鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などのコメントをしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。
【2017年10月23日】 インプレスR&Dの提供する「著者向けPOD出版サービス」では Amazon で表記される出版社名が「NextPublishing Authors Press」というブランド名称に固定されますが、こちらの新サービスを利用すれば独自の出版社名が使えるようになります。費用は開設時のみで、出版時にはかかりません。ただ、ISBNは別途自ら取得する必要があります。アマゾンに広告を掲載する「Amazonマーケティングサービス」が利用できるようになる、というメリットも。詳細はこちら。「著者向けPOD出版サービス」では URL の末尾が author なのが、この新サービスでは publisher になっており、費用をかけてでも本格的に商売として出版をやっていこうという人に向けたサービス、という印象です。
【2017年10月30日】 思わず「うお!」と声が出たニュース。ブックオフの筆頭株主はヤフーなので「ヤフーショッピング」や「ヤフオク!」にも出店していますが、まさかアマゾンにも出店するとは。なお、本稿執筆時点で「ブックオフオンライン@Amazon」にはすでに40万点近くが出品されています。これはマーケットプレイスの既存古書店に大きな打撃でしょうし、「メルカリ」とその姉妹アプリ「カウル」や「ブクマ!」などのフリマアプリ系新興勢力の存在も踏まえると、これから古書の生態系が大きく変わるかもしれません。
【2017年10月31日】 リーチサイト「はるか夢の址」の運営者「紅籍会」のメンバーたちがついに逮捕されました。しかし、報道によると逮捕されたのは元大学院生22歳とか、幹部が23歳とか、非常に若い。以前の報道では、「はるか夢の址」の開設は2008年とされています。つまり、中学生時代からやっていたということに。ほんとに?
なお、新聞系の初報では、どういう判断で逮捕に踏み切ったのかが、はっきりしませんでした。以前、「DVD Shrink 日本語版」の紹介記事によって出版社社員が検挙されたものの、結局不起訴処分に終わる(Archive.is)という事件がありました。現行法でハイパーリンクを貼る行為は著作権侵害にならないはずなのです。だから「リーチサイト」問題は難しい、とされていました。
ところが、INTERNET Watchに書かれている一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の発表には、「今回の逮捕は、同サイトで紹介された海賊版ファイルのアップロードについて摘発がなされたもの」とあります。リンクではないのです。
その後の報道によると、投稿者をランク付けしてビットコインなどで報酬を提供していたとのこと。そこまでやっているなら、ハイパーリンクとか関係なく逮捕できると判断したのであろうと納得しました。ライバル海賊サイトに「DDoS攻撃」を行っていたという報道(Archive.is)もあり、5月に「フリーブックス」が潰れたのはここが原因だったのかな? という気も。いやはや、すさまじい。
【2017年10月31日】 国立情報学研究所(NII)の高野明彦研究室およびNPO法人連想出版の「連想検索」を技術基盤とした新サービス。提携メディアの過去記事を横断検索し、年表のような時系列形式で表示したり、出現頻度のグラフ化や複数キーワードの比較、内容的に近い記事を連想検索によって見つけ出すこともできます。そのままSNSで共有可能であったり、埋め込み用HTMLを取得できます。
埋め込みはこのように表示されます。これはキーワード「電子書籍/電子出版/Kindle」の出現頻度グラフ。ふつうに「Kindle」で検索するとに「キャンドル」や「ミュンヘナーキンドルヴァイスビール」などが混ざってしまいますが、演算子が使えるので「’」か「”」で囲えばOKです。演算子の詳細はこちら。
【2017年11月5日】 ホームレスの自立支援を目的とした雑誌「ビッグイシュー」が、路上生活者の減少によって販売部数が減っているとのこと。自ら「ビッグイシューのジレンマ」と呼んでいるというのが、すごい。そして、下記引用箇所のエピソードが悲しい。
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日本版をはじめたころ、「こんなん成功するはずない。100%失敗するわ」とボロカスに言われました。とくに活字メディアに関わっている人たちから厳しい意見がありました。「若者の活字離れが甚だしい」「路上販売は日本の文化にあわない」「誰もホームレスに近寄らない」と。
ビッグイシュー日本版は2003年からスタートしているそうですが、当時の出版業界はだんだん下降し始めたころ。それでもまだ出版市場は、2兆2200億円以上あった時代です。なんというか、傲慢だったのでしょうか?
【2017年11月11日】※元記事は削除済みのためリンク先はArchive.is
アメリカが離脱したのだから、アメリカの強い意向が反映された項目を凍結して新協定を結びましょう、という協議が行われていました。通称「TPP11」。凍結項目には「著作権保護期間の延長」が含まれており、協定の名称も「TPP」から「CPTPP」に変わるため、施行が「TPP発行時」となっていた改正著作権法は結局棚上げとなった、かに思われました。
ところが、11月2日に公開された「日EU経済連携協定(EPA)に関するファクトシート(PDF)」には「著作権保護期間の延長(著作者の死後70年等)」と明記されていることが判明。CPTPP では凍結しているのに、EPA では合意しているというチグハグなことに。日経新聞によると、これはEPAが7月に大筋合意した際には公表されていなかった事実。4カ月後にファクトシートをしれっと更新するというやり方に、批判の声が挙がっています。
【2017年11月15日】 吉野源三郎氏による児童文学『君たちはどう生きるか』を、羽賀翔一氏が漫画化。この記事の時点で53万部の大ヒットになっています。羽賀翔一氏のエージェントはコルクの佐渡島庸平氏ですが、仕掛け人はマガジンハウスの編集者・鉄尾周一氏。1937年発行の名著が現代でも通用しそうだと漫画化の企画を立てたけど、マガジンハウスには漫画の制作ノウハウがないため、講談社・原田隆氏に相談、コルク・佐渡島氏に話が回ったとのことです。ただ、そこから出版まで2年がかりだったという苦労話や、原田氏はすでに亡くなられているという話も。佐渡島氏が「ヒットの理由が分析できない」とツイートしているように、特別な「仕掛け」があったわけではないようです。あえて言うなら、歴史的名著を漫画という現代的なフォーマットで仕立て直した「企画」が勝因、ということになるのでしょう。
【2017年11月19日】 法律論的に参考になる記事。「前提となる法律論は、あまり争いがないか、従前から解釈されてきたものがベース」とあり、もし控訴してもひっくり返すのは難しそうに思えます。プロバイダ責任制限法が適用される投稿サイトとは異なり、一定の意思に基づいた「編集」が行われている「メディア」なので、「訴えられたら消せばいい」わけではないのは当然のこと。記事の内容には違いがあれど、立ち位置は「週刊文春」「週刊新潮」「東京スポーツ」「日刊ゲンダイ」などと同じなのです。訴訟リスクと事業の持続可能性を考えたら、まずい表現はなるべく避けるという方向へ徐々に傾いていくのではないでしょうか。
【2017年11月21日】 周囲で物議を醸している取り組み。無断でスキャンした電書を図書館で閲覧可能にするというもので、根拠は著作権法第31条「国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの」は、1項2号「図書館資料の保存のため必要がある場合」に無断で著作物を複製できるというものです。
弁護士の福井健策先生は記事中でこの1項2号「図書館資料の保存のため必要がある場合」について、「劣化の恐れがある場合や、絶版などで入手困難な場合に限られるという見方が一般的」と指摘。Twitterでも「著作権法31条を最大限解釈」とコメントしています。
もう1つ、この電子図書館用アプリ「みる会図書館」の「コンプライアンス」を読むと、閲覧可能な範囲がWi-Fiで館内限定なので、著作権法38条の非営利無償で無断「上映」ができる例外だ、という主張をしているようです。アプリでタイトルと目次までは見られるのですが、多くは著作権がまだ残っている本のように見えます。
ラインアップされてる本の著者と出版社は、この踏み込んだ見解に納得できないのであれば、裁判できっちり白黒つけて判例を残して欲しいところです。
【2017年11月24日】 講談社の新刊『健康格差』を、提携ウェブメディアで無料公開する試みについての解説記事。対象ウェブメディアは「日経ビジネスオンライン」「ダイヤモンド・オンライン」「プレジデントオンライン」「東洋経済オンライン」「BUSINESS INSIDER JAPAN」「ハフポスト」の6カ所です。
今年に入ってから『えんとつ町のプペル』『ルビンの壺が割れた』など、「ネットで全文無料公開モデル」の事例が急に脚光を浴びるようになりました。ただ、ネットで全文無料公開モデルは、たとえば「絵本ナビ」や「cakes」などでも以前から行われています。いまでもまだ先駆的ではありますが、以前から成功事例はたくさんあります。
そもそも、クリス・アンダーソン『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』が日本で発売されたのは2009年11月のこと。アメリカでは発売と同時に電子版が無料公開されたことが話題になった本ではありますが、内容そのものもそれ以前から行われていた「無料をうまく活用したビジネスモデル」について紹介している本です。
今回の取り組みが面白いのは、講談社の新刊なのに、「現代ビジネス」などの自社メディアを使わず、提携他社のメディアで分散公開している点。これにより成果が出るかどうかが気になります。
11月もいろいろ興味深い動きがありました。さて12月はどんなことが起こるでしょうか。
ではまた来月 ٩( ‘ω’ )و
[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2017年11月 了]
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