セルフパブリッシングの現在に迫るべく、Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシングなどで注目の作家にメールインタビューしていくシリーズ。第6回は『笑いたい奴こっち来い!』を出版されたセルフパブリッシング作家、星井七億さんです。
作品紹介
『笑いたい奴こっち来い!』は、Amazon Kindleで立ち読みできます。
ニュースサイトで紹介され「ツイッター」で3000ツイートされた短編「迷名病棟」、三十歳までに童貞を捨てないと殺処分される世界を描いた「ここは童貞処分場」他、四篇を収録したコメディ短篇集。
著者プロフィール
1985年生まれ。沖縄県石垣市出身。横浜市在住。文芸同人サークル『ナナオクプリーズ』(旧:んんん文庫)主宰。
2012年4月よりブログ上に小説を発表し始める。小説ブログ『ナナオクプリーズ』。
メールインタビュー
Q01・性別やご年齢、お住まいの場所、ご所属やご職業とそこで何をされているかなど、お話いただける範囲で構いませんので、星井七億さんについてお教えください。
28歳。男性。会社員。生まれ育った石垣島から横浜に居住地を移して五年目になります。
Q02・そんな星井七億さんが、なぜ『笑いたい奴こっち来い!』を執筆されるに至ったのか、その動機をお教えください。
元々は『第十五回文学フリマ』という文芸同人即売会で頒布した同人誌です。
僕は去年からブログで小説を発表していて、本作に収録されている『迷名病棟(元タイトル「未来のDQNネーム事情はこうなる」)』が発表後にツイッターで三千回以上拡散され、R-25やINTERNET watch、Yahoo!ニュースなど様々なニュースサイトで紹介されました。
先述の『文学フリマ』へサークル参加を決めたときに新刊をどうするかということになったのですが、どうせなら話題性も考えて先の短編を頒布しようと思ったもののこれだけではあまりにもボリューム不足なので、ブログで発表済みだった他の短編一編と、書きおろし一編、過去にコピー本として頒布した短編一編の全四編を収録した同人誌として完成させました。今回のAmazonでのリリースはその同人誌を電子書籍化した形ですね。
Q03・『笑いたい奴こっち来い!』の執筆には、どのくらいの期間と時間がかかっていますか。
僕は短編一編を約二〜五時間で書き上げるのですが、今回の作品もある一編以外はそれくらいの時間がかかりました。総執筆時間は30時間くらいです。
Q04・『笑いたい奴こっち来い!』の執筆は、一日のうちのどのような時間に、どのような環境で行われましたか。
休日を利用して書きました。執筆用のソフトは基本的に、デスクトップPCにあらかじめ入っていたMS Wordしか使わないですね。電子書籍作家の方々にはよく「スマホで書いた」という人がいるのですが、フリック入力すらできない僕にはとても真似できない芸当です。大体一日12時間くらい執筆に向かっているのですが、うち11時間くらいはツイッターで息抜きしていますね。
Q05・『笑いたい奴こっち来い!』をセルフパブリッシングするにあたって、参考にされた本やサイトなどがありましたらお教えください。
Googleで「電子書籍 作り方」と検索して出てきたページをとりあえず片っ端から読んで参考にしてみました。電子書籍を作るのも、今はとてもハードルが下がって初心者でも一応形にするだけなら簡単に、それも素早くできてしまうんですね。今回は「ひまつぶし雑記帳」さんのEPUB3作成サービスを利用しました。
Q06・星井七億さんが作家として、影響を受けていると感じる作家や作品がありましたら、お教えください。
文体に関しては松本清張、沢木耕太郎、連城三紀彦。影響というか目標ですね。あとは都々逸や落語家・講談師の語り口が持つ独特のリズムは、大きく影響を受けています。コメディ要素に関しては清水義範、土屋賢二、森奈津子、R・D・ウィングフィールド、故人ですが桂枝雀といった落語家を始めとする舞台を中心に活躍する喜劇人の方々。シナリオ作りに関してはこちらも松本清張、横山秀夫、あとは趣味の映画などをよく参考にしています。
Q07・星井七億さんが、最近注目されているものやことをお教えください。
メディアアクティビスト・津田大介氏の動向に注目しています。僕がブログで掲載している小説は現在二十本近くあってこれらが有難いことにツイッターでよく拡散され、現在は累計で50,000ツイート近くされているのですが、そのきっかけになったのが去年の四月に書いた津田大介氏をパロディにした作品でした。これを津田大介氏本人が捕捉してツイートしたところ拡散され、現在1,800件近いツイートがされているんです。僕は元々津田氏の著作を読んだことからソーシャルメディアの可能性に興味を持つようになっていたのですが、その矢先にこの出来事が起きたことで、メディアを利用していかに多くの人に自分の作品に興味を持ってもらうか、またメディアを通した情報との付き合い方を今一度深く考える機会を戴きました。膨大な情報との接触で培われた氏の大局的な視点から説かれるメディア論は明快で、また必要以上に不安を煽らず、メディアの未来に可能性を感じさせてくれる。氏が先日開設した政治メディア『ポリタス』にも期待しています。
Q08・当サイトでは「これからの編集者」という連載を通じて、セルフパブリッシング時代の編集者の役割について考えています。作家としての星井七億さんにもし、新たにサポートしたいという編集者が現れたとしたら、その人に期待したい役割は何ですか。
僕はマーケティング能力が著しく低いというか、セルフプロデュースがとにかくヘタクソなんです。自分の作品の推したい部分というものがあってもどのように売り込めば有効的なのかわかっていないし、多くの需要を満たしたい場合、もしかしたら本当にプッシュすべき部分は僕が想定していた部分ではないのかもしれない。そういうところを的確に見抜いて助言できる人がいてくれるといいですね。自分のどこを伸ばせばいいのかも見えてきますし。あとは、表現すべきでない部分を指摘してくれると助かります。僕は文章を書くうえで『無駄は徹底的に削ぐ』ということを最も重視しているので。
Q09・『笑いたい奴こっち来い!』がもし、紙の本になって書店に並ぶとしたら、この本の隣に並べて欲しいというような本を、3冊挙げてください。
適当にベストセラー本の横にでもこっそり置いてもらえれば、何かの間違いで手にとってもらってそのままレジへ直行なんてこともあるかもしれませんが、それはあまりにも姑息なので、殆ど無関係ですが僕の作品が読まれるきっかけを作った人ということで、津田大介氏の本(『情報の呼吸法』『Tweet&Shout ニューインディペンデントの時代が始まる』『ウェブで政治を動かす!』)の横に並べてもらいましょう。
Q10・次の作品の構想がありましたら、お話いただける範囲でお教えください。
今年中にあと四冊、電子書籍を配信できたらいいなあと思っています。ひとつは今作のようなコメディの短篇集で、僕のブログにツイッターで20,000以上ツイートされた『制約だらけの桃太郎』という実験風コメディがあるのですが、それを中心に書き下ろしを加えたもの。もうひとつは11月に参加予定の『第十七回文学フリマ』で頒布予定である、パスティーシュをテーマにしたコメディ。あとは書きためていたガールズラブの短篇集と、オール書き下ろしのボーイズラブの短篇集。予定は未定です。
Q11・星井七億さんが注目していて、このコーナーで取り上げて欲しい、ほかのセルフパブリッシングをされている作者がいらっしゃいましたら、教えてください。
残念なことに、僕は他にセルフパブリッシングされている作家の方々を全然知らないんですよね。藤井太洋さんの名前くらいしか知らない。物書きの友人で誰かセルフパブリッシングしてる人いないかな……と思って探してみたのですが、そもそも物書きの友人がいませんでした。物書きじゃない友人の有無も怪しいところです。
Q12・最後に、このインタビューの読者の方に、メッセージをお願い致します。
お付き合いいただきありがとうございました。電子書籍を『読む』のもいいですが、もし少しでもアウトプットできるネタがある人なら、『書いて売る』ほうにも参加してみてはいかがでしょうか。たとえ需要がニッチなものであっても、むしろ相当ニッチな需要すら満たせるくらい、発信する側が増えてコンテンツが充実していくことが、電子書籍の普及と発展に繋がるのではないかと思います。何より自分の作品が誰かの手に届くことは純粋に嬉しく、楽しいですよ。
どうもありがとうございました。
(了)
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