愛読について　　最果タヒ

きみの好きな１冊が、きみを殺してしまうかもし
れない。冬に、着込んだ制服がぼくを絞め殺す。
風だけが明るい季節に、ぼくときみは消えていく
何かであること、たましいや心という言葉じゃか
たどれない、なにかであることを、脈打つたびに
思い出す。孤独という言葉を信じない。さみしさ
という言葉を信じない。だれかが、どこかで書い
たフィクションがかたる言葉ではない、ぼくらと
いうもの、ぼくらしかしらないぼくらの姿を、冬
が少しずつ削っていく。
今日、いい天気だった。何冊よんだって、ぼくの
肌には太陽の光がすがりついていた。夏になれば、
プールに行って、浮き輪にぶらさがって本が読み
たい。孤独について語る、ために、ぼくの孤独を
試す時間。死んでいく人たちとぼくは何が違うの
だろう。身体が、少しずつ、劣化し、酸化し、本
当に、本当に、さみしさや孤独の速度より、老い
がすばやくぼくを捕まえるんだ。
命が短い、きみを、大事に思うことは馬鹿げてい
る、物理的にも数理的にも、ぼくの心は愚かさの
かたまり、もっと、意味のあることを、価値のあ
ることを、きみを愛することより。きみ以外が、
ただ嫌いなだけかもしれない、きみのことを好き
なことに、なんの意味もないのかもしれない。ま
ばたきの回数だけ、正しさが通りすぎる。きみの
ことを見つめるぼくの瞳は、本能なんだろうか。