DOTPLACE読者におすすめの新刊書籍の中で、読みものとしてそれ単体でも強い魅力を放つまえがき/あとがきを不定期で紹介していきます。今回は、DOTPLACEでも人気コラム「まなざし」を連載し、一貫して生活の中にある違和感についてリサーチし続けてきた菅俊一さん初の単著『観察の練習』(NUMABOOKS)のまえがきをお届けします。
菅俊一 著
[NUMABOOKS、2017年12月5日発売]
105×148mm、上製本、256ページ、本文4C/1C刷り
ISBN:978-4-909242-01-3
本体:1600円+税
Amazon / NUMABOOKS直販先行予約
【内容紹介】
アイデアの種は、あなたの日常の「小さな違和感」に隠れている――。
駅やオフィス、街や家の中で出くわす、小さな違和感。
あるいは、市井の人々が生み出すささやかな工夫や発明のようなもの。
著者が日々収集し続けている数多の「観察」の事例を読み解く思考の追体験をしていくことで、
読み手にもアイデアの種を与えてくれる。
過去の膨大な量のリサーチの中から50あまりの「観察」の成果を厳選し、
テキストはまるごと書き下ろし。
著者のこれまでの人気連載コラム「AA’=BB’」(modernfart)、
「まなざし」(DOTPLACE)を愛読していた方も必読の、
初の単著にして決定版的な一冊。
“「見落としていたものに気づく」ということ自体は、
何に着目すべきかという問題設定が適切にされていれば、誰でもできるはずなのだ。
その上で、「良い」気づきを得るために「観察の練習」が必要になってくるのだ。
観察による気づきは技術だと捉え、
何に着目するかを意識しながら、何度も何度もやってみる。
当然、技術というからには後天的に学習が可能だし、慣れれば慣れるほど上手くなっていく。”
(本書「おわりに」より)
はじめに
菅俊一
観察とは、日常にある違和感に、気づくこと。
この本は「観察」という行為を「練習」するという目的で書かれました。観察と言っても、私たちが小学生の頃にやったアサガオの観察のように、ある特定の対象を継続して見続けるものではありません。この本で観察の対象としているのは、身の周りの環境、つまり世界全体です。
私たちの身の周りでは日々、さまざまな「おや?」と違和感を抱くような出来事が起こっています。それは、誰かの手による創意工夫であったり、自然環境が作り上げた現象であったり、自分の眼が勘違いしたものであったりするのですが、あまりにも膨大なため、普段は無意識に見過ごしてしまっています。しかし、このような「日常の中の小さな違和感」にこそ、私たちを驚かせたりワクワクさせたりするアイデアを生むためのヒントが隠れているのです。
この本では、私自身が日常的に行っている「観察」の例を紹介します。ぜひ、読者の皆さんも一緒に私が発見した「日常の中の小さな違和感」に気づいてみてください。
◎この本の読み方
(1)まず左ページの写真だけを見て、この写真が捉えた違和感が一体何なのか、少し考えてみてください。
(2)次に、見開きに書かれた文章を読んでみてください。ここには、私が気づいた日常の中の小さな違和感に関する、短い文章を書いています。最初に写真を見たときに皆さんが思ったこととまったく同じことを書いているかもしれませんし、まったく違うことを書いているかもしれません。
写真の解釈に正解はありません。日々の生活の中で感じた小さな違和感を見過ごさずに考えていくということを、読者の皆さんも体験してみてください。
それでは、一緒に観察の練習をはじめましょう。
[了]
菅俊一 著
はじめに/この本の読み方
1‐1 平らに見える歩道の正体
1‐2 無意識に取る最短経路
1‐3 整列されたゴミ
1‐4 箱の中の記録
1‐5 最低価格の掘り出し物
1‐6 自力で動きを予測する
1‐7 現場検証の限界
第2章「先入観による支配に気づく」
2‐1 見慣れた組み合わせ
2‐2 ソースの描く軌跡
2‐3 最短ルートは店の中
2‐4 胃内皮、腸フ、科科科
2‐5 泡立たない洗剤
2‐6 無表情なボタンが生む不安
2‐7 デフォルトの逆転
第3章「新しい指標で判断する」
3‐1 センサーに反応させるための指
3‐2 おいしさの定義
3‐3 音による手がかり
3‐4 単位が変わると見えてくる
3‐5 ◯◯として、見てください
3‐6 システムの裏をかく工夫
3‐7 後付けの目印
第4章「その環境に適応する」
4‐1 薄いゴミ箱の設計理念
4‐2 窓から見えた看板
4‐3 雪国に最適化されたゴミ収集所
4‐4 シャッターの内側は
4‐5 駐輪場の使い方
4‐6 物言うシャツ
4‐7 三つの顔を使い分ける
第5章「世界の中から構造を発見する」
5‐1 一度の操作で二つの機能
5‐2 作り足されたレイヤー
5‐3 「いらっしゃいませ」が含む意味
5‐4 赤青鉛筆の秘密
5‐5 エラーの生まれ方
5‐6 冬の夜のサイレン
5‐7 包み紙によるメッセージ
第6章「理解の速度を推し量る」
6‐1 顔に見えるメールアドレス
6‐2 「普通」が分からなくなるとき
6‐3 お釣りの渡し方
6‐4 「使用禁止」の伝え方
6‐5 白線の中と外
6‐6 とっさに押す方のボタンは
6‐7 誰でも分かるエラーの形
第7章「リアリティのありかを突き止める」
7‐1 生々しさの発生
7‐2 シワの取られた千円札
7‐3 理想の風の姿を見る
7‐4 因果関係をでっち上げるタイミング
7‐5 記憶の糸口
7‐6 風を増幅する装置
7‐7 潜在的にある記憶
第8章「コミュニケーションの帯域を操作する」
8‐1 地下を流れる綺麗な液体
8‐2 新しい注意の作り方
8‐3 騒音をすり抜ける声
8‐4 強引な解釈を要求する矢印たち
8‐5 見慣れた言葉が指し示すもの
8‐6 串焼きメニューのプロトコル
8‐7 先回りして用意された注意
おわりに
初出一覧/著者プロフィール
【著者紹介】
菅俊一(すげ・しゅんいち)
研究者/映像作家。多摩美術大学美術学部統合デザイン学科専任講師。
1980年東京都生まれ。人間の知覚能力に基づく新しい表現を研究・開発し、さまざまなメディアを用いて社会に提案することを活動の主軸としている。主な仕事に、NHKEテレ「2355/0655」ID映像、21_21 DESIGN SIGHT「単位展」コンセプトリサーチ、21_21 DESIGN SIGHT「アスリート展」展示ディレクター。著害に『差分』(共著・美術出版社、2009年)、『まなざし』(電子書籍・ボイジャー、2014年)、『ヘンテコノミクス』(共著・マガジンハウス、2017年)。主な受賞にD&AD Yellow Pencil など。
http://syunichisuge.com
●この連載「Forewords/Afterwords」では、新しく刊行された書籍(発売前〜発売から3か月以内を目安)の中から、それ単体でもDOTPLACEの読者に示唆を与えてくれる読みものとして優れたまえがき/あとがきを、出版社を問わず掲載していきます。このページでの新刊・近刊の紹介を希望される出版社の方は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。
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