COLUMN

これからの本の話をしよう――『マニフェスト 本の未来』寄稿者が語る

これからの本の話をしよう――『マニフェスト 本の未来』寄稿者が語る
第3回:なんてったってユーザー――ブレット・サンダスキーの原則

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電子出版、そして本の今後についての実践的な提言集として2013年に翻訳版がリリースされ、反響を呼んだ書籍『マニフェスト 本の未来』。その寄稿者へのインタビュー動画を、日本語版の編集スタッフとのちょっとした裏話と一緒に毎週お届けしていきます。
第3回目は、『マニフェスト 本の未来』の第13章「ユーザー体験、読者体験」を執筆したブレット・サンダスキーへのインタビュー。
イントロダクションのテキストは、ボイジャーの斉藤正善がお送りします。

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「UX開発の原則はユーザーを理解すること」。UX(ユーザーエクスペリエンス)開発の専門家
 
ブレット・サンダスキー│Brett Sandusky

 
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『マニフェスト 本の未来』第13章「ユーザー体験、読者体験」執筆者。ビッグ6(北米6大出版社)の一つに数えられるマクミラン社で、プロダクト・マネージャーとしてUXデザイン、デジタル製品開発、eコマース、リサーチやデータ分析を監督。現在は独立し、製品開発コンサルタントとして活躍している。
 
 
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なんてったってユーザー――ブレット・サンダスキーの原則
文:斉藤正善(ボイジャー)

 

 電子本のUX(ユーザーエクスペリエンス)開発の原則にご興味をお持ちですか? それならばすぐにブレットの動画を見てください。それから『マニフェスト 本の未来』を手に入れて、第13章「ユーザー体験、読者体験」を開きましょう。ここはUXについて考えるベストプレイスです。
 

 
 ブレットの話は、製品作りの講義ではありません。「これがいいUX、こうすれば安心」といった知識は得られないでしょう。しかしそこには、UX開発の指針になる重要なアイディアが含まれています。
 インタビューでは、リーダーソフトウェアの機能やDRMといった、電子本に関わる要素が挙げられています。そうした要素の良し悪しを決めることではなく、今の電子本でユーザーは何ができて、何ができないのかを考えることをUX開発で重視しています。

インタビューは、ブレットのいるニューヨークと私たちボイジャースタッフのいるサンフランシスコとを、Skypeでつないで行われた。最初はブレットの外出先から携帯電話回線で試したが、映像も音声も質が悪い。それがわかると彼は、自宅に戻ればより良い環境で話せると提案してくれた。その日の夜、私たちはホテルの部屋からブレットの自宅にSkypeをかけ直し、無事にインタビューが始まった。

インタビューは、ブレットのいるニューヨークと私たちボイジャースタッフのいるサンフランシスコとを、Skypeでつないで行われた。最初はブレットの外出先から携帯電話回線で試したが、映像も音声も質が悪い。それがわかると彼は、自宅に戻ればより良い環境で話せると提案してくれた。その日の夜、私たちはホテルの部屋からブレットの自宅にSkypeをかけ直し、無事にインタビューが始まった。


 ブレットはDRMがUXに与える影響についても見解を述べています。このとき、「DRMは悪である」という言葉から始めるのではなく、「DRMが読書システムのUXに与える影響はとても興味深い問題です」と切り出したところに、ブレットの公平性が表れていると感じました。彼個人はDRM反対の立場をとりつつ、「流通業者やデバイス業者の立場も理解できる」と続けています。
 自分の立場ならどうかと考えてみました。読者としての自分は、どこで買った本であってもリーダーは好きなものを選びたいし、一度買った本は失いたくない。現在のDRMはこの2つを阻んでいます。それはDRM導入の結果であって、目的ではありません(と信じたい)。が、ボイジャーを含む商用電子本リーダーの開発社は、書棚共有などの試みはありつつも、現状ではこの壁を満足に乗り越える術を持っていません。

 こうした電子本への不満は他にもあるでしょう。個人的に思いつくものや、人から聞いたものを挙げてみるとキリがありません。例えばこんな具合です。

□ 欲しい本が探せない(検索しにくい)
□ リーダーの使い方がわからない
□ 買った本を自分の好きなリーダーで読めない
□ 買った本がいくらでもコピーできてしまう
□ インターネット接続がないと読めない
□ 文字が小さすぎる、または大きすぎる
□ デバイスの電池が切れると読めなくなる
□ 本文検索ができない
□ 本の全文に対してWebから検索ができない
□ 本文のコピー&ペーストができない
□ 本文のコピー&ペーストができてしまう
□ 書店のサービスが終了して本が読めなくなった
□ 複数の書店で買っているので、自分の本を統一管理しにくい
□ 値段が高すぎて手を出す気にならない
□ 値段が安すぎて手を出す気にならない

 一見「UX開発」とは異なる問題のように思えるかもしれません。しかし間違いなく「(電子)本との関わりでユーザーが体験すること」ではあるのです。

 電子本の体験の不満を語り合うことが大切です。不満の原因を見いだすことで、まだ発掘されていない選択肢を探し出せるのではないかと思います。

 
 
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字幕翻訳:室大輔

[これからの本の話をしよう:第3回 了]

 
 
 
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『マニフェスト 本の未来』
ヒュー・マクガイア/ブライアン・オレアリ 編
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PROFILEプロフィール (50音順)

斉藤正善[ボイジャー](さいとう・せいぜん)

2007年ボイジャー入社。最初に参加したプロジェクトは、映画「河童のクゥと夏休み」の成り立ちを電子の本で体験する『クゥの映画缶』。その後様々なOS向けに電子本アプリを作ったり、作ったアプリをApp Storeでリジェクトされたり、PC向けリーダーの仕様とモバイル向けリーダーの仕様の違いに悩んだり、電子本の価格と「一物二価」という考えについて考えさせられたり、EPUB仕様の国際会議に出席したりと、電子本のうごめきを間近に体験し続けて今に至る。今回の『マニフェスト 本の未来』寄稿者へのインタビューにも同行。