COLUMN

これからの本の話をしよう――『マニフェスト 本の未来』寄稿者が語る

これからの本の話をしよう――『マニフェスト 本の未来』寄稿者が語る
第6回(最終回):もっと激しく失敗しろ——ピーター・コーリングリッジ

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電子出版、そして本の今後についての実践的な提言集として2013年に翻訳版がリリースされ、反響を呼んだ書籍『マニフェスト 本の未来』。その寄稿者へのインタビュー動画を、日本語版の編集スタッフとのちょっとした裏話とともにお届けしてきたこの短期集中連載も、今回で最終回です。
ラストは、『マニフェスト 本の未来』の第21章「『リトル・データ』の驚くべき力」を執筆したピーター・コーリングリッジへのインタビュー。
イントロダクションのテキストは、ボイジャー代表取締役の鎌田純子がお送りします。

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「出版はBtoBからBtoCの時代へ」。出版マーケティングの新旗手
 
ピーター・コーリングリッジ│Peter Collingridge

 
peter
『マニフェスト 本の未来』第21章「「リトル・データ」の驚くべき力」執筆者。アプト・スタジオ(Apt Studio)のマネージングディレクター、エンハンスト・エディションズ(Enhanced Editions)の共同創業者として活動した後、出版マーケティングのための情報サービスを提供するブックシーア(Bookseer)を創設。現在はサファリ・ブックス・オンライン(Safari Books Online)に参加。
 
 
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もっと激しく失敗しろ——ピーター・コーリングリッジ
文:鎌田純子(ボイジャー)

 

 ピーターは2009年のロンドン・ブックフェアで、「もっと激しく失敗しろ(Fail Harder)」と題し、自らの失敗例を列挙した講演を行っている。オックスフォードをめざし失敗。パリをめざし、ウィーンをめざし、失敗。大学も仕事も中途半端。ヒップホップのDJ、広告業界のエクゼクティブとしても失敗。ドットコムバブルに踊らされて失敗。出版とインターネットの融合を目指して、エンハンスト・エディションズ社を起こし、これも失敗。

 これだけ失敗していても、ピーターは負け犬ではない。今はサファリ・ブックス・オンラインの中核にいる。責任者としてライザ・デイリーやキース・ファーグレンなどを束ねている。
ピーター(後列左から二人目)へのインタビューは、2013年10月にできたばかりのサファリ・ブックス・オンラインのサンフランシスコ・オフィスで行った。インタビューが終わるころ、ライザ・デイリー(後列中央)やキース・ファーグレン(後列左端)が集まってきていた。

ピーター(後列左から二人目)へのインタビューは、2013年10月にできたばかりのサファリ・ブックス・オンラインのサンフランシスコ・オフィスで行った。インタビューが終わるころ、ライザ・デイリー(後列中央)やキース・ファーグレン(後列左端)が集まってきていた。


 サファリ・ブックス・オンラインは、2001年に、ピアソン・テクノロジー・グループとオライリー・メディアがスタートしたジョイントベンチャーだ。ピアソンは世界的な規模を持つ巨大メディア会社だ。政治経済の新聞「フィナンシャル・タイムズ」も、ランダムハウスとペンギン・ブックスが合併したペンギン・ランダムハウスもピアソングループに入っている。オライリー・メディアはIT系技術者なら知らない者はいない、ティム・オライリーが率いるIT専門の出版社だ。ボイジャーから発行した『マニフェスト 本の未来』『ツール・オブ・チェンジ』もオリジナルはオライリー・メディアの本だ。ピアソンの情報産業の中で、サファリ・ブックス・オンラインは教材として、技術書のテキストやビデオの提供をWebを介して行う(http://www.safaribooksonline.com)。

 ピーターはなぜ、失敗につぐ失敗を重ねながら負けていないのか? その理由も失敗の中にある。

 『マニフェスト 本の未来』の中で、ピーターはエンハンスト・エディションズ社で『バニー・ムンロ』の電子本アプリを発売し、それが失敗したことが、次のブックシーアの起業につながったと書いている。「分析結果を眺めていた私たちは、自分たちが金脈の真上に立っているということに気がつきました。そこからは読者がいつどこで何を読んでいるかを自由自在に眺めることができました。」

 電子本アプリは失敗だ。しかしその中に埋め込んだユーザーの行動を知るための機能は宝の山だと言ったのだ。ここにピーターが負けない理由があるのではないか。ピーターにとって失敗は失敗ではない。次のビジネスを発見するために必要なプロセスなのだ。次へ向かう活力なのだ。そして活力を得れば、自分のひらめきを確かめるため即座にビジネスの方向を変える。行動するのだ。
書名や著者名からおすすめ本を探せるブックシーアのサイト。インターフェースはシンプルさを追求したという。試しに「Romeo and Juliet」「William Shakespeare」と入れてみた。数秒後、次に読むべき本として、システムが推薦する10作品のリストが登場した。『ハムレット』『マクベス』などシェイクスピアの作品に混じって、スタインベックの『二十日鼠と人間』が推薦された。ここからオンライン書店、図書館へと誘導される。

書名や著者名からおすすめ本を探せるブックシーアのサイト。インターフェースはシンプルさを追求したという。試しに「Romeo and Juliet」「William Shakespeare」と入れてみた。数秒後、次に読むべき本として、システムが推薦する10作品のリストが登場した。『ハムレット』『マクベス』などシェイクスピアの作品に混じって、スタインベックの『二十日鼠と人間』が推薦された。ここからオンライン書店、図書館へと誘導される。


 
 もう一つは優れたプレゼンテーション力にあるだろう。ピーターが制作したビデオを見ていただきたい。最初は電子本アプリ『バニー・ムンロ』(ニック・ケイブ著/エンハンスト・エディションズ刊)の短いプロモーションビデオだ。

 
電子本アプリの機能を余すところ無く伝えている。今では電子本アプリ『バニー・ムンロ』の手がかりはプロモーションビデオだけだ。
電子本アプリにはボイジャーでも辛い思い出がある。iPadの登場直後、『死ねばいいのに』(京極夏彦著/講談社刊)の電子本アプリを作った。この『バニー・ムンロ』ほどの機能はないが、PR動画を入れ、出版社から過大な評価をいただいた。これでいいのだろうか。これが本当に残るべき電子本の形なのか。発売後間もなく、iOSが変わり、AppStoreの規則が変わり、アップルは容赦なく電子本アプリを消していった。

 
 
 次にアプト社(Apt)でピーターがジェイムズ・ブリドルと共同制作したアニメーション。ピーターはアプト社でマネージングディレクターを務めている。このアニメは出版社「4th Estate」の25周年を祝う、「25th Estate — This is Where We Live」という作品。

 
このストップモーションのアニメーションのすべてが「4th Estate」の本でできている。本の中から一人の男が傘と鞄を持ち悠々と歩き出す。男の体は本のページでできている。市場、繁華街、公園と進み、ビル街へと抜けて行く。すべてが本だ。「4th Estate」は1984年創立。2000年に6大出版社の一つ、ハーパーコリンズに統合されている。日本では河出書房新社や早川書房から邦訳が出版されている。

 
 
 見えないモノを作るからこそ、スタッフ全員にイメージを共有させる力。そんな力をピーターは持っているように思う。彼は出版とインターネットの融合を目指している。その成功を見たい。

 
 
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字幕翻訳:堺屋七左衛門

[これからの本の話をしよう 了]

 
 
 
manifesto-209x300_『マニフェスト 本の未来』
第21章「『リトル・データ』の驚くべき力」 ピーター・コーリングリッジ 著

ヒュー・マクガイア/ブライアン・オレアリ 編
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PROFILEプロフィール (50音順)

鎌田純子[ボイジャー](かまた・じゅんこ)

1957年生まれ。株式会社ボイジャー代表取締役。パイオニアLDCにてレーザーディスクの市場導入やマルチメディア作品の企画・制作に従事した後、1992年株式会社ボイジャーの設立に参加。CD-ROMやWebのプロデュース、電子出版関連ツールの制作・販売などを担当。『マニフェスト 本の未来』日本語版チーフエディターでもある。2013年10月より現職。