鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などのコメントをしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。
【2017年9月28日】 ハードネゴシエーションがコンプリート。それにしても4割超の値上げって、いままでどれだけ安かったんでしょうか。なお、アマゾンの「書籍」はまだ配送料無料ですが、これを受け今後どうなるかが注目されます。
【2017年10月2日】 シャープが運営するネットサービスを「COCORO+」ブランドに統合。「GALAPAGOS STORE」は「COCORO BOOOKS(ココロブックス)」に改称されるとのこと。シャープ本体の経営危機と鴻海精密工業による買収以降もサービスは継続しているので、B向けを含めて収益が出ている事業ではあるのでしょう。散々揶揄された「ガラパゴス」の名称を捨てるのは、イメージ一新で良いと思います。
【2017年10月4日】 ドコモが先行している回線契約に縛られない形のサービス展開に、ソフトバンクがようやく追従。記事内では競合サービスが「dブック」と表記されていますが、これは「dマガジン」の間違いでしょう。なお、同じく携帯キャリアが提供する「ブックパス」は、まだ au 回線縛り(au ID は誰でも取得できるが au 回線が登録されていないと利用できない)ですが、この動きを受けどうなるかが注目されます。また、このニュースと前後して「Yahoo!ブックストア」から読み放題サービスの終了と「ブック放題」への移行推奨のお知らせが出ており、グループ内で競合するサービスの集約が進んだ感もあります。
【2017年10月5日】 年額3900円のプライム会員なら、追加料金なしで読み放題の新サービス。「Kindleオーナー ライブラリー」はKindle端末限定・月1冊のみでしたが、「Prime Reading」は端末の制限なし・同時に利用できるのは10冊までという違いがあります。とはいえラインアップは900点弱と、「Kindle Unlimited」の17万点超(10月2日時点調査)に比べたらほんのお試し程度でしかありません。プライム会員の特典がちょっと増えた程度に捉えておいたほうがよさそうです。ラインアップは随時入れ替わるようですが、どれくらいの頻度なのでしょうか。「Kindle Unlimited」と同様、月1回かな? プライム会員の特典がどんどん増えていますが、アメリカ(年額99ドル=本稿執筆時点の為替レートで約1万1300円)に比べて日本の会費は格安。個人的には、いつ値上がりしてもおかしくないと思っているのですが、果たして……?
【2017年10月6日】 長崎県出身でイギリス国籍のカズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞。おめでとうございます。主な作品の翻訳書を発行している早川書房は、電話が鳴り止まないような状態になっていたようです。なお、電子版は8冊出ており、受賞のニュース直後から電子書店のランキング上位を一時独占していました。典型的な「突然話題になって売れる」事例で、在庫切れしないから売り逃さない電子版のメリットをここぞとばかりに享受したものと思われます。他紙の続報によると、10月1日から10日までのあいだに「Kindleストア」だけで『日の名残り』が1万ダウンロードとのこと。すごい!
【2017年10月12日】 全国図書館大会で、文庫貸し出しをやめてくださいと要請。2015年の、新潮社による新刊貸出猶予要請と同様、猛反発されています。「確たるデータはないが」と言ってる時点で、語るに落ちる。「それが文庫市場低迷の原因などと言うつもりは毛頭ないが」と言ったそばから「少なからぬ影響があるのではないか」と論理的整合性もない。こういう言い方をしたら反発されるということが予想できないのでしょうか。感情に訴えるなら、もっと違ったやり方があると思うのですが。
ちなみに、文庫には「単行本発行から数年後に文庫化」するケースと、「最初から文庫として発行」するケースがあり、文藝春秋は前者のことを言っています。せっかく廉価版(普及版)を出しているんだから、借りずに買って欲しいという気持ちはわかります。図書館には、装丁が頑丈で長持ちする単行本を買って欲しいという気持ちもわかります。ただ、この言い分だと「最初から文庫として発行」するケースを無視しているように思えてしまいます。ちなみにこのニュースを受け、カズオ・イシグロ氏の著書などで図書館の所蔵状況を調査した方がいますが、同じ本でも文庫より単行本のほうがかなり所蔵数が多いという結果になっています。
【2017年10月15日】 絵本『えんとつ町のプペル』をウェブ上で無料公開し実売に繋げた手法を、図書館に転用。上記の文藝春秋社長による図書館文庫本貸し出し中止要請とビジネス手法的に比較したら、西野氏のほうが圧倒的に正しいように思います。ただし、他にやる人がいない状態だからこそ成功する可能性が高い手法で、みんながこぞって寄贈するようになれば、そこで新たな場所の奪い合いが起きるでしょう。「1巻無料」で続刊を売る手法が、みんながやり始めたらあっという間に陳腐化したのと同じ原理です。また、著者購入で若干安くなるとはいえ、送料含めたらざっと800万円くらい必要なので、ちょっと真似できないギャンブルであるのは確かです(ただし定価1500円の10%印税なら5万5000部発行でいちおう元は取れる)。役割分担的に、こういう施策は版元がリスクを負ってやるものではないのか、という気もします。もしかしたら、版元がリスクを負ってくれないから、強攻策に出ているのかもしれませんが。
【2017年10月16日】 米国出版社協会(AAP)の発表数字と主張だけを元にした記事なので、鵜呑みにするべからず。そもそも、アメリカで「ビッグ5」と呼ばれる大手出版社は、アップルと共謀して電子書籍の価格を吊り上げたとして司法省から独占禁止法違反の疑いで提訴され、和解条件として2年間の値引き制限禁止を受けていたのです。期限が切れ、電子書籍の価格を紙の単行本とあまり差がない水準にまで値上げし、あえて電子書籍の販売減少を狙っているような状況なのに、何をぬかすかと言いたいです。なお、「Author Earnings」の調査によると、ビッグ5の電子書籍販売はここ数年右肩下がりですが、インディーズと中小出版社は伸びている、という状況にあるようです。
【2017年10月20日】 取次が出版社に追加で送料の負担を求めるとなると、出版社としては「では返品条件をもっと厳しくしましょう」という話になるのではないでしょうか。例えば書店と直接取引をしているトランスビュー方式のように、返品時の配送コストは書店負担にする、といった方式が考えられます。そうすると書店は、どの本を仕入れるか? という判断がもっとシビアになるでしょう。取次が勝手に本を送りつける「パターン配本」なんかあり得ないって話に……あれ? これ、業界の健全化が進むかも?
【2017年10月21日】 以前、マンガの海賊版は「最新作の売り上げ減少」と「旧作の売り上げ促進」の2つの効果をもたらすという論文とその紹介記事が話題になりましたが、こちらは欧州委員会によって伏せられていた調査報告。「確定的な統計的証拠を示していない」とは言いつつ、大ヒット映画では40%の置換率(つまり正規版が海賊版に40%食われた)という関連性も示されており、実際にはマンガの海賊版とよく似た傾向なのではないかなと思われます。
10月もいろいろ興味深い動きがありました。さて11月はどんなことが起こるでしょうか。
ではまた来月 ٩( ‘ω’ )و
[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2017年10月 了]
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