INTERVIEW

edition.nord 秋山伸+poncotan 堤あやこインタビュー

edition.nord 秋山伸インタビュー:田舎でデザインと出版をするということ
「今は雑用と子育てと仕事をなんとかやりくりしながらやっている、という感じです。」

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建築系の書籍や美術展の広報グラフィック、カタログなど、先鋭的かつ柔軟なアプローチでデザインワークを展開したデザイン事務所「schtücco(シュトゥッコ)」の秋山伸は、公私共にパートナーの堤あやことの第一子誕生を契機として2010年末に事務所を解散。拠点を新宿から、秋山の故郷の新潟県南魚沼市に移し、デザインと出版を行う「edition.nord(エディション・ノルト)」として活動を新たにした。そして2014年、同じく南魚沼市に堤氏がギャラリーを併設した雑貨店「poncotan(ポンコタン)」をオープン。まずは秋山氏に「edition.nord」の活動の近況を伺い、堤氏にはponcotanを始めるに至った経緯や運営について伺った。

[Side A:秋山伸氏へのインタビュー]

新潟に拠点を移して

――新潟に移られてから3年以上になりますが、出張はどのくらいの頻度でありますか。

秋山:東京には月に1、2回、京都は3ヶ月に1回くらい行っています。京都は印刷の立ち会いも多いのですが、去年は立命館大学SDPの実習を受け持って、それが年に4回ありました。

――どういった授業なのですか。

秋山:こちらで用意したフォーマットを元に、学生が編集とレイアウトをして、少部数のセルフパブリッシングのイヤーブックを作るというものです。

――新宿にデザイン事務所を構えていた頃と新潟に移られてからでは、レクチャーなどの頻度は変わりましたか。

秋山:ええ、増えましたね。新宿時代も東京藝術大学や芝浦工業大学デザイン工学科などで教えていましたが、ミームデザイン学校や立命館大学は新潟に来てからはじまりました。

――仕事の進め方は変わりましたか。

秋山:だいぶ変わりましたね。以前は頻繁に打ち合わせをしましたが、今は最初だけとか、要所要所しかやらなくなりましたし、やれなくなりました。どうしても都合がつかないときはスカイプを使います。OBが使っている旧事務所に編集者と版元の担当者にも来てもらって、僕だけスカイプで参加とか(笑)。

――距離があることは不便には感じませんか。

秋山:そうですね。不便とは感じていません。細かい打ち合わせを諦める代わりに、詳細な仕様書を作ったりして、他で埋め合わせるようなことはしています。そういった対処の積み重ねで、やっていけそうな感じです。

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仕事と日常生活の両立

――こちらに拠点を移したことで想定外の出来事などはありましたか。

秋山:私たちが近くにいたら、両親は安心して元気に暮らせると思っていたのですが、子連れで戻ってきたことが親にとって相当なストレスになってしまったことですかね。両親が元気だと思って子守や家事を頼りすぎて、それまでの生活リズムを乱してしまいました。田舎に帰ろうとしている人たちには、とにかく老いた両親のライフスタイルを変えないよう注意したほうが良いよ、とアドバイスしています。

――ある程度の距離が必要ということですね。

秋山:同居ではなく、何か問題が起きたときにすぐに行けるくらいでしょうか。東京と違ってこの辺りはベビーシッターがいなかったり、田舎ゆえの福祉インフラの不備も困ったことでした。

――ベビーシッターを必要としている地方は多いかもしれません。

秋山:あと、実家の雑用が思っていたよりも大変でしたね。使わない土地も常に草をきれいに刈っておかなくてはならいとか、いろいろと農村なりに気をつかうことがありまして……。冬は実家と自分たちの住居とponcotanの雪かきもありますし。そういった生活上の用事がいろいろとあって、新宿時代と比べると、集中してデザインできる時間がだいぶ少なくなりました。

――仕事の作業時間は決めていますか。

秋山:子どもが保育園から帰ってくるともう集中できないので、子どものいる時間はなるべく作業はしません。寝かせてからやるか、一緒に早めに寝て早めに起きるか……。新宿の頃は終電までやることもしばしばでしたが。

――住居と仕事場は一緒なのですか。

秋山:1階の住居兼仕事場にスタッフの作業テーブルがありまして、2階に寝室と僕の仕事部屋があります。一応部屋を分けて仕事に集中できるようにはしているんですけど、子どもがいると必ず入ってきちゃうんで(笑)。一時期、仕事を実家の空き部屋でやろうとしたんですが、こんどは、なんだかんだ親が話しかけてきたり、用事を頼まれるので(笑)うまくいかなくて。今は雑用と子育てと仕事をなんとかやりくりしながらやっている、という感じです。子どもたちがもう少し手がかからなくなったら、仕事部屋を離れた場所に借りようと思っています。早くまた集中して本格的にやりたいなと思っています。

2/5「『デザインと畑仕事と子守と車の運転』という、通常では考えられない内容でインターンを募集したんです。」に続きます
(2015年5月9日、poncotanにて)

●聞き手・構成・撮影:
戸塚泰雄(とつか・やすお)

1976年生まれ。nu(エヌユー)代表。書籍を中心としたグラフィック・デザイン。
10年分のメモを書き込めるノート「10年メモ」や雑誌「nu」「なnD」を発行。
nu http://nununununu.net/


PROFILEプロフィール (50音順)

堤あやこ(つつみ・あやこ)

新潟県南魚沼市にある雑貨店兼ギャラリー「poncotan」オーナー。2010年末、スタッフとして勤務していたデザイン事務所schtüccoの解散と第一子出産を経て、秋山伸とともに東京から新潟に移住。2014年にponcotanをオープン。業務用ミシンを用いて製本を行うユニット「チクチクラボラトリー」としても活動する。 http://poncotan.org/

秋山伸(あきやま・しん)

90年代半ばから,美術・建築の書籍や展覧会のデザインを数多く手がける。2010年末に東京の事務所schtüccoを解散し、新潟の豪雪地帯に移住。2011年より自社の出版レーベルedition.nordをベースにソロ活動を開始。 最近の仕事に、「鈴木理策写真展 意識の流れ」「大竹伸朗展 ニューニュー」などの公式展覧会カタログや、伊丹豪『this year's model』(RONDADE)など。 http://editionnord.com/


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大竹伸朗展ニューニュー

大竹伸朗 (著), 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 (著)
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出版社: ソリレス書店
言語: 英語
発売日: 2015/03