COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2015年11月「TSUTAYA図書館で問題続々」など

takano
 鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などをコメントしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、著しく電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

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2015年10月31日 直前に、図書館流通センター(TRC)が「理念の違いを埋められなかった」と、共同で図書館事業を手がけるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)との協力関係を解消する方針であることが報道されました。ところが後から「(10月1日にリニューアルオープンした)海老名市立図書館について、共同事業体を解消するとは言っていない」という見解が示されました。ただしTRCは、海老名市立図書館以外では今後CCCと協力することはないという姿勢は崩していないそうです。なお、武雄市から始まった「TSUTAYA図書館」には「選書」「分類法」だけではなく、「予算流用」「郷土資料の破棄」「Tカードと個人情報」「Pマーク返上」などさまざまな問題があるため、問題の一部だけを切り取った「古臭い分類に固執」などいう言説や、「情報公開請求は意図的なものを感じる」などという擁護意見は眉に唾すべき、と私は思っています。

海老名市立図書館の公式ウェブサイトより(スクリーンショット)

海老名市立図書館の公式ウェブサイトより(スクリーンショット)

2015年11月1日 まさか当事者がインタビューを受けるとは思わなかった騒動。本の内容については「自分が即興的にパソコンでギリシャ文字を打ったもので、意味はない」などと述べており、腹立たしく思ったのですが、冷静になって考えてみるとこれは非常に難しい問題。あらゆる出版物を後世に残すのが目的ですから、国立国会図書館側では本の内容を吟味して選ぶという行為はできないのです。同人誌(ユネスコの定義なら多くは「小冊子」)ですら、本来は納入対象です。ただ、定価の半分と送料を「代償金」として支払う制度に穴があるのは確かでしょう。納本義務のある「出版物」の定義を、もう少しはっきりさせた方がいいように思います。少なくともこの男が言う「美術品とか工芸品」は、現時点でも国立国会図書館の収集対象ではありません。

2015年11月3日 9月に発表された「とらのあなダウンロードストア」サービス終了の件を発端に、電子書店の撤退による「読めなくなる問題」全般を論考した記事。「紙の本は所有権を買うものだが、電子書籍は閲覧権を買うものなのだ」とありますが、正確には、DRMで書店に縛り付けてしまうことにより発生する問題なのですよね。奇しくもこの記事の3日後、KDDIの「LISMO Book Store」が来年4月にサービス終了することが発表されました。

2015年11月4日 以前、Amazon社員に「世の中にあるリアルショップをすべて無くすこと。それも10年以内に」というミッションが与えられていた、という話があったのですが、自社で常設型の店舗を作ってしまいました。なんでやねん。「壁際の本棚には天井まで本がぎっしり。しかし、はしごなどは見当たらなかったとのこと」というレポートには思わず苦笑い。

Amazon.com内、「Amazon Books」紹介ページより(スクリーンショット)

Amazon.com内、「Amazon Books」紹介ページより(スクリーンショット)

2015年11月4日 日本音楽著作権協会(JASRAC)や日本書籍出版協会など、権利者側からも「創作活動が萎縮する」ことへの懸念が表明されたのが画期的。その後、日本文藝家協会からの声明や、安倍首相まで「二次創作が萎縮しないよう留意する」と発言するなど、TPPで著作権侵害が非親告罪化することによる影響は最小限に抑えられそうな気配になってきました。残る問題は、著作権保護期間の延長です。権利者側はTPPによる保護期間延長を歓迎する方が多いようなので、thinkTPPIPMIAUの「期間延長は、登録作品のみを対象」という提案がどこまで受け入れられるか。そもそもTPPが妥結されるかどうか(現時点は「大筋合意」に過ぎない)も含め、引き続き注視しておきたいところです。

2015年11月11日 正確には「TPPで」ではなく、TPPと並行で行われていた日米間の交渉内容です。「TPP協定締結を契機として検討すべき措置」で、日本からは著作権保護期間の戦時加算解消などが要求されています。そしてアメリカからは「海賊版ダウンロード違法化を、音楽と映像だけではなく、文章、画像、プログラムなどにも拡大せよ」などと要求されているそうです。記事の最後で触れられている「電子書籍」を著作権法で違法ダウンロードの対象にするのは、少々無理があるでしょう。「電子書籍」をどう定義するか。PDFやHTMLだって「電子書籍」の一種ですよね。著作権法ではなく、技術的保護手段回避の不正競争防止法違反で充分ではないでしょうか。

2015年11月11日 10月29日の朝日新聞『本が売れぬのは図書館のせい? 新刊貸し出し「待った」』が大きな話題になっていたのですが、根拠が明白ではない「図書館の影響で売上が下がる」という主張の当否はさておき、あくまで一部出版社からの「お願い」レベルの話なので、前回のまとめにピックアップするのは避けました。今回ピックアップした新文化の記事は、図書館総合展のフォーラムで『対象とされる本は「著者と出版社が合意した本」に限定』という説明がなされたという話。要するに、一部の声の大きい著者の意見に、新潮社が従わざるを得なかった、ということなのでしょう。すべての出版社や著者が、図書館での新刊貸出猶予を望んでいるわけではないのです。

今月中旬に行われた第17回図書館総合展にて(撮影:筆者)

今月中旬に行われた第17回図書館総合展にて(撮影:筆者)

2015年11月11日 リリースに書いてある「電子書籍市場でマンガがけん引していることからも、活字離れしている若者にも訴求できると考えています」という言い回しには若干疑問を感じるのですが、リッチコンテンツ化路線は「従来の読者」じゃない層を引き込むには良い策だと思うのです。本読みは少数派ですから。古くから電子書籍に関わってきた人たちはこういう路線に対し「それは俺たちがかつて通った道だ」と懐疑的なようですが、消費者側のマインドが変われば同じようなモノでも受け入れられ方が全く異なる場合があるので、なんとも言えないな、というのが私の正直な感想。LINEの画面に慣れていると、こういう吹き出し型&横書きで縦スクロールには違和感ないでしょうからね。

「ストリエ」公式サイトより(スクリーンショット)

「ストリエ」公式サイトより(スクリーンショット)

2015年11月13日2015年11月18日 2本まとめてピックアップ。2015年1月から施行された改正著作権法の「電子出版権」侵害での逮捕は、集英社の事例が初とのこと。「配送会社社員が、印刷工場から書店への発送過程で雑誌を抜き取って仲間の中国人に渡していた」ようですが、もっと早い工程でデータを抜かれている可能性を指摘する声もあるので、数あるルートの1つなのかもしれません。せっかく出版社が手に入れた武器なのですから、どんどん活用していただきたいところ。ところで、マンガ誌掲載時点で電子出版権が設定できているということは、従来のように単行本になる時点での契約ではなく、マンガ誌掲載時にきっちり契約してるということになりますよね。読み切り掲載の場合はどうなるんだろう?

2015年11月17日 自分の書いた記事ですがピックアップ。コンテンツを供給する側にどんな問題点があるのか、という視点の話です。こういうとき「卵(=コンテンツ)が先か鶏(=ユーザー)が先か」と混ぜっ返す人がいるのですが、ユーザーニーズが顕在化しておらず喚起しなければならない段階なのですから、卵が先にないと普及しないと私は思っています。つまり、なにはともあれ、まずラインアップ。コンテンツの量がある程度確保されなければ、人は寄りつかないです。

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 11月もいろいろ興味深い動きがありました。さて12月はどんなことが起こるでしょうか。
 ではまた来月(=゚ω゚)ノ

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2015年11月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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