2014年11月20日、新潮社より『工芸青花(こうげいせいか)』という新しい雑誌が創刊されました。公式サイトを見てみると、「会費20,000円」「1,000部限定」「定価8,000円」という、新潮社が出版してきた雑誌では見たことのない単語が目に飛び込んできます。高額な値段設定や会員制など画期的なコンセプトにもかかわらず、会員数は順調に伸びていると言います。
そんな『工芸青花』の編集長を務めるのが、『芸術新潮』や「とんぼの本シリーズ」で美術や工芸、骨董を中心とした企画を手がけてきた菅野康晴さんです。
多くの出版社が読者の心をつかむ本作りに苦心する中、いま新雑誌を創刊する理由、そして『工芸青花』へのこだわり、出版や編集にかける思いをお聞きしてきました。
新潮社の元倉庫の中に構えた2名だけの『工芸青花』編集部
―――『工芸青花』(以下、「青花」)の準備期間はどれくらいだったのでしょうか?
菅野康晴(以下、菅野):具体的に考えはじめたのは2013年の秋です。担当していた「とんぼの本」シリーズの創刊30周年フェアが終わったのが10月末くらいで、その頃から。年末に独立した部署になりました。
「青花」の部屋は古い倉庫の1階にあります。2階から上が在庫・資料置場、1階は発送や郵便物を仕分けする作業場になっていて、その片隅にある部屋をもらいました。初めて来た方には驚かれることもありますが、私たちは気に入っています。夜になると誰もいなくなるので、ラジオの音量を上げて単純作業をしたり。本やフライヤー、「青花の会」会員へ出す手紙などの発送も自分たちでやっているので、便利で助かります。
この小さな部屋で、私ともうひとり、これまで『芸術新潮』と「とんぼの本」を一緒に作ってきたフリーランスのデザイナー兼編集者、長田年伸君のふたりで「青花」を作っています。
―――出版というと、不況、斜陽産業という言葉がついてまわるようになって久しいですが、どうして今、新しい雑誌だったのでしょうか?
菅野:入社してから20年間、おもに美術工芸の分野の記事や本を作ってきました。出版不況といわれて久しいですが、美術工芸のビジュアル本もむろん同様です。状況はより厳しいかもしれません。なぜなら需要層にそうは厚みを見込めず、数万部を売るようなヒット作が出にくいうえに、制作コストの面でも取材費やカラー図版の印刷代その他、負担が大きいからです。
2010年から13年まで「とんぼの本」シリーズの編集長として、判型を大きくしたり、ジャケットデザインを統一したり、サイトでもブログ連載を始めるなど、レーベルカラーを打ちだす工夫をしてきましたが、シリーズ全体の売上を伸ばすのはそう簡単ではありませんでした。現状維持がやっとでした。売上を伸ばす即効薬は、新刊で、増刷をかさねるようなヒット作を出すしかないとそのときは思っていたし、そうした考えはおそらく出版界のセオリーでもあると思います。
ヒット作をねらうときにやってしまいがちだったのは、すでにヒットしている企画にならうことです。そのほうが会議も通りやすい。あるいは間口を広げると称してわかりやすい入門書を作ったり、便乗商法的に、宣伝が派手な美術展にテーマと刊行時期をあわせたり。しかしそうするとおのずと他と似たような本、既にあるものをなぞったような本を作ることになります。これだけ本が余っている時代に、屋上屋を架すようなことをしていた。定価を上げないためとはいえ、部数も作りすぎていました。
[2/8「この身軽かつ心細い“個人商店”の感覚。」へ続きます]
インタビュー&テキスト:榊原すずみ
(2014年11月5日、新潮社にて)
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