INTERVIEW

セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く

セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く
『お前たちの中に鬼がいる』梅原涼さん

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セルフパブリッシングの現在に迫るべく、Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)などで注目の作家にメールインタビューしていくシリーズ。今回は、2012年にKindleストアからセルフパブリッシングした『お前たちの中に鬼がいる』が圧倒的な人気を集めた末、この11月に主婦の友社から紙の書籍版を刊行された梅原涼さんの登場です。
今回は特別に、書籍版の担当編集者の方にもインタビューさせて頂いています。

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作品紹介

お前たちの中に鬼がいる_カバー

お前たちの中に鬼がいる』は、
Amazon Kindleで立ち読みできます。

高校教師、須永彰は薄暗い地下室で目覚めた。記憶も曖昧で何もわからない。そこで彼は、奇妙なメッセージを見つける。『お前たちの中に鬼がいる……』。地下には、他に五つの部屋があり、中には、鎖で繋がれた五人の女性がいた。2人の女子高生、26歳ニート、訳知り顔の女子中学生。そして謎の女。誰もこの状況を説明できない。が、みな何かを隠しているようで、誰一人信用できない。さらにここでは、常識では考えられない不可解な現象「リセット」が起こる。須永はこの空間からの脱出を決意する。しかし、最初に見たメッセージが気がかりだった。
「自分を含む六人のうち、誰かが『鬼』なのではないか……」

著者プロフィール

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1985年神奈川県生まれ。中央大学卒業後、社会人として働くかたわら、2012年末にAmazonで電子書籍として『お前たちの中に鬼がいる』を個人出版したところ、電子出版情報サイトやネット上の書評で高レビューを獲得し、新世代の作家として現在注目を集めている。愛読書はセネカ、シェイクスピア、エミール・ゾラ、芥川龍之介。

メールインタビュー

――まずはじめに、ご年齢、お住まいの場所、ご職業など、お話しいただける範囲で構いませんので、梅原涼さんの自己紹介をお願いします。

梅原涼さん(以下、梅原):28歳、神奈川県厚木市出身。勤め人です。

――梅原さんが、電子書籍でのセルフパブリッシングに注目するようになったきっかけは何でしたか。

梅原:自分がKindleで販売を始めてから注目するようになりました。Kindleはとにかく売り始めるまでが簡単なので、他の方のセルフパブリッシング作品を知るより前に販売を始めることができてしまったのです。

――梅原さんが、『お前たちの中に鬼がいる』を執筆されるに至った動機を教えてください。

梅原:高校時代、現行のゲームに興味を失い、レトロゲームに興味を持って、さまざま調べていた時期がありました。そこで自分は、どのレトロゲームにも共通するどこか異常とも言える雰囲気を感じ取りました。この雰囲気の正体は、情報量の不足から来るものだと自分の中では片付けたのですが、後になって、それを小説で再現することができるだろうか、と考えるようになりました。
 考えてから書き出すまでは早かったです。

――『お前たちの中に鬼がいる』の執筆には、どのくらいの期間と時間がかかっていますか。

梅原:大学生だった2005年から、1年半ほどかけて執筆しました。描写や詩情をそぎ落としてしまうと、小説ってなかなか進まない。

――『お前たちの中に鬼がいる』は今年の11月に出版社(主婦の友社)より紙の本としても発売されましたが、その経緯を簡単に教えてください。

梅原:2012年末にKDPで『お前たちの中に鬼がいる』を出版しましたが、ブログやSNSなどをやっていないため連絡手段を用意していませんでした。6月の中旬にAmazonから「主婦の友社の方が連絡をとりたがっています」という連絡が入ったので、連絡先を伝えて編集者と会って話をしました。その後8月に編集者より書籍化の企画が通ったと連絡があり、その後の流れは普通の出版の過程と同じなのではないかと思われます。

――『お前たちの中に鬼がいる』の書籍版が発売されて、書店に並んでいるのを見たときの、最初の感想を教えてください。

梅原:大学生のときに執筆した作品であったためか、恥ずかしかった……。とにかく恥ずかしかったです。

――『お前たちの中に鬼がいる』の電子書籍版をセルフパブリッシングした際と、このたびの書籍版の発売のあとで、読者からの反応の違いや、ご自身で感じられている手応え、環境の変化などがあれば教えてください。

梅原:小説を書く以外の活動が多くなるので、読書や執筆のペースを落とさないようにするのがなかなか大変です。しかし対談や挨拶回りなど刺激を受けることも多く、モチベーションは高まる一方です。

――DOTPLACEでは「これからの編集者」という連載を通じて、セルフパブリッシング時代の編集者の役割についても考えています。『お前たちの中に鬼がいる』のこのたびの書籍版の刊行に際して、編集者の方と一緒にお仕事をされた感想や、「今後このような関係性で仕事をしていきたい」といったことなどがあれば教えてください。

梅原:著者が執筆から販売まで一人で完結するという意味でのセルフパブリッシング時代は、来ないだろうと考えています。無理してやろうと思えばやれるでしょうが、時代というほどには盛り上がらないでしょう。「やろうと思えばやれる」可能性の枠が増えたものの、一般的にはハードルの高い行為と考えます。
 著者が作り、編集者(出版社)が売る、という図式は変わらないと思います。電子書籍市場だけならともかく、書店にまで手を広げるとなると、とくにその図式は固い。著者にはほとんど何もできないです。無名の著者ならなおさら……。編集者は大変です。

――梅原さんが書き手として、影響を受けていると感じる作家や作品などがあれば、教えてください。

梅原:直接的な影響を受けているのは、シェイクスピアと芥川龍之介くらいです。
『お前たちの中に鬼がいる』についていえば、『ミステリーハウス』『倉庫番』,『ロードランナー』,『マッピー』,『マリオブラザーズ』など、レトロゲームの雰囲気や設定の影響を大いに受けています。

――今後のご活動の方針や、次回作の構想がありましたら、お話しいただける範囲で教えてください。

梅原:サスペンスばかり書いてきましたが、これからもサスペンスを書いていこうかと思っています。

――梅原さんが注目していて、このコーナーで取り上げてほしい、ほかのセルフパブリッシングをされている作者の方がいらっしゃいましたら、教えてください。

梅原:兼杉温という方はいいですね。まったく女々しさのない文章が気持ちいい。この方は70歳を越えてるらしいのですが、こういう方の作品が読めるのはセルフパブリッシングのおもしろいところです。

――最後に、このインタビューの読者の方に、メッセージをお願いします。

梅原:インタビューを読んでいただきありがとうございます。
これからセルフパブリッシングを始めようとしている人は、あくまで個人で売上をあげていくか、書籍化などの展開を期待して告知効果の高い価格にするか、自分の方針に合った売り方、価格設定を考えたほうがいいと思います。
KDPからの書籍化を考えている編集者の人は、KDPの「売れていない本」もチェックしてほしいです。内容は面白いのに、値段設定など売り方が下手で表に出てこない作家がまだまだたくさんいます。また、無名の著者の作品を売り出していくためには何らかの「仕掛け」も必要だと思います。

 

主婦の友社・北崎満さん(書籍版『お前たちの中に鬼がいる』担当編集者)にもお話を伺いました

――『お前たちの中に俺がいる』のKDPでのリリース当初、著者の梅原涼さんへの最初の連絡はAmazonを介してだったとのことですが、その周辺のいきさつについてもう少しだけ詳しく教えてください。

北崎満さん(以下、北崎):私自身は本来書籍編集者ではなく、電子書籍の制作や管理の担当者でした。日々の業務を通じ、紙書籍の電子化だけではなく、電子書籍オリジナルの書籍化も可能性があるのでは、と痛感していました。そんな折りKDP発のこの作品に出合ったわけです。書籍化をオファーするにあたり、作品中にもネット上にも梅原先生の連絡先を見つけることができず、ダメもとで普段おつきあいのあるAmazonの担当者にご紹介をお願いしたところ快くお取り次ぎいただき、先生とのコンタクトをとることができました。

――『お前たちの中に鬼がいる』を今回書籍化するにあたって大幅な加筆修正がされていますが、その段階で苦労されたのはどのような部分ですか。

北崎:『お前たちの中に鬼がいる』はKDP版の執筆時期が2005年であったため、現在(2013年)に合わせて時代設定とそれに伴う各種ディテールを修正しました。また、40Pほどの前日譚を追加しました。KDP版の時点でとても完成度の高い作品でしたので、加筆修正が「改悪」になってしまわぬように努めました。荒削りな部分や一見冗長に見える表現、一部の暴力表現、性表現も、緊迫感を演出する魅力と考えています。梅原さんの作品がもともと持つ荒々しさ、緊迫感を活かすよう配慮しています。

――担当編集者である北崎さんの視点からの、『お前たちの中に鬼がいる』の魅力はなんでしょうか。

北崎:「前半と後半のギャップ、意外な読後感」が本書のセールスポイントだと思います。前半部はひたすら恐怖と緊迫感をあおり、謎を深めていく「ホラー」作品ですが、あるポイントから前半部の謎や伏線が次々と解決・回収されていき、それが心地いい「ミステリ」作品になっていきます。ラストは賛否両論分かれるかもしれませんが、少し切なめな読後感があります。ボリュームはありますが平易で勢いのある文章なのであっという間に読み進めることができ、ジャンルを飛び越える面白さがあります。最後までお読みいただければ、担当者冥利に尽きます。

――梅原さん、北崎さん、今回はありがとうございました!

(了)

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