INTERVIEW

地方で小規模かつマイナーな本屋をやるということ

柴田哲弥×山下賢二:地方で小規模かつマイナーな本屋をやるということ
「10年やって、どんな変化が起きているか見てみたい」

bookcafekuju_banner

 和歌山県新宮市にある「bookcafe kuju」を訪ねた。世界遺産に登録された「熊野古道」にもほど近い、古からの景観が残る情緒あふれる街。とはいえ過疎化が進む山あいの小さな集落である。
 市街地でさえ多くの書店が消えてゆく昨今、この店のオープンは本屋という商売と文化の両面に衝撃をもたらした。しかも「book」部分を担当するのは、あの京都の人気書店「ガケ書房」。
 オープンから8ヶ月を経た現在までの道のりと今後のビジョンを、カフェを運営するNPO法人「山の学校」主宰・柴田哲弥さんと「ガケ書房」店主・山下賢二さんの両名に、DOTPLACE編集長・内沼晋太郎が伺った。

【以下からの続きです】
1/8:「コンビニもなく、夜は真っ暗。“文化の不毛な地”にブックカフェをつくる」
2/8:「本当に本好きの人が来た時に『お』っと思ってもらえる本を」
3/8:「地方ってやっぱり、モノが余っているんですよ」
4/8:「利益は半々。割るほどもないけど(笑)」
5/8:「新生ガケ書房は『地域のお土産屋』」!?
6/8:「最近、本屋トークにアレルギーを持ってたんです」

これからのbookcafe kuju

――最後に「bookcafe kuju」を今後もうちょっとこうしていきたい、というビジョンを聞かせてください。

柴田:継続が一番大事かなと思っています。新しくやるエネルギーと継続するエネルギーって全然質が違うじゃないですか。継続は覚悟かなと。立ち上げは最初の勢いなんですけど、毎週毎週やるというのは勢いではできない。まずはこの場をずっと維持していきたいというのが大きな目標ですね。
 具体的には営業日を拡大して週3~4日くらいにしていくとか、もうちょっと売り上げを伸ばしていきたいとかもありますけど。

――普段、営業は何時まででしたっけ。

柴田:普段は18時までです。夜はほんまに車走らんので。

――平日の夜とか、需要ないですかね。さっきおっしゃった若いカップルとかがムーディな場所を求めて来るっていう。

柴田:そういう場合はごはんが必須かもしれないですね。食事もできるんですが、今はその余裕がないです。でも曜日を増やす方が優先かな。

山下:僕は、とりあえず僕がさぼらないこと(笑)。あとは柴田さんのいうとおり、続けること。国から最大3年の援助と聞いてたんでそこがひとつの区切りかなと思ってたんですけど、柴田さんはすでに資金的にもやっていけるサイクルを見つけているので、それは僕も「よし」と思って。
 本屋として地元の人や他府県の人をここに呼ぶためのコンテンツをやっていこうと思ってるし、ガケ書房にフィードバックするとそれはコマーシャルにもなる。オリジナル商品をいっぱい卸したりとかもしたいですね。今回初めて卸したら、いつもの利率より多くbookcafe kujuにあげることができたんですよ。だからこれはやっぱりいいなぁと思って。

柴田:それと、今まではあんまり考えてなかったんですけど、観光のお客さんのことも考えていこうと思ってますね。最近道路がよくなって、京都からすごく来やすくなったんですよ。これから国体の会場にもなるので交通量はもっと増えると思います。それもあるんで、平日も増やしたいなと。

山下:ガケ書房って最初、100%僕の一方通行でやってしまって、3ヶ月くらいですぐに行き詰まったんですよ。商売ってキャッチボールっていうか、対話と一緒で、ちゃんと相手の話も聞いてあげるとなんとかなっていくみたいなところがあるんですよね。
 だから今後、お客さんのニーズやほかの店との兼ね合いで変わっていく可能性はあります。営業日を増やしたらお客さんの声も増えるので、それも影響すると思いますね。

bookcafe kuju店内

bookcafe kuju店内

――10年、20年先のことはどう見ていますか。

山下:これはもう僕の性格的なもんですけど、ずっとそん時の流れでやってきたから。ガケ書房もオープンした時は死ぬまでやろうと思ってましたし。
 京都にはひとつよき本屋の最終形があるんですよ。三月書房っていう、本好きのための理想郷としての本屋が。そういうのがあるから僕の本屋としての将来的なありかたは見えてたんですけど、今回は流れが来たのでこうなりました。

柴田:僕はまず10年暮らそうと決めたんですよ。10年やってみて、どんな変化が起きているかなと。まず期間だけ決めたんですね。今は5年目なんですけど、店をやったら、この店を10年やろうと更新されました。不安よりも、どんなお客さんになってるかなとか、ここがどんな場になってるかなというのをこれからの変化を楽しみにやっている感じです。

――続けることと、自分のやりたいことを両立させるという点はどう考えますか。

山下:僕が3ヶ月目で方向転換したのは、僕の一番強い思いが「店を続けたい」だったからなんです。とにかく場所を続けたい、家族を養いたい、と。だから自分のやりたいことを曲げたとかって感覚はないですね。

――すごくよくわかります。僕たちもそうですね。こんなお店がやりたいということも大事だけど、続かないのが一番格好悪いんじゃないかと思っている。思いを曲げてビジネスに合わせることはあんまりなくて、むしろこういうふうにしたいというこだわりは、結果的に収益にもつながることのほうが多い。
 僕たちは「それもやるけど、それを活かして儲かりそうなほかのことも考える」んですよ。そうするとやりたいことを壊さないでやれる。B&Bでは英会話教室もやってるんですけど、そういうこともやっているおかげで家賃が払えるというところがあります。英会話教室をやるかやらないかというそれ自体は、コンセプトからすると、どちらでもいいんですよ。でもやることで経営がよくなるなら、やるほうがいいじゃないですか。積極的にやりたくなければ、やらない方向で考えるでしょうけど。強くやりたくないことでなければ、
「じゃあ、それのなるべくB&Bらしいやり方とは何か?」と考える。やりたくなくもないことをくっつけてやることを考えよう、と。

柴田:僕も継続が目的なので。先月くらいから家庭教師している子をここに呼んで勉強をしていたら、ほかの子たちも来て自習するようになって。そうなるとここで塾をやってもいいなぁと。

bookcafe kuju店内

bookcafe kuju店内

8/8「本読むのが頭いい? ちゃうちゃう(笑)」に続きます(2015年2月17日公開)

bookcafe kuju
2014年5月オープン。本格コーヒーをはじめとするドリンク類とスイーツが楽しめる。商品である本は「ガケ書房」が選書・卸を担当。同じ建物内にパン屋「むぎとし」がある。
住所:和歌山県新宮市熊野川町九重315 旧九重小学校
電話:0735-30-4862
営業:土・日 11:00~18:00
www.facebook.com/bookcafekuju
www.mugitoshi.com

構成:片田理恵
編集者、ライター。1979年生まれ。千葉県出身。出版社勤務を経て、2014年よりフリー。内沼晋太郎が講師を務める「これからの本屋講座」第一期生。房総エリアで“本屋”を目指す。
聞き手:内沼晋太郎(numabooks)
写真:長浜みづき、片田理恵
[2015年1月11日、bookcafe kujuにて]


PROFILEプロフィール (50音順)

山下賢二(やました・けんじ)

1972年京都生まれ。21歳の頃、友達と写真雑誌『ハイキーン』を創刊。その後、出版社の雑誌編集部勤務、古本屋店長、新刊書店勤務などを経て、2004年に「ガケ書房」をオープン。外壁にミニ・クーペが突っ込む目立つ外観と、独特の品ぞろえで全国のファンに愛された。2015年4月1日、「ガケ書房」を移転・改名し「ホホホ座」をオープン。編著として『わたしがカフェをはじめた日。』(小学館)、『ガケ書房の頃』(夏葉社)などがある。

柴田哲弥(しばた・てつや)

「bookcafe kuju」店主、NPO法人「山の学校」主宰。1984年生まれ。和歌山県出身。大学でコミュニティ政策を学び、2011年に熊野川町へIターン。廃校になった旧九重小学校を借り受け活動中。


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