電子出版、そして本の今後についての実践的な提言集として2013年に翻訳版がリリースされ、反響を呼んだ書籍『マニフェスト 本の未来』。その寄稿者へのインタビュー動画を、日本語版の編集スタッフとのちょっとした裏話と一緒に毎週お届けしていきます。
第4回目は、『マニフェスト 本の未来』の第10章「言葉から本を作る」を執筆したエリン・マッキーンへのインタビュー。
イントロダクションのテキストは、ボイジャーの高山みのりがお送りします。
エリン・マッキーン│Erin McKean
新しいオンライン辞書「ワードニク・ドットコム」創設者。オックスフォード大学出版局で英語辞書の編集長を務めた経験を持ち、新オックスフォード米語辞典第二版の編纂者でもあった。言葉と人との関係を再構築するエバンジェリストとしても知られる。言葉に関する著書や衣服に関する著書多数。
文:高山みのり(ボイジャー)
『マニフェスト 本の未来』に「言葉から本を作る」と題した文章を寄せるエリン・マッキーンは、かのオックスフォード大学出版局で英語辞書の編纂に携わった後、オンライン辞書サービス「ワードニク・ドットコム」を立ち上げた人だ。Wordnik。品よく訳せば「言葉の人」。超訳すれば「頭のてっぺんから足の先まで言葉まみれ(はぁと)」とか?
泣く子も黙るオックスフォード辞書のプロジェクトを離れ、彼女がワードニクでやろうとしていること。辞書は気象衛星画像のようなサービスになると言う彼女は、それを使う私たちは、言葉の気象情報(どんな人が、何日の何時何分に、どこで、どんなふうに使ったか)をリアルタイムで見ながら言葉を選ぶようになる、と続ける。そういえばワードニクで“dictionary”を調べた時、こんなメッセージがページの一番下にくっついていた。「“dictionary”は44,882回調べられ、41回お気に入りに登録され、41個のリストに入っていて、25個のコメントがついてるよ」。20年後に向けた準備は着々と進んでいる。
インタビュー冒頭で彼女が「趣味は縫い物をしたり衣服に関する文章を書いたり」と言うのが気になって調べたら、衣服にまつわる著書を持つベストセラー作家でもあった。写真は2011年刊行の”The Secret Lives of Dresses”(左)と2013年刊行の“The Hundred Dresses”(右)。インタビューで着ていたのも自分で縫った服だった。
2011年5月にボイジャーに入った私は、頭のてっぺんから足の先まで未知の言葉に囲まれ、途方に暮れていた。紙の出版に疑問を感じて電子の世界に飛び込んではみたものの、社内を飛び交う用語がとにかくわからない。当時の備忘録にはIDPF、DRM、IA、TOC、BiB、OPDS、APIといった略語が何十個も書き留められている。最近では空気を読まずに質問できるぐらいにはなったけど、聞いたところでさっぱり像を結ばないことも多い。
そもそも本のことを「コンテンツ」とか、読者のことを「ユーザー」とか、片っ端から言葉を塗り替えていくのがデジタルだ。出版社にとって紙本と電子本の裂け目は、紙か電子かの違いより、こうした言葉(=世界)の違いに潜んでいる。願わくばコンテンツでもeBookでもなく、電子書籍でも電子本でもなく、それにぴったりの呼び名が見つかればなあ。あるいは石橋毅史氏や内沼晋太郎氏が「本屋」という言葉を、エリン・マッキーンが「辞書」という言葉を解放していくように、ボイジャーは、私は、この先どんなふうに「本」を解き放っていけるだろうか。
[これからの本の話をしよう:第4回 了]
『マニフェスト 本の未来』
ヒュー・マクガイア/ブライアン・オレアリ 編
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