INTERVIEW

マンガは拡張する[対話編]

ブルボン小林(コラムニスト)×山内康裕:マンガは拡張する[対話編]
「個々のマンガが面白いことはわかってるから、ひとつひとつ褒めていこう、と。」

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マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]。9人目のゲストは、『週刊文春』にてマンガ時評「マンガホニャララ」を連載中のコラムニスト、ブルボン小林さん。手塚治虫文化賞や小学館漫画賞などの選考委員も務めるブルボンさんにとって「マンガを語る」という行為がもたらすこととは何か、そして漫画賞の選考にまつわる裏話などをたっぷりとお伺いしました。

最近のマンガは面白くない?

山内康裕(以下、山内):今日はよろしくお願いします。ブルボン小林さんはコラムニストでありながら、長嶋有名義で小説家としても活躍中という、2つの顔を持っています。
 今日はマンガコラムニストのブルボンさんに、マンガ周辺の人たちとマンガをどう拡張していくか、マンガという概念がどう拡張していくのか、マンガへのアクセスをどう増やしていくか、そういう話ができればいいなと思っています。どうぞよろしくお願いします。

ブルボン小林(以下、ブルボン):よろしくお願いします。この連載の今までの対談者が錚々たるメンバーなので、いきなり僕でごめんなさい、という感じなんですけど(笑)。

山内:いやいや(笑)。

ブルボン:その啓蒙して広めたいっていう意欲が、山内さんはすごいなって思うんですよ。そんなこと誰も考えてないでしょう(笑)。
 僕が語るのは「このマンガが面白いよ!」というような個人的なことで、すごく近視眼的な気がしています。山内さんのように、マンガ界を俯瞰したり、「マンガは面白いはずのものだからもっと広まるはずだ」という意欲があるわけではないんですよ。

ブルボン小林さん

ブルボン小林さん

山内:そうなんですね。

ブルボン:でも、目前のマンガに関しては「ここが面白いよ」とか「ここがいいと思うよ」と、自分なりに薦めていきたい意欲はあるんですよ。

山内:はい(笑)。

ブルボン:山内さんの文章を読んでいると、僕とは違う観点でマンガを愛してるなって思うんですよね。

山内:それはあるかもしれないですね。僕は今35歳なんですけど、ちょうどマンガ出版がピークの頃が中学生くらいだったと思います。そのときは、マンガはすごく盛り上がっていて。

ブルボン:それは、マガジンやジャンプの部数が何百万部って頃?

山内:そうです。「スラムダンク」や「ドラゴンボール」が終わった後くらいですかね。それから高校、大学へと行く頃には、友だちがだんだんマンガを読まなくなっていって。

ブルボン:ああ、なるほど。じゃあ、つまり大きいエネルギーとして「マンガ」を見ていた感じですね。

山内:そうなんです。もちろん、個別作品で好きだったものもたくさんありますが、根本的には「マンガ」というものにいろいろなエネルギーを貰ってきたと思っています。それが、90年代後半くらいからマンガが盛り下がり始めた。

ブルボン:ふんふん。シーンというものがね。

山内:はい。そんな頃、友だちが「今のマンガつまんないよね」って言っていて。「『スラムダンク』とか昔のマンガのほうが面白いよね」って。でもよく話を聞いてみると、彼は今のマンガを読んでないんですよ。読まないので「昔のマンガが面白い」って言うしかない。そして読まないのは、作品数が増えているのもあるし、自分に合うマンガに出会ってないからじゃないかと。それがちょっと、もったいないな、と思ったんです。

ブルボン:「最近のマンガは面白くない」は、面白くないんじゃなくて、読めない。僕もそれは共感できる部分があります。それはしりあがり寿さんも(「マンガは拡張する[対話編]」第1回の中で)言っていましたね、マンガが強くなりすぎたって。昔、自分が一生懸命読んでいた時代のものが馴染むっていう意味も含めて。でもそれはどうしてもありますよね。

山内:はい。それはあると思います。

ブルボン:だからそこで、ちゃんと啓蒙されてないんじゃないのって踏ん張れる愛情に、山内さん独自のものを感じるし、心を打たれます(笑)。

山内:ありがとうございます(笑)。

語る言葉を変えれば、啓蒙し得る

ブルボン:僕はね、多くの方が仰るように、今のマンガの密度や長さが、むしろマンガらしさを失っているんじゃないかと。概ねはそっちの意見に同感なんですよ。でも一方で、今のマンガを語る仕事を10年以上続けているから、否応なく読むでしょう。そうすると、矛盾するようだけど山内さんが仰っていることもわかる。今も面白いマンガがあるなあ、という。

山内:仕事上、たくさん読まれますもんね。

ブルボン:はい。今のマンガシーンが全然ダメかっていうと、そんなことは全くない。面白さを語る言葉を変えていけば、今なお啓蒙はしうると思うんですよ。

山内:今の時代は余裕もそんなにないですし、ピンポイントで自分に合うマンガを読みたいという人が増えている。無駄打ちはしたくないと。だから出会えないのかなって思うところもあります。

ブルボン:でも好きなマンガに出会えないって、別にその人の人生に不幸を与えるわけでもないからね(笑)。

山内:そうですね。たぶん、余計なお世話ですよね(笑)。

ブルボン:だから、それを憂いている山内さんがすごい(笑)。

山内:余計なお世話なんですが、0から1を産むのではなくても、1を1.5にするようなことができるんじゃないのかな、と思っているんです。マンガがかつて好きだった方にもう一度読み始めてもらうきっかけですね。
 娯楽の中でも「マンガ」にはそのポテンシャルがあるのに、全体が盛り下がっていってしまって、マンガ文化が衰退するのはもったいないと思っています。

ブルボン:やっぱり、シーンとして好きだってことですね。僕がそこまで思ってないのは薄情なわけではなくて。今でも、個々のマンガが面白いことはわかってるから、ひとつひとつ褒めていこう、と思っているんですね。さっき言ったように近視眼的なんですけど。

(左から)山内康裕さん、ブルボン小林さん

(左から)山内康裕さん、ブルボン小林さん

2/6「『文春載ってる!』って親の電話で知る方が、装置として大きいでしょう。」に続きます

構成:石田童子
(2015年2月24日、レインボーバード合同会社にて)


PROFILEプロフィール (50音順)

ブルボン小林(ぶるぼん・こばやし)

1972年生まれ。「なるべく取材せず、洞察を頼りに」がモットーのコラムニスト。2000年「めるまがWebつくろー」の「ブルボン小林の末端通信」でデビュー。常にニッチな媒体を渡り歩き、北海道新聞、週刊文春などのメジャー誌から、スウェーデンの雑誌やメルマガなどでも連載を持つ。主な著書に、『ぐっとくる題名』(中公新書ラクレ)、『ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ』(ちくま文庫)、『ゲームホニャララ』(エンターブレイン)、『マンガホニャララ』(文藝春秋)など。小説家「長嶋有」としても活動し、2002年『猛スピードで母は』で第126回芥川賞受賞。2004年『夕子ちゃんの近道』で第1回大江健三郎賞受賞。同じく2004年『サイドカーに犬』が映画化。

山内康裕(やまうち・やすひろ)

マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。 1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。 また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。 主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭2014」「日本財団これも学習マンガだ!」等。 「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「国際文化都市整備機構」監事も務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)、『コルクを抜く』(ボイジャー)がある。http://manganight.net/


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ブルボン小林 (著)
文庫: 291ページ
出版社: 文藝春秋
発売日: 2013/4/10