みたい」「これ面白いから全部読みたい」というユーザーさんが一気に買えるようにしてあります。コミックストアを拡充して3ヶ月くらいで、LINEマンガさんに次いでAppStoreのブックカテゴリーで2位の売上を出せるようになってきました。

費用を使わずにユーザーを流入させる取り組み

椙原:ストア以外での収益源と言うと、やはり広告を柱にしています。

図7:マンガボックスのマネタイズ:広告

図7:マンガボックスのマネタイズ:広告

 いろんな形の広告商品を用意してるんですけど、「本誌」部分に作品を選択するページがあり、そこにグリッド型の広告を表示させて、クリックするとAppStoreに誘導するとか(図7左)。あとは、商品もしくはゲームのマンガ化をして、それをマンガボックスのお客さんに読んでもらうことで認知率を上げられる「マンガ型広告」も制作しています。
 さらに、「プリロール広告」(図7中央)。例えばYouTubeさんでは、動画再生をするとその前に広告が出たり、マンガでも(紙の)雑誌で読むとマンガとマンガの間に広告があったりすると思うのですが、それをアプリ上でも実現して、話と話の間に広告を入れる「プリロール広告」も商材にしています。
 そして「ボーナスコイン」(図7右)。これはマンガボックス内で手に入るコインで、作品を先読みしたりストアで買ったりすることができるシステムなのですが、コインを現金で買うのではなく、例えば広告を見たり会員登録をしたりアプリをダウンロードしたら10コインが付与される、みたいな仕組みでマネタイズをしている部分もあります。
 マンガボックスの特徴の一つとして、1週先のマンガが読める「先読み」機能があります。50コインを使えば1週先のマンガを待たずに読める仕組みになっているんですけど、TwitterやFacebookで「このマンガを読みます!」とユーザーさんにシェアしてもらえれば(図8)、50コインを使うことなく無料で先読みしてもらうことができます。これが1日10万ツイートくらい。

図8:SNS上にリンクをシェアすることで利用できる「先読み」機能

図8:SNS上にリンクをシェアすることで利用できる「先読み」機能

菊池:10万!

椙原:はい。そういった仕組みで、費用を使わずにユーザーを流入させる取り組みを行っています。
 マンガボックスの説明は以上です。

山内:ありがとうございます。

定額制動画配信サービスの展開は、これからの競合戦略の教科書

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山内:電子書籍を販売するサイト・アプリの数は相当増えていますよね。その中で、アプリ間の差別化は進んでいますか?

椙原:差別化に関しては、一つモデルケースがあります。菊池さんの先ほどの資料にもありましたが、NetflixやAmazonプライム・ビデオといったところが、競合戦略の今後の教科書になるだろうなと思っています。究極は自社作品なんですよ。
 先日、Netflixが他社のライセンス作品をぐっと減らし、その分自社のオリジナル作品に投資するとニュースになっていました。どこのチャンネルでも観られるものをいくら持っていてもまったく差別化にはならないので、そのプラットフォーム上にしかないものをいかに作っていくかが重要になっており、それは僕らの業界にも当てはまってくるだろうと思っています。

菊池:確かに。

椙原:Amazonも自社のスタジオを作ったりしています。過去作品のライブラリーの数で戦っていても、結局どこも一緒になってしまう。ここにしかないものを見に来てもらう。それが数年後の状態になるだろうと、明確に見えてますね、

菊池:僕はCSでいうと歴史チャンネルなんかが好きなんですけど、まずはそういうマニアック路線から始めるのでしょうか?

椙原:いや、もう完全にコンテンツに対して投資をして、回収できるかどうかがポイントになります。歴史ものに投資したとして、そのROI(投資利益率・投資回収率)がいいかどうかだけですね。マニアックなものを作って、一定のファン層を獲得し、収益を上げられるようならやります。マスにウケるコンテンツでお金がかかるなら、1本だけ作る形になるだろうし。そこでしか見られないコンテンツがどれくらいあるかが、今後の差別化要因だと思います。

後編「マンガは『キャラクターを生み出すためのもの』なのか?」に続きます

構成:石田童子・後藤知佳(numabooks)
写真・編集:後藤知佳(numabooks)
(2015年12月8日、マンガサロン『トリガー』にて)

★今回のゲストの菊池健さんが、マンガ家支援の連携プラットフォーム作りのためクラウドファンディングを実施中! 詳しくはこちら(2016年5月15日まで)。


PROFILEプロフィール (50音順)

山内康裕(やまうち・やすひろ)

マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。 1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。 また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。 主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭2014」「日本財団これも学習マンガだ!」等。 「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「国際文化都市整備機構」監事も務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)、『コルクを抜く』(ボイジャー)がある。http://manganight.net/

椙原誠(すぎはら・まこと)

株式会社ディー・エヌ・エー IPプラットフォーム事業部 開発一部 部長。 新卒で株式会社NTTドコモ入社後、株式会社ミクシィなどを経て2013年にDeNA入社。現在マンガボックスの事業責任者。好きなマンガは「寄生獣」「七夕の国」「ヒストリエ」「AKIRA」「キングダム」「蒼天航路」「刻刻」「クローズ」「新宿スワン」「ミュージアム」「予告犯」など。

菊池健(きくち・たけし)

1973年東京都生まれ。日本大学理工部機械工学科卒。機械専門商社、外資コンサル(PwCC)、板前、ITベンチャー等を経て、2010年1月よりNEWVERY。クリエイティブ事業部トキワ荘プロジェクト、マンガHONZレビュワーなど担当。講演・イベント登壇/司会、大学講義など多数。


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