和歌山県新宮市にある「bookcafe kuju」を訪ねた。世界遺産に登録された「熊野古道」にもほど近い、古からの景観が残る情緒あふれる街。とはいえ過疎化が進む山あいの小さな集落である。
市街地でさえ多くの書店が消えてゆく昨今、この店のオープンは本屋という商売と文化の両面に衝撃をもたらした。しかも「book」部分を担当するのは、あの京都の人気書店「ガケ書房」。
オープンから8ヶ月を経た現在までの道のりと今後のビジョンを、カフェを運営するNPO法人「山の学校」主宰・柴田哲弥さんと「ガケ書房」店主・山下賢二さんの両名に、DOTPLACE編集長・内沼晋太郎が伺った。
【以下からの続きです】
1/8:「コンビニもなく、夜は真っ暗。“文化の不毛な地”にブックカフェをつくる」
2/8:「本当に本好きの人が来た時に『お』っと思ってもらえる本を」
使い道を考えずにとにかく古いものは何でももらう
――買っていかれる方をご覧になっていてどうですか。
柴田:ファミリーのほかに、若いカップルが来るんですよ。おそらく市街地から。これまではジャスコとかTSUTAYAに行ってたのが、わざわざここまで来てくれるようになったのかなと思います。
山下:そう、わざわざっていうのが重要なポイントで。30分かけて来たからにはなんか買っていこうというのがありますよね、やっぱり。これが町中だったら鳴かず飛ばずだと思うんですよ。お土産感覚で、来た思い出に買い物をするというのがいいんでしょうね。
柴田:パン屋さんと一緒に始められたのも大きかったと思います。パン屋目当てで来たついでに本も見て、本屋に来たついでにパン屋に寄って。パン屋ってお店めぐりをするようなコアなファンもいるし。
――そういう意味では「ガケ書房が出来たから」って来る本屋好きもいますよね。
柴田:いやー、割合としては少ないと思いますね。
山下:そこまで熱意ないですよ! 県内ならまだしも、京都や大阪からっていうのは。遠いもん。
柴田:ガケ書房を知らない人のほうが多い(笑)。なんか変な本をいっぱい置いているお店だなと。
――いや、きっといたにはいたと思いますけどね。どうしても新しい本屋ができたら回らないと気が済まないおじさんとか。オープン直後にさっと来てさっと買って帰ってると思いますけど(笑)。
山下:取材に行きたいけど行けないという声は何回か聞きました。取材費がおりないと(笑)。
――ぼくらみたいなのでも来てるのに、根性が足りないですね(笑)。柴田さんはこちらのご出身なんですか?
柴田:そうですね。僕自身は生まれで言うと和歌山市なんです。ここから車で2時間くらいのところで生まれ育って。地元なんてキライやと思って東京で大学院まで行きました。町づくりとか地域の活性化とかに興味があったんですけど、ずっと研究しててもあんまりおもしろくないなと。自分で現場にいく人がまわりにあんまりいなかったのでやってやろうと思って、熊野川町にある廃校を使って活動しているNPOを頼って移住しました。
――普段はだいたいここにいらっしゃるんですか。
柴田:週2日の営業で、今年中にはもう少し増やす予定ですけども。それ以外の日は子どもに勉強を教えていて、それが収入のメインです。
――そう、それを伺いたくて。端的に言うとここの収入だけで暮らしていけるのだろうかと。
柴田:ここだけやとしんどいですね、絶対。ほかにもやりつつでなんとか成り立っています。ただ家賃はかかってません。使用貸借契約というのを結んでいまして、使うにあたっては地域住民と協力してくださいという条項が入ってるんですけど、賃料はタダです。地域おこし協力隊という総務省がやっている制度があって、改修に必要な分はそこからまわしたりして。
――改修の経費は最初に行政から出たんですか? いわゆる「材」のことですが。
柴田:「材」はもらってきてますね。この椅子なんかも全部もらいものです。そもそも取り壊しの予算が800万ついていたので、同額を改修にまわしてもらってそれを使いました。その大部分でまず、行政にトイレを直してもらいました。
あとは木の板とか角材とかを用意してくれと。工事はこっちでやるからと言ってお願いしました。そのへんは市の支援と国の支援の両方をうまくつかってやってます。棚は全部廃校になった学校からもらいました。
山下:最初のプランとしてはピカピカの本棚を作るつもりだったんですけど、見たら「あれ?」って。むしろこっちの買えないもののほうがいいやんと。
――棚の組み合わせ方もすごくおもしろいですよね。
柴田:棚そのものは、市街地で統廃合になった別の小学校で余っていたんですよ。業者の方から連絡をもらって、引き取りにいって。使い道はなんにも考えずに、とにかく古いものは何でももらってきておいといたんですね。最近も近所で古民家を解体するとか聞くと、行ってもらってきて。
山下:今、わざわざ古い感出すじゃないですか。本物の古いモノが目の前にあるわけやから、こんな財産ないわと思って。それを使おうと。
――組み合わせ方でさらにかっこよくなってますよね。
柴田:組み合わせ方は、店のプランを作ってくれた建築士の子とか、ボランティアに来てくれた子たちとかと、みんなでああだこうだいいながら考えました。
山下:照明とかも、明るすぎず暗すぎずね。
柴田:そこも実は全然予算はかかっていないんです。ランプシェードは、紙皿とみそ汁のお椀のまわりに和紙を巻いただけ。
――うわー! ほんとだ!
柴田:原価は1個100円もかかってないと思います(笑)。いろんな支援をいただいたのも事実ですけども。改装費はパン屋の手作り釜の材料まで全部含めて200万円くらいですね。ボランティアを頼んだので、人件費はあまりかけてないですし。
――相当安いですね、それ。
柴田:地方ってやっぱり、モノが余っているんですよ。人が減っているので資源は余り出している。行政の許可さえ下りれば、組み合わせ方次第でいろんなことができるんじゃないかなと思いますね。
[4/8「利益は半々。割るほどもないけど(笑)」に続きます](2015年2月13日更新)
bookcafe kuju
2014年5月オープン。本格コーヒーをはじめとするドリンク類とスイーツが楽しめる。商品である本は「ガケ書房」が選書・卸を担当。同じ建物内にパン屋「むぎとし」がある。
住所:和歌山県新宮市熊野川町九重315 旧九重小学校
電話:0735-30-4862
営業:土・日 11:00~18:00
www.facebook.com/bookcafekuju
www.mugitoshi.com
構成:片田理恵
編集者、ライター。1979年生まれ。千葉県出身。出版社勤務を経て、2014年よりフリー。内沼晋太郎が講師を務める「これからの本屋講座」第一期生。房総エリアで“本屋”を目指す。
聞き手:内沼晋太郎(numabooks)
写真:長浜みづき、片田理恵
[2015年1月11日、bookcafe kujuにて]
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