INTERVIEW

マンガは拡張する[対話編]

湯浅生史(小学館『ヒバナ』編集リーダー)×山内康裕:マンガは拡張する[対話編]
「形のないうちは、不安で辛い。」

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マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]の7人目のゲストは、小学館から新装刊されるマンガ雑誌『ヒバナ』編集リーダーの湯浅生史さん。湯浅さんは2014年9月に休刊した『月刊IKKI』の最後の編集長代理でもあり、最終号で告知されていた新雑誌がついに始動する今、これからのマンガ雑誌が担う役割についての自身の考えや、『ヒバナ』が目指していくところなどをじっくりと語っていただきました。


【以下からの続きです】
1/7:「IKKIの廃刊の理由は、やっぱり『経済』です。」
2/7:「総意を集めたネットよりも、数人が作る雑誌がまた選ばれるようになる。」
3/7:「『新しい』という言葉自体がもう古い?」

マンガからだけでなく、周辺からの逆アプローチも楽しい

山内:別の話ですが、『寄生獣』のアニメがやっていて、若い子と話していたら「寄生獣って原作あるんですか?」って言うんですよ。僕なんかはダイレクトな世代なので「えっ!」ってビックリしたんですけど、彼らからすると、アニメなんですよね。好きで見ていたら実はマンガ原作だと知って、そこで初めてマンガに入る。でもそれに似た流れってもっとあると思っていて、例えば『ドロヘドロ』の服がいろいろ売られていますが、ファッションブランドだと思っていたら、「実はこれってマンガだったのか! 読んでみようかな」ってなってもいいじゃないですか。そういう逆アプローチが、アニメとかドラマだけじゃなくてもっと違う場所であるといいなって。

湯浅:いいですよね。そういう楽しみ方というか、消費の仕方というか。それはあってしかるべきだと思います。

山内:マンガがそういう段階に入ってきているのかもって気もしますよね。

湯浅:そうかもしれません。その方が楽しいですしね。マンガにいろんな周辺のものもあって、総体としてコンテンツっぽいということですよね。どっから入っても、「実はこうだったのね」っていう。

山内:で、その核にあるのは『ヒバナ』だったんだ、みたいな。それが、『ヒバナ』っていうかたまりが存在する意味がすごくあることのかなっていう気がします。

話やキャラクターが並んだとき、ようやく雑誌の形が見えてくる

『ヒバナ』発刊告知パンフレット

『ヒバナ』発刊告知パンフレット

湯浅:昨年の春くらいからこれ(ヒバナ)をなんとかしなきゃなって動いてるんですけど、何しろ、まず形が何もないと本当に不安なんですよ(笑)。だから、頭の中によっぽどちゃんとイメージしてないとなくなってしまうじゃないかって思うんですが、イメージしようにも何かモコモコしていて……。そんなこんなでだんだん具体化してきて、パンフレットを作るために各担当編集者が作家さんたちからカラーの絵を集めてきて、上がってきたものを並べたりすると「この雑誌、ある気がしてきた……!」ってなる(笑)。表紙の色校をチョキチョキ切って他の雑誌とかと並べてみると、さらに本当にある気がしてくる。それで、少しずつ安心してくるんですよね。逆に言えば、さっきの話みたいに「雑誌の枠組みってなんだろうな」って考えながら、しかも形のない状態で想像している間は、もうホントに辛くて辛くて(笑)。これがウェブ雑誌でももしかしたら同じなのかもしれませんけど、「かたまり」は必要なんだなって思うんですよね。

山内:やっぱりかたまりがあると、多くの人の意思疎通ができますよね。「一人じゃない、これに向けて俺たちはがんばってる」っていう感覚が生まれる。

湯浅:そうそう。しかも形があれば、それを「好きだ」「嫌いだ」って言えるわけだし。そういうことを、この1年近くの間でかなり経験しましたね。

山内:ある意味それは、昔から言われている「考える前にやってみろ」に近いかもしれませんね。走りながらどんどん変わっていくし、色も付いていくし、新しく雑誌を出すのはそういう意味でのプレーンさがありますよね。

湯浅:作家さんが一個一個決めてきてくれると、「ひとつの形はこれだ」みたいな、やりたいっぽいと思ってたけどモワモワしていたものがだんだん見えてくるんですよね。そうすると、「こういう概念でくくれる場所になっていくのかな」って思えたりしてくる。それで、山内さんがおっしゃったみたいに、いろんなところからいろんなものが吸着してくれるといいなって思います。

山内:ちなみに、依頼する作家さんを決めるときに、どんな読者を連れてきてほしいとか、何か期待みたいなものはあったんですか?

湯浅:作家さんの作品の向こうの読者がどんな人かっていうイメージは、やっぱりちょっと茫洋としてますね。「この人だから女性ファンがついてるんだろうな」とか、そのくらいのレベルでは考えられますけど。編集者も作家さんに近いところで作る側にいる人間なので、「こういうキャラクターで、こういう話で、こういう魅力や楽しさを伝えたい」みたいな、作品ごとやキャラクターごとの創造という点に目が向いていますね。

山内:やはり、最初にかっちり決めるのではなくて、進行しながら広がっていく感じなんですね。

湯浅:そうですね。むしろ「決められない」んですよね。最初に候補の作家さんのリストを書き出してみても、まだ見えてこないんです。それで、「こういうのをあなたに描いてほしいんだ」って各担当編集者がいろいろやりとりして、お話やキャラクターが並んできたときにようやくちょっと雑誌が見えてくる。ひとつのことが決まるとパタパタとドミノ式に決まるのではなくて、あるとき全体が「ふわぁっ」って決まる(笑)。だから、どこから決まるかわからないんですよ。昨日まではぼんやりしていたのに、今日突然決まったり。

湯浅生史さん

湯浅生史さん

5/7「二転三転して決まった雑誌名。」に続きます(2015年3月3日公開)

2015年3月6日(金)に発刊する『ヒバナ』は毎月7日発売です。
2月27日にオープンしたウェブサイトでは、新連載5作品の先行お試し読みができます!

小学館の新青年コミック誌「ヒバナ」公式サイト

聞き手・構成:二ッ屋絢子
(2015年2月6日、小学館仮本社にて)


PROFILEプロフィール (50音順)

山内康裕(やまうち・やすひろ)

マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。 1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。 また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。 主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭2014」「日本財団これも学習マンガだ!」等。 「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「国際文化都市整備機構」監事も務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)、『コルクを抜く』(ボイジャー)がある。http://manganight.net/

湯浅生史(ゆあさ・いくし)

宝島社(旧JICC出版局)で『宝島』編集部に勤務。1994年に小学館に入社後、1999年から週刊ビッグコミックスピリッツ編集部、月刊flowers編集部、ガガガ文庫編集部を経て2010年に月刊IKKI編集部に異動。現在、増刊雑誌『ヒバナ』の編集責任者としてスピリッツ編集部に在籍。担当してきた作家は石川賢、佐々木倫子、吉田戦車、花津ハナヨ、さいとうちほ、田村由美、漆原ミチ他(敬称略)。


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