鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などをコメントしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、著しく電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。
2015年5月28日 5月のまとめが公開された日のニュース。「ンゴ」が消えるそうです。業界内外から「は?」という驚きの声が聞こえてくるのと同時に、大喜利が始まっていたのが面白い。なお、名前が変わるのは持ち株会社だけで、子会社の株式会社ドワンゴ(英語名 DWANGO Co.,Ltd.)や株式会社KADOKAWAはそのままです。また、月初には会長と社長を入れ替える異例の人事も発表されています。佐藤辰男社長体制でのリストラクチャリング(再構築)がひと段落したので、今後は川上量生社長体制で再び成長路線を突き進む、ということなのでしょう。
2015年5月29日 電子本だから可能なこととして「検索ができる」というものがありますが、多くの場合それは1つの本の中だけに限られていました。たくさん本を買うようになると「せめて自分の本棚の中くらいは、まとめて検索できないだろうか?」と思うのが心情。それを可能にしたのがこのサービス。一部、購入前の本も試験的に全文横断検索が可能になっています。この数週間後に、オプティムからも電子雑誌の全文・横断検索サイトが公開されており、恐らく今後、電子書店各社が一斉に横断検索機能を盛り込んでくるであろうことが予想できます。思い起こせば数年前、Googleブック検索訴訟とクラスアクション和解案によって、全世界が巻き込まれた騒動がありました。時が過ぎ、版元もようやくこういった機能の有用性に気づき始めたということなのでしょう。
2015年6月3日 音楽CDやDVD・ブルーレイ、ゲームは以前から中古買取をやっており、それがいよいよ古本にも拡大されたというニュース。競合他社のブックオフオンライン「宅本便」と比較すると、Amazonは事前にオンラインで買い取り価格(最大)が確認できること、1点からでも無料で集荷すること、値段が付かない本は送料無料で返送されることなどが優れています。宅配業者が泣いてそうです。ただし支払いはAmazonギフト券のみ。また、「宅本便」の場合は、値段が付かない本は無料で破棄処分という選択肢もある点が最大の違いです。なお、「Amazon買取サービス」のページを開くと、Amazonでの購入履歴から自動的に「あなたの買取サービス対象商品」がズラッと価格とともに表示されるのがなかなか壮観です。問題は、買取対象ではない本が意外と多いところでしょうか。周囲の声を集めると、どうやらマーケットプレイスに出品されている古本価格を元に査定額を算出しているようです。
2015年6月3日
雑誌売り上げ全体はピーク時の半分になっているというのに、その雑誌販売で上場する企業が現れました。経営利益約2億391万円、利益率約10%。詳細は有価証券報告書で確認できますが、CCCの関連会社です。設立当初は取次の大阪屋と提携してますが、平成21年10月には「出版社の直販業務において、受注から配送までを一括して請け負う」サービスを展開しています。その取扱高(売上ではない)は、2014年には60億円突破しているとのこと。自社で直販する体制が整えられる出版社は少ないでしょうから、そのニーズをうまく掴んだということなのでしょう。
2015年6月9日 興味深い調査報告。公共図書館の電子書籍貸出サービスは、出版社の事業に損害を与えないよう同時に借りられるユーザー数を制限しており、紙本の貸出同様、順番待ちが発生します。そこで米OverDrive社は、順番待ちしているユーザー向けに「Buy it Now」ボタンを表示し購入へ誘導する仕組みを提供し、非常に効果を上げていると喧伝していました。ところがこの英国公共図書館での試行プロジェクトでは、購入ボタンのクリック率はわずか1%程度だったという話。OverDrive社は即座に反論していますが、その論に説得力を持たせるには具体的な数値の公表が必要となるでしょう。もっとも、一般にボタンのクリック率は設置位置や色・形によって大きく変動しますし、英国電子書籍市場のシェア9割以上を占めるKindleストアが実験には参加していないというのも結果を左右する大きな要因になっているように思えます。
2015年6月11日 今後どうなるかを、注視しておきたいニュース。Amazonが出版社と取り交わしている契約で、競合企業とAmazonより有利な条件で契約した場合に、Amazonへの通知が義務付けられている点を、欧州委員会が問題視。「独占的な地位の乱用や反競争的な商慣行を禁じる欧州連合(EU)の反トラスト法に違反する可能性」と、調査に乗り出した模様です。欧州委員会はAmazonに限らず、Microsoft、Apple、Googleなど米国のグローバル企業全般を、よく標的にしています。
2015年6月14日 1997年に起きた「神戸連続児童殺傷事件」の犯人で、当時14歳の少年Aが書いた(とされる)手記『絶歌』が太田出版から刊行され、賛否両論の大騒ぎになっています。中でも個人的に「なるほど!」と思った大原ケイさんの記事をピックアップ。犯罪をネタにして儲けた利益は、法廷が差し押さえて賠償金にするというアメリカの州法「サムの息子」法についての解説です。表現の自由があるので出版すること自体は構わないと思うのですが、遺族に対し事前報告がなかった点が多くの人に嫌悪感を抱かせる大きな原因でしょう。太田出版は「加害者の考えをさらけ出すことには深刻な少年犯罪を考える上で大きな社会的意味がある」などと強弁していますが、それが目的であればウェブ上に誰でも読める形で公開すればいいのでは。
2015年6月15日 月額400円(税別)の有料サービスが、サービス開始から1年間で会員200万人突破というのはお見事です。auは以前から「ブックパス」を、ソフトバンクも「ビューン」や、同月新たに始めた「ブック放題」といった読み放題サービスを提供していますが、どれもdocomoとは異なり他キャリアのデバイスでは利用できない点が弱み。もっとも、dマガジンも99%はドコモ会員らしいのですが、もし今後、番号ポータビリティ(MNP)で他キャリアへ移行したとしても、そのまま使い続けられるのは強みです。ただし、4月のまとめでも触れていますが、月間アクティブユーザー(Monthly Active Users : MAU)率が2割強というのは、使わずお金だけ払っている人が8割近くいるということですから、もう少しアクティブ率を高める工夫が欲しいところ。
2015年6月16日 ちょっとマニアックなニュースですが、あえてピックアップ。SSEとは、講談社と日本電気(NEC)が共同開発した、XML汎用テキストデータ作成ソフト「スマート・ソース・エディター」のこと。DTPソフトから脱却し、ローコストで紙と電子を同時刊行することを目的としたツールなので、要するにKADOKAWAの電子版が従来よりもっと早く出るようになる、はず、という話です。2014年9月のSSE発表時記事はこちら。JAGAT(公益社団法人日本印刷技術協会)のレポートはこちら。page2015のセミナーで開発者の話を聞きましたが、「レイアウトソフト(InDesign)に寄りかかって作ってしまうとそこから離れられなくなる。電子書籍だけではなく、紙の本でも二次利用(絶版の組み直しなど)時に結構負担になる。だから、文字情報を使い回しが効くようにXMLで構造化、Unicodeで保存する」のが開発コンセプトとのこと。だから、SSEに余分なレイアウト機能は持たせていないそうです。「Adobeさんに喧嘩を売るわけじゃないけど」と仰っていたのが非常に印象的でした。
2015年6月17日 この日、なにげなくKindleストアを開いたら、いきなりトップページにバナーが出ていてびっくりしました。「Kindle Voyage」の登場から半年。確かに「Kindle Paperwhite」は2013年モデルから1年半変わっていなかったわけですが、在庫処分で安売りしてる真っ最中に新モデルを発表してしまうとは。主な変更点は解像度と価格。最上位モデル「Kindle Voyage」が23980円、同じ解像度で「Kindle Paperwhite」が14280円(いずれもWi-Fiモデル・キャンペーン情報つき)、プライム会員なら10280円。最廉価モデル「Kindle」も値上げしており、プライム会員なら「Kindle Paperwhite」は非常にお得、という状態になっています。行動経済学で言う「フレーミング効果」で、選択肢が3つあると真ん中を選ぶ人が多くなるので、Amazonとしては「Kindle Paperwhite」を売りたいのでしょう。高解像度パネルが、過剰在庫になっているのかな?
6月もいろいろ興味深い動きがありました。7月は東京国際ブックフェアがあるので、そこへ向けて各社新サービスなどを投入してくるはずです。楽しみですね。
ではまた来月(=゚ω゚)ノ
[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2015年6月 了]
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