INTERVIEW

セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く

セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く
『コルキータ』牟礼 鯨さん

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セルフパブリッシングの現在に迫るべく、Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシングなどで注目の作家にメールインタビューしていくシリーズ。更新再開後の第2回目は『コルキータ』を出版されたセルフパブリッシング作家、牟礼 鯨(むれ・くじら)さんです。

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作品紹介

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『コルキータ』は、Amazon Kindleで立ち読みできます。

――コルキータを買った男は四十日で死んだ

子宮を奪われた美少女娼婦コルキータは死の呪いを身にまとう。
この娼婦と出会い恋の感染症のため狂気へ逐いやられるダオ。

悶々とした夜を過ごすダオを置き去りに歴史は動く。
両半球帝たる概念皇帝に東方の覇者・紫水晶副王が叛逆したのだ。
戦列艦が港町に砲火を浴びせ、兵士の屍が大河を堰き止める。

ダオの求愛行動は殖民地戦争にまきこまれ叙事詩となった。
真実の愛さえあれば死の呪いから逃れられると信じたダオの運命は?
そして、コルキータとはいったい何者なのか?

官能的言語で綴られた娼婦幻想譚。

著者プロフィール

murekujira音痴です。合唱会の練習で声を張り上げて歌っていたら音楽教師に呼び出され「鯨くんは口パクでいいから」と言われました。隣の子が「しっかり声出して」と注意されている横で顎関節を酷使していました。母親は音楽講師だったのですが「子供と一緒に歌を歌う」という夢を打ち砕かれ悲しかったのでしょう。学校の課題曲をリコーダーで吹けない鯨は顔を爪で引っ掻かれ傷だらけにされました。学校で「通りすがりの女に引っ掻かれた」と嘘を言うと新聞に載りました。母親の悲しみを思うと今でも鯨は申し訳ない気持ちでいっぱいです。結局、成人するまで高い音は大声、低い音は小声だと思っていました。最近、自分にはリズム感もないと知らされます。一度でいいから音がわかる世界を知りたい。そしてバンドを組んでみたい。もちろん当方ヴォーカルで。

メールインタビュー

Q01・性別やご年齢、お住まいの場所、ご所属やご職業とそこで何をされているかなど、お話いただける範囲で構いませんので、牟礼鯨さんについてお教えください。

1984年生まれの性別不詳。反人間主義の文学結社こと西瓜鯨油社に所属しています。大学卒業後、知的障害児施設で文字通り糞尿にまみれながら働いていたある日、上司に「やめちまえ!」と怒鳴られてふと我に返り、翌日荷物をまとめて職場放棄しました。寮暮らしだったため住居を失い、実家に帰ることもできず、また勢いで飛び出したため行く宛もなく、山陰や奄美や沖縄や知床で野宿をしながら日本列島を放浪しました。そして路銀を失う前に札幌に住み着くのですが、北海道の街並みが寂し過ぎて、たった1年で東京に戻ります。東京で何のために生きるのか分からないまま、一人称であった「鯨」に「無礼」の同義語を組み合わせて牟礼鯨と名乗りました。無為な日々を食い潰すように作家活動をしています。

Q02・そんな牟礼鯨さんが、なぜ『コルキータ』を執筆されるに至ったのか、その動機をお教えください。

札幌で暮らしていた2009年5月のことです。平岸の高台から澄川駅へと下る階段を歩いているとき、ふとまばゆい光と共に「コルキータを買った男は四十日で死んだ」という言葉が脳を貫きました。俗に「悪魔がささやいた」と言われるような体験です。ですが、コルキータが何かよく分からない。毒の名前か、花の名か、それとも清涼飲料水の名称か?
「コルキータとは何か」と2日間禅問答した挙げ句、コルキータは娼婦ということになりました。そして「買った男を四十日で呪い殺してしまう娼婦」の物語を書かねばならぬと決意したのです。

Q03・『コルキータ』の執筆には、どのくらいの期間と時間がかかっていますか。

答えるのが難しい質問ですね。『コルキータ』は2009年5月に書きはじめてから初稿完成までは1ヶ月、初版入稿までは5ヶ月、最初の大きな加筆を施した第3版入稿までは1年半かかりました。ちなみに起筆から4年目になる2013年9月に校閲済みの文庫本を校閲から渡されました。どうやらまだ『コルキータ』の執筆は終わっていないようです。出版がパブリッシングと言われるようになって、より安易なものに変わり、ブログのように頻繁に更新(パブリッシング)されていきます。「常に変化する書物」が実現されているのです。

Q04・『コルキータ』の執筆は、一日のうちのどのような時間に、どのような環境で行われましたか。

朝から昼、そして昼から夕方、あるいは夕方から夜にかけてパソコンに向かって書きました。『コルキータ』に関して言えば、ポメラも原稿用紙も使っていません。札幌でパソコンに向かって書いていました。そして初稿をプリントアウトして、大通のスターバックスや旭川行きの汽車で推敲していったのです。今でも同じで、どこでもいつでも書きます。こういう時間でしか書けない、こういう環境でしか書けない、と言い張る人は単に書けない理由が欲しいだけですよね。

Q05・『コルキータ』をセルフパブリッシングするにあたって、参考にされた本やサイトなどがありましたらお教えください。

『コルキータ』最初のセルフパブリッシングは2009年12月の第九回文学フリマに合わせて行いました。つまり、紙の本でパブリッシングしました。世の中には紙製書籍であることにこだわり電子書籍を忌避する人もいます。形にこだわるのは読書好きではなく、本好きの証拠です。そして、その本好きは生きている人が一冊の書物である事実を見逃しがちです。形にこだわれば、人はまるっきり本に見えないですからね。話は逸れました。セルフパブリッシングするときに参考にした本やサイトでしたっけ。そうですね、コミティアという創作オンリーの同人誌即売会で入手した弦伎さんの『ミモザの花が咲く頃に』(ツムギウタ)[※]を参考にしました。あの本を読んで自分もセルフパブリッシングしたいと思いました。情熱を焚き付けられた本です。
(※編集部注:2006年から2009年にかけて、弦伎氏のサークル「ツムギウタ」より発行された創作小説。前編・中編・後編の計3巻。コミティアなどで頒布。「ツムギウタ」は現在活動休止中。)

Q06・牟礼鯨さんが作家として、影響を受けていると感じる作家や作品がありましたら、お教えください。

ヘロドトスの『歴史』・『千一夜物語』・『春秋左氏伝』・『古事記』の4冊が作家としての基底となっています。21世紀のセルフパブリッシング作家が新奇を探るなら紀元前や古代のセルフパブリッシングを研究すべきです。中世アラブ作家の一子相伝的セルフパブリッシングなんかも書字狂めいておもしろいですよ。

Q07・牟礼鯨さんが、最近注目されているものやことをお教えください。

基本的に「異なる価値観を持つ者とどう向き合うか」という主題に興味があり執筆しています。特に人間と人の非対称的関係に注目しています。文京区千駄木のブーサンゴさんで珈琲を喫んでいたら、隣席に座って統計学史の本を読んでいた東大生と知り合いました。話を聞くと考古学を専攻して遺跡から出土する貨幣の種類や量から古代日本における貨幣の流通事情について研究しているとのことでした。その出会いをキッカケとして前近代の交易史に新しく興味を持ちました。かつて「沈黙交易」という掌篇や『南武枝線』を書いたり、新しく『受取拒絶』という本を書いたりしているように、交易・鉄道・郵便といったシステムを鯨は対人関係の隠喩ととらえています。前近代の交易における人類の態度からその時代と地域における対人関係を探求していきたいですね。やがて物語という形でまとめられれば理想的です。

Q08・当サイトでは「これからの編集者」という連載を通じて、セルフパブリッシング時代の編集者の役割についても考えています。もし、作家としての牟礼鯨さんのことを新たにサポートしたいという編集者が現れたとしたら、その人に期待したい役割は何ですか。

セルフパブリッシング時代では〈作者〉と〈編集者〉の分業体制は終焉すると考えます。推測が外れ分業体制が維持されたら、鯨が「作家として」ありたいと思うなら迷うことなく〈編集者〉になろうとするでしょう。分業体制なら、作家性は〈編集者〉に宿るからです。推測が当たりセルフパブリッシング時代の作家が〈作者〉と〈編集者〉のヒュブリダたりうるのであれば、作家としての牟礼鯨は、編集者に校閲・営業・経理などの役割を期待したいです。あと美少女編集者に性欲処理的役割を期待したいですね。

Q09・『コルキータ』が、今後、紙の本として書店に並ぶとして、この本の隣に並べて欲しいというような本を、3冊挙げてください。

岩波文庫赤帯が陳列された棚へ檸檬爆弾みたいにそっと並べて欲しいですね。

Q10・次の作品の構想がありましたら、お話いただける範囲でお教えください。

第十七回文学フリマで西瓜鯨油社(オ-02)から『受取拒絶』という題の本を出します。音信不通になった女の子に78通の郵便物を投函しても返事は無く、やっと貰えた返事が「受取拒絶」だったという男の話です。人間が人間であることをやめる瞬間を楽しんでいただければと思います。また、兎角毒苺團(オ-61)さんのアンソロジーにも短篇を寄稿しました。歌で男を動物に変えてしまう魔法少女の話です。

Q11・牟礼鯨さんが注目していて、このコーナーで取り上げてほしい、ほかのセルフパブリッシングをされている作者がいらっしゃいましたら、教えてください。

文学フリマ非公式ガイドブック小説ガイド編集委員会という編集組織にも属しており、そこで「文学フリマ非公式ガイドブック小説ガイド」という冊子を刊行しています。そこでの編集者仲間は作家で、たいていワルです。佐藤さん、山本清風さん、高村暦さん、屋代秀樹さんなどが電子書籍を出していましたと記憶しています。彼らは良い仕事をしていますよ。また栗山真太朗さんや安東洪児さんに霜月みつかさん、今村友紀さんそれから森井聖大さんといった札付きのワルの話を訊けたら面白いかもしれませんね。

Q12・最後に、このインタビューの読者の方に、メッセージをお願い致します。

こんな回答で満足していただけましたか?
人間とやっていくのがつらくなったり、人間でいることがつらくなったら、とっとと人間やめたほうが良いです。自分にとっても、人間様にとっても。それで鯨と一緒に文学しましょう。
ここで宣伝です。人間を続けるにせよやめるにせよ、11月4日に東京流通センター開催の第十七回文学フリマで会いましょう。

(了)

 

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