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【リレー連載】 本についての本について

【リレー連載】 本についての本について
第3回 辛酸なめ子・評『世界の夢の本屋さん 3』

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本/本屋をテーマにした新刊が続々と出版される昨今。DOTPLACE編集部が気になる「本についての本」を、毎回さまざまなゲストに紹介していただきます。第3回目は、漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんによる『世界の夢の本屋さん 3』評です。

視線をさまよわせるうちに、知の宇宙にトリップ

[評者]辛酸なめ子(漫画家・コラムニスト)
 
 

今回の「本についての本」
sekainoyumeno『世界の夢の本屋さん 3』
清水玲奈[エクスナレッジ、2013/11/19発売]
Amazon / エクスナレッジ

 
 オールカラーの豪華な誌面、A4という大きい判型の『世界の夢の本屋さん 3』。本屋愛にあふれるあまり、本屋で場所を取ってしまったのかもしれません。3冊目ではメキシコシティ、ミラノ、パリ、ヘルシンキ、ニューヨーク、ロンドンなど11か国19都市の魅力的な書店を紹介。各書店のフロアに大量の本が並んでいる光景はそれぞれ小宇宙のようで、視線をさまよわせるうちに知の宇宙にトリップしそうです。
 それぞれ土地柄や歴史が現れていて、例えばメキシコのポルア書店は窓が広くて明るいけれど、日本に比べて本の並べ方が雑でラフな雰囲気。ミラノのギャラリーとセレクトショップに併設されたディエチ・コルソ・コモ書店はモダンな白いテーブルに本を並べておしゃれすぎ。1840年開業のパリのオーギュスト・ブレイゾ書店はマホガニーっぽい書棚に百科事典のような本が並んでいて重厚感あふれている。ロンドンの王室御用達のハチャーズ書店は黒い棚がシックで格調高い本しか並んでいない、ニューヨークで最も優れた書店に選ばれたポスマン・ブックスは書店の奥の文房具コーナも充実している……など、写真を眺めているだけでその場に行ったかのような疑似感が得られます。
 インターネット書店や電子書籍の台頭で書店の存続が危ぶまれていますが、ここに紹介された書店は、ただ本を購入するだけではない、刺激的なスポットとして吸引力があります。優れた書店員のサービスだったり、朗読会などのイベントや、座って読めるスペース、おしゃれなカフェがあったり……。とくに惹かれたのは、サンフランシスコのシティー・ライツにて催された地元のシェフによるディナー付き講演会。ベルリンのプロ・キューエムで実験音楽のコンサートを開催したというのもCOOLです。ヘルシンキのアルカディア・インターナショナルはジャズやクラシック、タンゴのイベントを開催し、昼寝できる休憩室やビリヤードが置かれたプレイルームまであります。
 そして魅力的な書店員の存在も無視できません。パリのヴァンセット・リュ・ジャコブの店員、ジェロームは草花柄のシャツの草食系イケメン。「僕たちは文化を人々に伝える大使です」なんて素敵なことを言っています。オスロのターナム・リテラチュールヒューセットのオッド店長は腕にタトゥーが入ってワイルドですが渋い俳優のようなルックス。メガネの店員ロジェも知的で素敵な男子学生です。世界の書店男子、この本でなければ観賞できません。
 また、本屋さんの店長からの手紙の数々も収録されているのですが、さすが長年書店で働いていただけあって、語彙や文章力が素晴らしいです。例えば、「私にとって、書店業の最大の楽しみとは、狩猟にほかなりません」(ストランド書店の共同オーナー店長、フレッド・バス)、「迷える人へ 新しい本のにおいを本当に忘れてしまったのですか」(アーノルド・ブスク店長、ベリット・キエ・ラーセン)、「多種多様の複数の物語が、この小さな交差点で出会います」(ラ・シテ・リブレリア・カフェ共同オーナー店長、ナタリア・バヴァール)など……。これらの手紙を読むだけでも、すぐ本屋に行って知を吸収した方が良いと思わせる、何よりのプロモーションになっています。

[本についての本について:第3回 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

辛酸なめ子(しんさん・なめこ)

1974年、東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。漫画家、コラムニストとして活動。著書は『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎)、『女子校育ち』(筑摩書房)、『辛酸なめ子のつぶやきデトックス』(宝島社)など。


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