COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2015年10月「TPP大筋合意で、著作権保護期間延長・非親告罪化・法定賠償金制度が日本へ導入か」など

takano
 鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などをコメントしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、著しく電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

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2015年9月29日 越境取引への消費税課税が開始されました。「薄れる優位性」とありますが、エージェンシーモデル(出版社が小売価格を決定)でAmazonと契約している講談社・小学館・集英社あたりの電子書籍は、以前から消費税込みの販売価格でしたから、10月1日以降も変化はありません。また、簡単に代替できる物品の購入と違って電子書店は「サービス」ですから、消費税分の価格優位性がなくなったところで、簡単にユーザーが他の電子書店へ移るとも思えません。

2015年10月2日 まだ終わらない「緊デジ(コンテンツ緊急電子化事業)」問題。会計検査院からの調査依頼なのに、300社が未回答。回答した40社の電子書籍約1万8500冊のうち、約2400冊が未配信。日本出版インフラセンター(JPO)は記者会見で、今月中に調査結果を公表すると釈明しています。が、そもそも、JPOが公表した電子化対象一覧にタイトルしか記載されていない問題(河北新報記事のInternet Archive)を放置したままなのが、不誠実です。

2015年10月6日 著作権保護期間延長、著作権侵害の非親告罪化、法定損害賠償制度の導入と、以前から懸念されていた3点セットが丸呑みになっています。非親告罪化は対象が「商業的規模の侵害」に限られている点が唯一の救い。ただ、現時点はまだ「大筋合意」で、妥結したわけではありません。アメリカは来年大統領選挙ですが、主要候補が軒並みTPPに反対しているという状況なので、署名できない可能性があります。詳しくは福井健策弁護士による解説記事をご確認ください。偽造品の取引の防止に関する協定(ACTA)のように、日本だけが批准するみたいなことにならなければいいのですが。

2015年10月7日 KADOKAWAくらいの大手が、公式で二次創作もOKなプラットフォームを自ら運営するというのが新しい。対象作品は『オーバーロード』『ココロコネクト』『涼宮ハルヒの憂鬱』『バカとテストと召喚獣』『フルメタル・パニック!』『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』『闇の皇太子』『幼女戦記』『ログ・ホライズン』と、富士見ドラゴンブックのテーブルトークRPGなど。これで、Amazonによる公認ファン・フィクションプラットフォーム「Kindle Worlds(登場時の紹介記事)」が日本へ来るのが早くなるかも?

KADOKAWAによる小説投稿プラットフォームのティザーサイトより(スクリーンショット)

KADOKAWAによる小説投稿プラットフォームのティザーサイトより(スクリーンショット)

2015年10月13日2015年10月28日 2つまとめてピックアップ。どちらも「出版社が著者に無断で作品を利用」という事件です。リブレ出版の事例は担当編集者の独断だったようで、回収、返金、解雇処分や責任者の減俸、ホットラインの開設など、迅速かつ丁寧な対応には好感が持てます。エイ出版社の事例は「許諾のとり忘れ」だったようですが、著者の名前が削られていた理由は不明。本稿執筆直前に起きた事件なので、まだ情報が不足しています。なぜこういう事態が起きたのか、どういう再発生防止策を講じるのかを公表し、著者が今後も安心して作品を預けることができるようにして欲しいものです。

リブレ出版のウェブサイトより(スクリーンショット)

リブレ出版のウェブサイトより(スクリーンショット)

2015年10月16日 4月に「Kindleを抜いた」Tolinoの方が来日していて、私も取材しました。面白いなと思ったのが、Tolinoと書店との関わり方について。Tolinoは端末とシステムとブランディングを提供しているだけで、「書籍を売る」責任は各書店にある、というスタイルなのだそうです。書店がユーザーへ端末を売ると、ユーザーは「この書店から電子書籍を買う」契約を結ぶことになるのだとか。運営方針も書店の方針に沿うし、顧客情報も書店が持つ形。だから書店が一生懸命端末を売るのだなという理解をしました。

ドイツの電子書籍ストアのシェア率の変遷(撮影:筆者)

ドイツの電子書籍ストアのシェア率の変遷(撮影:筆者)

2015年10月16日 「金銭を受け取ってレビューを投稿すること」は、Amazonカスタマーレビューの禁止行為です。にも関わらず、不自然なレビューは後を絶ちません。これは、誰でも見られるオープンスペース(クラウドソーシングサービス)で募るという間抜けな事例だったため簡単にしっぽが掴めましたが、クローズドなところではどれだけのステマ行為が横行していることか。アメリカのAmazonでは捏造レビュー業者はおろか、それを仕事にする個人も被疑者不明のまま訴える事態にまで進展しており、日本でも本腰を入れるかどうかが注目されます。

2015年10月17日 Google Books Library Projectが始まったのが2004年、訴訟が始まったのが2005年。和解案がクラスアクション(集合代表訴訟)で、日本の出版社も巻き込まれると大騒ぎになったのが2009年の春。ところが年末には日本は対象外となり、急速に関心が薄れていった感があります。その後、まずフェアユースかどうかを議論しようという話になり、地裁でフェアユースが認定されたのが2013年。そして今回が高裁判決。もう10年も裁判やってるんですよね。原告のAuthors Guildは諦めず上訴するようですが、ニューヨーク在住の文芸エージェントである大原ケイさんによると「最高裁判所が、このケースを取り上げることはほとんどないでしょう」とのこと。TPP大筋合意を受け、このフェアユースを日本へどうやって導入するかを改めて議論する必要があるでしょう。

2015年10月29日 非常にコメントしづらいのですが、クロスチェックをしてみたら興味深いことに気づきました。
NHK「取材には応じられない」(Internet Archive
産経「著作者に関する見解がわれわれと大きく異なる
毎日「決定を精査した上で今後の対応を決めたい
読売「決定を精査し、早急に対応を検討する
朝日「仮処分決定は、著作者とは何かということについて、当方の見解と大きく異なる。精査した上で、早急に対応方針を検討する」
 朝日は最後に福井健策先生のコメントも載ってて、一番バランスが良いですね。NHKどうした。

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 10月もいろいろ興味深い動きがありました。個人的には、ITmedia eBookUSERの更新が9月30日で終わってしまったのが残念なのと、10月1日以降「電子書籍」カテゴリを引き継いだ形になっているITmedia Mobileで電子書籍関連の記事がほとんど更新されていない点が気になっています。さて11月はどんなことが起こるでしょうか。

 
 ではまた来月(=゚ω゚)ノ

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2015年10月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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