INTERVIEW

地方で小規模かつマイナーな本屋をやるということ

柴田哲弥×山下賢二:地方で小規模かつマイナーな本屋をやるということ
「最近、本屋トークにアレルギーを持ってたんです」

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 和歌山県新宮市にある「bookcafe kuju」を訪ねた。世界遺産に登録された「熊野古道」にもほど近い、古からの景観が残る情緒あふれる街。とはいえ過疎化が進む山あいの小さな集落である。
 市街地でさえ多くの書店が消えてゆく昨今、この店のオープンは本屋という商売と文化の両面に衝撃をもたらした。しかも「book」部分を担当するのは、あの京都の人気書店「ガケ書房」。
 オープンから8ヶ月を経た現在までの道のりと今後のビジョンを、カフェを運営するNPO法人「山の学校」主宰・柴田哲弥さんと「ガケ書房」店主・山下賢二さんの両名に、DOTPLACE編集長・内沼晋太郎が伺った。

【以下からの続きです】
1/8:「コンビニもなく、夜は真っ暗。“文化の不毛な地”にブックカフェをつくる」
2/8:「本当に本好きの人が来た時に『お』っと思ってもらえる本を」
3/8:「地方ってやっぱり、モノが余っているんですよ」
4/8:「利益は半々。割るほどもないけど(笑)」
5/8:「新生ガケ書房は『地域のお土産屋』」!?

本屋というフォーマットとその方法

――ホホホ座という名前はどこからついたんですか。

山下:ガケ書房もそうなんですけど、ホホホ座も意味はないんです。「座」はなんかつけたかったんですよ。グループで「~座」とかって、今、ないから。カタカナの「ホ」が3つ並ぶんですけど、横書きでも縦書きでも線一本引くと、シンメトリーで書けるんです。それがいいなと思って。

――11年お店をやられてきて、「ガケ書房」って名前はもう日本中にひとつのブランドとして浸透しているじゃないですか。それを捨てるのって結構勇気がいると思うんですけど。

山下:僕がバカなんですかね(笑)。それみんなに言われるんですよ。正直、最初は新ガケ書房でやろうかとも思ったし(笑)。
 でも僕自身の区切りもあるし、ホホホ座のグループで動きたいという意向もあるし。今はすごくワクワクしてますね。

――ガケ書房をそのまま引き継ぎたいという人はいなかったんですか。

山下:それはかわいそうですよ、絶対比べられるし。ガケ書房は僕の色が強すぎた。ある意味で負の遺産なんです。重たいんですよね、いろいろと。
 もしどうしてもやりたいって人がいたら相談にのるかもしれないですけど、でもどうせやるんやったら自分の名前でやった方がいいよって言います。

――その後あそこが何になるかは決まってるんですか。

山下:全然知らないです。車も外壁もなくしてもとに戻したら、中からきれいなイタリアンレストランが出てきますよ(笑)。

――イタリアンレストラン(笑)。あのまま借りたい人もいるような気がしますけどね。

山下:借りますか?

柴田:「B&G」。

(一同爆笑)

――うーん(笑)。「ガケ書房」の名前のままで借りれるなら、おもしろいかもしれないとは思いますけどね。でも家賃が高いんだったら厳しいな。
 近くにいないことは、かなり大きなマイナスだと思うんですよ。僕は基本的にB&Bのシフトに入っているわけではないんですけど、徒歩5分くらいのところに住んでるんですね。だからどこに行く時も、家との行き帰りで店に寄れるんです。東京に住みながら、オーナーとして京都で店をやる理由は、今は特にないかな……。でも、やる人はいそうですけどね。
 僕がバイトしていた往来堂書店も、初代店長・安藤哲也さんが有名ですけど、もう二代目の笈入建志さんになってからの方が長い。笈入さんは安藤さんのつくった往来堂らしさを引き継ぎつつ、自分の店を作っていったんだと思うんですよね。だから、二代目ガケ書房がいてもいいのではないかと。

山下:なんか僕ね、京都で個人事業としてやってる最後の本屋らしいんですよ。僕以降で考えたら、新潟の北書店さんしかいない。

――そうか、確かにそうですね。B&Bもトーハンさんに相談にいった時に、新規参入で都内で口座を開いたのは数年ぶりと言われました。新刊書店で取次を使って、トラックが毎日来るというのは。

山下:本当にハードルが高いですよ。取次も景気悪いから、いわゆるこれまでの形の本屋はすごく厳しい。これをこれから先もずっとやりつづけるのかと思った時に、僕全然楽しくなくて。だからホホホ座になったのは大きいですよね。
 仮に打ち上げ花火で開店のお金までは用意できても、続かなきゃ意味ないし。僕は11年続けて来て、別に飽きたわけでもないけど、ワクワクしいひん。本屋っていうフォーマットは続けるんですけど、方法論を変えんとおもんないなぁと思って。

――それが卸される側から卸す側ってことなんですね。

山下:おかげさまで(4月発売の本は)小学館から出ますんで。

――ええっ、すごい!!

山下:自分たちで作った初版は2ヶ月で完売しました。

ホホホ座による編集本『わたしがカフェをはじめた日。』(現在は完売。2015年4月に小学館より全国普及版が発売予定)

ホホホ座による編集本『わたしがカフェをはじめた日。』(現在は完売。2015年4月に小学館より全国普及版が発売予定)

――(版元からの)そういう話って、どうやってくるんですか。

山下:口八丁手八丁でメディアに働きかけて。

――じゃあ最初に作った分の先を出版社から出すというのはビジョンとして……

山下:ありました。

――なるほど。何かの仕事のついでとかで、東京にいらっしゃる機会はないですか。B&Bでトークイベントやりましょうよ。山下さんと東京で話せる機会はなかなかないので。

山下:僕ね、最近本屋トークにアレルギーを持ってたんですよ。本屋トークって結局ね、技の披露合戦と、取り組み報告と、希望的観測を話すだけでしょ。ヒントはもらいあえるかもしれないけど、基本は現場をがんばればいいんであって、人前で話すことじゃないんじゃないかと。
 けっこう依頼はあったんですけど、すごくそんなことを考えてしまって。僕自身が現場を楽しいと思えない精神状態だったからだと思うんですけど、そんなやつが人前でしゃべってもなぁと。今は次のビジョンが見えたから楽しいんですけどね。

――確かにそうかもしれないですね。僕が最近ちょっと違うなぁと思うのは、昔ながらの本屋さんがいいみたいな風潮。絵本の回転灯があって、子どもの頃にあそこで本を買ったよね、毎日そこで立ち読みしたよねというような。
 そこにノスタルジーがあるのは全然構わないんですけど、それを前提にこれからどういう本屋をするかってことを話しても変わらないんじゃないかと思っていて。どうやって続けるのか、食べていくのかを抜きに、素敵な思い出の話をしても、それは片方の側面でしかない。ビジネスとしてどうなんですか、と。どっちも成り立っていないとダメじゃないですか。

山下:生活としてやっていくのはしんどいし、1日限りの出店とかじゃないんでね。シビアに考えざるを得ないですよね。

bookcafe kuju店内

bookcafe kuju店内

7/8「10年やって、どんな変化が起きているか見てみたい」に続きます(2015年2月16日更新)

bookcafe kuju
2014年5月オープン。本格コーヒーをはじめとするドリンク類とスイーツが楽しめる。商品である本は「ガケ書房」が選書・卸を担当。同じ建物内にパン屋「むぎとし」がある。
住所:和歌山県新宮市熊野川町九重315 旧九重小学校
電話:0735-30-4862
営業:土・日 11:00~18:00
www.facebook.com/bookcafekuju
www.mugitoshi.com

構成:片田理恵
編集者、ライター。1979年生まれ。千葉県出身。出版社勤務を経て、2014年よりフリー。内沼晋太郎が講師を務める「これからの本屋講座」第一期生。房総エリアで“本屋”を目指す。
聞き手:内沼晋太郎(numabooks)
写真:片田理恵
[2015年1月11日、bookcafe kujuにて]


PROFILEプロフィール (50音順)

山下賢二(やました・けんじ)

1972年京都生まれ。21歳の頃、友達と写真雑誌『ハイキーン』を創刊。その後、出版社の雑誌編集部勤務、古本屋店長、新刊書店勤務などを経て、2004年に「ガケ書房」をオープン。外壁にミニ・クーペが突っ込む目立つ外観と、独特の品ぞろえで全国のファンに愛された。2015年4月1日、「ガケ書房」を移転・改名し「ホホホ座」をオープン。編著として『わたしがカフェをはじめた日。』(小学館)、『ガケ書房の頃』(夏葉社)などがある。

柴田哲弥(しばた・てつや)

「bookcafe kuju」店主、NPO法人「山の学校」主宰。1984年生まれ。和歌山県出身。大学でコミュニティ政策を学び、2011年に熊野川町へIターン。廃校になった旧九重小学校を借り受け活動中。


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