COLUMN

菅俊一(監修) 電子本の売り方がよくわからないDOTPLACE編集部がとりあえず思いついたことから何でもやってみる企画(仮)

菅俊一(監修) 電子本の売り方がよくわからないDOTPLACE編集部がとりあえず思いついたことから何でもやってみる企画(仮)
04: 電子サイン会とはなんだったのか

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04: 電子サイン会とはなんだったのか


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■下北沢B&Bで行われた『まなざし』電子サイン会とはなんだったのか
 
2014年9月28日(日)、東京・下北沢の本屋B&Bにて、『まなざし』刊行記念イベント「『まなざし』のまなざし」が開催されました。その中でも、トークの後に行われるという触れ込みだけが事前にあり、当日まで謎に包まれていた「電子サイン会」。もしかしたら史上初の試みだったかもしれないので、その手順を含めレポートします。
 
 
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「まなざし電子サイン会」反省文
菅俊一

 
2014年9月11日numabooksにて、代表の内沼氏、「まなざし」担当編集の後藤氏、株式会社ボイジャーの清水氏と「まなざし電子版をどうやって売っていけばいいのかな会議」が開催された。
 
その場では今後も我々が取り組んでいく予定の、様々な施策のアイデアが話されたのだが、その中でB&Bにて出版記念イベントをしようという話が持ち上がった。
 
出版記念イベント自体はあらゆる所でやられているため、さほど珍しくは無い。そこで、今回出版記念イベントの目玉として「サイン会」をやろうということになった。サイン会と言っても、「まなざし」は電子書籍だ、普通のサイン会とはわけが違う。どうやってやるのか皆目見当が付かないまま、「電子サイン会」という耳慣れない言葉にうっとりした我々は、2週間後の日曜日、9月28日に「『まなざし』出版記念トーク&電子サイン会」という奇っ怪なイベントを決行することだけを決め、解散することになった。
 
あっという間に10日ほど経過し、日々の仕事で「電子サイン会」のことなどすっかり忘れていたのだが、そういえば週末にサイン会やるんだったよなと思い出した瞬間、どうやって「電子サイン会」をやればいいのか、まだ何一つ決まってないことに気づき、慌てて後藤氏とFacebookメッセンジャーで打ち合わせをすることとなった。
 
す「そういえば週末の電子サイン会……」
ご「まだ決まってないですね、そういえば」
す「どうしよう……」
ご「どうしよう……」
す「まあこの前やった『読書感想文コンクール』の景品みたいな感じを、公開でやればいいんだよね。とは言え、希望者の購入確認とかサインしたデータの受け渡しとかどうするか考えないとなあ」
ご「そうですね」
す「ちょっと考えてまた送ります」
ご「はい」
 
― 30分後 ―

 
す「あ、いいですか〜」
ご「はい」
す「ちょっと例のやつ考えてみたんですけど、やっぱり相手のスマホに直接サインを書くのは、相手にアプリを用意してもらう必要があるから、結構めんどくさいし厳しいと思う」
ご「ああ〜」
す「だから、ちょっと考えたんですけど」
ご「はい」
す「僕がその場でお客さんの要望に応えて、サインを自分のMac上のPhotoshopで書いてデータを作って、それをメールで送りつけて渡すという感じが良いと思うんですよね」
ご「はい」
す「で、出来ればバタバタすると思うのでサインを書く人とメールでサインを送る人の二人必要で、サインはまあ僕が書くとしてなんですけど」
ご「じゃあ、私が送る係やります」
す「あと、『まなざし』を買ったかどうかの確認も必要で」
ご「そのあたりも考えておきます」
す「よろしくです(おじぎしてる鳥の格好したレゴのスタンプを貼る)」
ご「はい(手を合わせて祈っている目玉焼きのスタンプを貼る)」
 
というわけで、電子サイン会当日を迎えることとなった。当日の様子はここでは割愛するが、いくつかやってみて分かったことがあるので、以下それを少し記しておくことにしたい。
 

 
1.みんなでサインをしている様子を眺めるのは、面白い
基本的にサインを書くという行為は、1対1で行われる個人的なことである。例え多くの人が列をなしていたとしても、書いている時は、サインをする人ともらう人の1対1の関係だけが成立する。目の前でサインを書いている様子を見ることができるのは、サインをもらう一人だけの特別な時間だ。
 
しかし今回の「電子サイン会」は、私のMacBook Proをプロジェクタに接続し、B&Bのスクリーンにサインを書いている様子を映しながら行った。つまり、本来1対1の限られた環境下のみで成立していたサインを書くという行為が、多くの人に見られながら書くという行為に変わってしまったわけだ。
 
みんなが周りでワイワイ言っている中でサインを書くというのは、奇妙な体験であったが、非常に面白い体験であった。特に「見られている」という前提条件が加わるため、書く私自身も少しバリエーションを付けるといったような、観客を意識したふるまいをするようになったところ、コミュニケーションの新しい在り方を生んでいたように思う。
 
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サイン待ちの列。プロジェクションされたサインの様子をみんなで眺める

サイン待ちの列。プロジェクションされたサインの様子をみんなで眺める


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2.Photoshopは、電子サイン会にはとても便利
そもそも、私は電子とかに関わらず、サインをしたことがなかった。だから、どこに何をどう書いていいのかさっぱり分からないという状況で臨むことになったわけだが、不慣れということは、当然ミスも発生する可能性がある。自分の名前ですら滅多に書くことが無いわけだから、書き間違えも当たり前にあるだろうと思っていた。
 
しかし、Photoshopなら失敗しても怖くない。何度でもやり直すことができる。しかも、レイヤー機能を使えば、一度サインを書いた後でも名前の位置を変えることができる。その人の名前の長さに合わせて、Noritakeさんの表紙イラストの顔になるべくかからないように、微調整できるのは電子サイン会ならではの特徴と言えるだろう。
 
 
3.サインの受け渡しをどうすればいいのか問題。
そんな面白い発見の多かった電子サイン会でも課題はまだまだある。今回は、こちらで用意した表紙画像にサインを入れて、その場でメールでお渡しするという形式を取った。しかし、理想を言えば、参加者の皆さんに購入して頂いた電子書籍の表紙に直接書き込む形であるべきだ。バラバラな電子書籍フォーマットに直接書き込める環境を、各参加者に用意してもらわなければならないというハードルの高さから今回は見送ったが、将来的には、参加者の電子書籍本体に直接サインを書き込めるような簡単な仕組みを用意する必要があるだろう。
当日イベント開始前に配布した「『まなざし』電子サイン会・ご参加のてびき」。下部の参加票に宛名とメールアドレスを記入してもらう。電子サイン会を謳いつつも手続きはアナログ

当日イベント開始前に配布した「『まなざし』電子サイン会・ご参加のてびき」。下部の参加票に名前とメールアドレスを記入してもらう。「電子サイン会を謳ってるのに手続きがアナログ……」と一部で話題に

参加票に記入してもらった名前を見つつサイン。その直後に担当編集者(写真奥)がメールアドレスを手入力し、サイン入りの表紙画像データをメールすることで受け渡しは完了

参加票(写真中央)に記入してもらった名前を見つつサイン。その直後に担当編集者(写真奥)がメールアドレスを手入力し、サイン入りの表紙画像データをメールすることで受け渡しは完了


 
4.それでも、電子サイン会は面白い
とは言え、電子データというコピー可能なものに、個別の名前入りサインという「ただ一つ」の刻印がされたのは非常に面白かった。コピーによってダウンロードして手に入れたファイルが「自分だけの」ものになったのは、参加者の皆さんにとっても、稀有な体験だったと思う。
 
新しい試みは、最初の一回で成功するということはまずない。しかし、失敗を恐れて試みても何もわからない。勇気を出してやってみたことで分かる様々なことが、今後の貴重な財産となる。今回の電子サイン会も、そのような、今後の可能性に繋がる貴重な機会であったと思う。
 
 
 
sideB
今回のサイン会は、
(1)「電子サイン会参加票」に名前・メールアドレスを記入してもらう
(2)会場スタッフに電子版『まなざし』の本文画面を提示してもらう
  ※今回は電子版『まなざし』購入者限定のサイン会のため
(3)順番が回ってきたら、参加票を著者に手渡してもらう
(4)著者が参加票の名前を見つつ、ペンタブレット用いてPhotoshop上で表紙画像にサイン
(5)サインデータを保存。AirDropを使って担当編集者とデータ共有
(6)横にいる担当編集者が参加票にあるメールアドレスを手入力。メールで即時サイン画像のデータを参加者に送付
という手順で実施しました。
 
超満員の会場に『まなざし』のカバーデザインを手がけた山本晃士ロバートさん、DOTPLACEで菅さんと同じく連載を持つ弁護士の水野祐さんを迎え、白熱したトークを展開した後での「電子サイン会」。その場にいる全員(運営側も含む)が「そもそも電子サインとは……?」という不安を抱えつつスタートしたのも束の間、“スクリーンの中で起こる著者のPhotoshop上のハプニングをみんなで眺める”という謎の一体感がたちまち沸き起こり、従来のサイン会にはなかったであろう盛り上がりがそこには生まれていました。
ご来場頂いたみなさま、このような思いつきの企画に快くお付き合い頂き、どうもありがとうございました!(編集部)
 
※上の手順の中にも改善の余地は大量にあるので、電子サイン会の開催を検討されている奇特な電子本の著者の方が他にももしいれば、どんどんバージョンアップしていって頂けると嬉しいです。開催報告お待ちしてます。
 
電子サイン会前のトークの様子

電子サイン会前のトークの様子


 

●この連載について
オリジナル書籍レーベル「DOTPLACE LABEL」の第1弾として、今年7月に無事『まなざし』、『街の本屋の逆襲』、『コルクを抜く』の3冊を同時発売させたDOTPLACE編集部。めでたく発売まで漕ぎ着けたものの、ここにきて電子本を売るためのノウハウが自分たちにまったくないことに気がつきました。電子本としてのクオリティは自負している、だから絶対に売れてほしい、しかしどうしたらいいか素で見当がつかない……目隠しでサバンナに放たれたも等しい状況。そんな中、素人なりの素朴な思いつきを手当たり次第販売促進企画として試してみることにしたのでした。『まなざし』著者の菅俊一氏監修のもと、効果の大小はいったん脇に置いておいて、この連載ではその思いつきの実践の過程を随時報告していきます。


PROFILEプロフィール (50音順)

菅俊一(すげ・しゅんいち)

1980年東京都生まれ。研究者/映像作家。人間の知覚能力に基づいた新しい表現の在り方を研究し、映像や展示、文章をはじめとした様々な分野で活動を行なっている。主な仕事に、NHK Eテレ「2355/0655」ID映像、modernfart.jpでの連載「AA’=BB’」、著書に「差分」(共著・美術出版社)など。2014年4月より多摩美術大学美術学部統合デザイン学科の専任講師に就任。 http://syunichisuge.com/


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電子版『まなざし』

菅俊一 (著), Noritake (イラスト)
これからの執筆・編集・出版に携わる人のサイト「DOTPLACE(http://dotplace.jp)」でとりわけ話題を集める、研究者/映像作家・菅俊一氏の連載コラム「まなざし」が、満を持して電子書籍化。「読むこと」「書くこと」とそのまわりに潜む日常のちょっとした違和感を、シンプルな言葉で丁寧に読み解いていく12編の「まなざし」。電子書籍版ならではの追加テキストも収録。イラストレーター・Noritake氏による描き下ろしイラストも見どころです。
カバーデザイン:山本晃士ロバート(ユーフラテス)、編集:後藤知佳(numabooks)