鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などをコメントしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。
【2016年2月24日】 NHKニュースで報じられた「読書しない大学生は45% 過去最高」という記事が非常に話題になっていた(はてなブックマークのページ)のですが、既に消えてしまっているので、元ネタである全国大学生協連のリリースを貼っておきます。「読書」にどこまで含まれるかの定義が不明であること(しばしば漫画や電子書籍は除外される)、毎日新聞が毎年行っている「読書世論調査」でも書籍の不読率はほぼ半数であること(つまり「若者」に限った話ではない)、しかし、0冊の割合が昨対比で4.3ポイントも増加しているのは気になる、という3点を指摘しておきます。
【2016年2月26日】 「電子書籍」の利用率、昨年と誤差程度しか変わっていません。回答者属性を見る限り、男女比・年齢構成・居住地などはしっかりした調査です。ただ、設問が「電子書籍ストアから電子書籍を購入した本を読んだことはありますか?」なので、ユーザーが「電子書籍ストア」とみなしていないサービスは含まれないのではないかと思われます。例えば「ガンガンONLINE」のような無料ウェブマガジンや、「comico」のような無料アプリを利用していたとしても、上記のような設問なら「はい」とは答えないのではないでしょうか? ジャストシステムの自主調査レポートでも「電子書籍の利用率が2割弱で頭打ち」という結果が出ていますが、こちらも設問は「電子書籍の利用意向について、あなたの状況をお答えください」で、「電子書籍」の定義についてはユーザーの判断に委ねられる形になっています。「電子書籍」と言われると、つい紙のレプリカを想定してしまうのですが、「電子出版」が扱う領域ってもっと広いですよね。
【2016年3月1日】 2月28日にオープンしたばかりの「カクヨム」に投稿された衝撃的な小説(実話?)。これに対するKADOKAWA側の情報発信が「かわんご」氏による投稿小説、というのもなかなか激しい。KADOKAWA側の細かな事情は不明ですが、結局、丸く収まったようでなにより。法律的な話としては、2015年1月1日に施行された改正著作権法から、電子出版にも「出版権」が設定できるようになったことを踏まえる必要があります。本件の場合、ろくごまるに氏の小説(?)に「電子出版契約を結んだ」「独占的に許諾するってェ契約のやつ」「2015/01/01に契約を交わし」とあるので、著作権法81条「六月以内に当該著作物について公衆送信行為を行う義務」に該当します。要するに出版義務違反なので、著者側から通告すれば出版契約を解除することも可能です。
【2016年3月3日】 PHP研究所の公式アプリで購入した本が、本棚を連携すればヨドバシ「Doly」でも読むことができるようになった、というニュースです。紙の本ならどの書店で買っても中身は同じですが、電子書店はサービス内容や読書体験が異なります。どの電子書店で買っても、好きなアプリや端末で読むことができるのが理想ですよね。音楽のようなDRMフリー化が難しいのであれば、もっと本棚連携を広げて欲しいと私は願っています。ところがこれまで、BOOK☆WALKER(ニコニコ静画、電撃文庫CLUB、BookLive!、ブックパスと本棚連携できる)以外にこういう動きはほとんどなく、寂しい思いをしていました。ぜひこれを機会に、他社も連携を検討していただきたいです。
【2016年3月4日】 この4月から「障害者差別解消法」が施行されるため、図書館でも「合理的配慮の提供」が義務づけられます。そのため、従来の点字や朗読に加え、「電子書籍」の読み上げ機能が注目されています。3月2日に行われたシンポジウム「電子書籍の出版・流通と図書館の課題——読書アクセシビリティを中心に」において、三田市立図書館で行われた実証実験の報告がありました。視覚障害の方による、電子図書館サービス「TRC-DL」のアクセシビリティ検証です。実際のところ、視覚障害の方が1人で読むことは困難な仕組みだったため、要件定義からやり直して再開発しているそうです。昨年11月の図書館総合展に参考出典されていた「TRC-DL」には、メニューの音声ガイドや音声入力がβ版の新機能として追加されていました。その正式版が、4月から三田市立図書館へ提供される、ということになるのでしょう。
【2016年3月8日】 長かった裁判もついに決着。「エージェンシー・モデル」が違法とされたわけではなく、アップルが大手出版社5社と共謀して販売価格をつり上げたカルテル行為が独占禁止法違反になった、という話なので誤解なきよう。しかし、この米司法省の介入が結果的に、アマゾンの寡占を招くことになったのは皮肉なことです。
【2016年3月10日】 これまで話題に挙がることの多かった「非親告罪化」「保護期間延長」「法定賠償金制度」の3点セット以外に、アクセスコントロール回避行為が不正競争防止法だけではなく著作権侵害にもなる、という点がピックアップされています。しかしこのTPP関連法案、日本政府が異常に前のめりなのはさておき、施行日はTPP発効時になっています。域内GDP85%以上の国で承認されないと発効しないので、米大統領選と議会次第ということに。しかし有力大統領候補は軒並みTPPに反対しているわけですが、いったいどうなることやら。
【2016年3月11日】 電子書店の利用率。「シェア」ではありませんので、念のため。複数回答可で、Kindleストアが45.0%、楽天Koboが27.6%、iBooksが17.9%、Reader Storeが13.3%に続き、5番手にLINEマンガが急上昇しています。昨年4月の調査では、Kindleストアが46.6%、楽天Koboが27.8%、iBooksが20.3%、eBookJapanが14.6%、Yahoo!ブックストアが12.5%の順。1位2位の利用率はあまり変わってませんが、3位以下に結構変動がありますね。「電子書籍を利用しているユーザー」で、電子書籍専用端末の利用率が9.3%というのは相当低い。調査対象が「20歳~59歳」で年配の方が除外されているからかも?
【2016年3月15日】 先月のまとめ時点では「自主廃業」へ向けて動いていると報じられていた太洋社ですが、結局、自己破産した芳林堂書店の延滞売掛が回収できなかったことが致命傷となりました。「もはや万策が尽きた」というリリースが印象的。もっとも、ここへ至るまでの経緯として、トーハンや日販が優良な取引先書店を増やすために、太洋社の帳合書店を奪っていったことは頭に入れておいたほうがよさそうです。生き残りをかけたビジネス戦争ですから、シビアですよね。
【2016年3月17日】 発端は2011年9月、出版社7社と作家・漫画家122人が自炊代行業者に質問状を送ったところからでした。あれから5年、とうとう決着。大方の予想通りではありましたが、業者を手足として利用する「私的複製」だという主張は認められませんでした。知財高裁の判決文はこちら(PDF)。ところで、もしTPP協定が発効して著作権法が非親告罪化したら、自炊代行はどうなるんでしょう? いまは、自炊代行はNoだという著者をホワイトリスト化し、それ以外の本は裁断・電子化後に廃棄処分している会社も多いのです。改正著作権法案の条文で言うと「原作のまま複製」ではあるけど「利益が不当に害されること」ではないので、私には非親告罪の領域ではないように思えるのですが。専門家による解説が欲しいところです。
3月もいろいろ興味深い動きがありました。さて4月はどんなことが起こるでしょうか。
ではまた来月(=゚ω゚)ノ
[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2016年3月 了]
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