COLUMN

廣田周作 この話はタイムラインに流そう

廣田周作 この話はタイムラインに流そう
第1回「何が変化しているのだろう? なぜ変化しているのだろう? あるいはアイデアの発見。」

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何が変化しているのだろう? なぜ変化しているのだろう? あるいはアイデアの発見。

□変わらない部分

桜の咲く季節がまたやってきた。僕が働いている広告会社にも、期待と不安を胸に、今年もたくさんの新入社員が入社した。新しい仲間が増えることは、難しい理由抜きにいつだって僕らに新鮮な気持ちを思い出させるけれど、新入社員のまだ慣れないぎこちない姿勢を見ていると自分も昔そうだったことが否応なく思い出され、少し照れてしまう部分もある。自分もまた一つ先輩になり、後輩が増えてしまったんだなと思う。自覚を持つ、というほど大げさではないけれど、先輩として恥ずかしくないようにちゃんとしなきゃ、そんなことをちょっとだけ思って、少し姿勢を正す。それが毎年繰り返されていく。

そして、内心はにかみつつも思う。新しく会社に入ってきた彼ら/彼女らは、今どんな夢を持ってこの会社に入ってきたのだろう? これから、僕らは彼ら/彼女らと一緒にどんな仕事をしていくのだろう? どんな仕事を創っていけば良いのだろう?

そもそも、自分がかつて書いたエントリーシートには、どんなことを書いていたっけ?
記憶はあやふやで上手く思い出せない。わざわざ探してきて開く勇気もない。
当時の自分と今の自分はずいぶん変わってしまったような気がする。
そして、周りを取り巻く環境も。

今の広告業界は変革の時期にあると言われている。広告業界が変革の時期にあるなんてことは、僕が入社した時のずっと前から言われていたらしいので、相当前から言われているのかもしれない。そもそも、変革が多い業界(変革という言葉を常に言い続けることが自らの価値を規定している業界?)なのかもしれない。とはいえ、最近ますます変革という言葉が使われる頻度が増えてきているし、変革という言葉に込められている緊張感のようなものは増してきているように思う。

でも、何がなぜ、変化しているのだろう?

大きな変化が起こる時、原因が明確に一つであることは少ない。何か大きな変化が起こる時、何か一つのことだけが原因でそれが起こるわけではない。目に見えないような水面下での小さな動きが積もり積もっていく中で、何かが臨界点に達した時、象徴的な事件やニュースがトリガーとなって、ガラガラと変化は起こる(もしかすると、トリガーとなったニュースや事件こそが、後に象徴化され、あたかもそれが主な原因だったかのように錯覚されているのかもしれない)。アニメやゲームが凶悪犯罪の原因そのものではないように、一つの事件が戦争の原因ではないように、原因は目に見えない深層で、醸成されているのだ。そして、ある瞬間にパチンとはじける。

今の広告業界の変化だって同じではないかと思う。
何か一つの理由で変化しているわけではない。

社会は成熟し、デジタル化によってメディア環境は激変し、人々の価値観は多様化し、ますます市場はグローバルに開かれている。様々、変化を説明する理由が混在している。それは決して一つに特定出来るものではない。そして、いつかの未来から過去を振り返った時、仕事のあり方や、僕らに見える風景は取り返しのつかない形で変わってしまっているのだろう。

では、結局、僕たちは、この複雑な変革の時期にあって(しかも何が原因で変化しているかすらわからない中で)、どのように変わっていけば良いのだろうか。何を仕事のよすがにしていけば良いのだろうか。

ここで、少しだけ矛盾したことを言うけれど、実は、変化すればするほど、変わらない部分が相対的にくっきりと浮かび上がってくるということに、ヒントがあるのではないかと僕は思う。変化していることこそが、もっとも変化していないものを見つけるためのチャンスになるのではないだろうか。

大きな変化、急激な変化は、実は捉えるのが難しく分かりにくいものだ。でも、
よくよく変化を観察していれば、台風の目のように、ある本質が変わらずそこにあることを見つけられることがある。言い換えれば、台風の目は、周りが変化しているからこそ、不動の「目」として認識できるようになる。つまり、変化が起こっているからこそ、変わらない部分=台風の目が見えてくるというわけだ。周りの変化が激しすぎるが故に、変わらない部分こそが、一番変わったものとして見えてくることがある。

地と図の関係で言えば、地があまりにも急速に変化することによって、変わらない図がくっきりと浮かび上がってくる。昔、お笑いのレイザーラモンHGが「ゆっくりに見えますか? 違いますよ。これは余りにも速すぎて、逆にゆっくりに見えてるんですよ。車のホイールとおんなじですよ」というギャグをやっていたように。変化が速ければ速い程、それは相対的にのっぺりと見えるが故に、図の部分(ホイールの中心)がはっきりと浮かび上がってくるように見えるということだ。

あまりにも回転が速くなってバターになってしまった虎は、もはやバターとなり地に溶けてしまう。そして、パンケーキがふっと前面に浮き上がってくる。不変のくせに、もっとも変化しているように見えるラディカルなパンケーキとして。

そして、広告業界において、今、もっとも動いていないけれど動いて見えるのは、「アイデアが求められる」ということなんじゃないだろうか。アイデアこそが変革の台風の中心に位置していると僕は思う。
 
 
□コミッションのビジネスからアイデアのビジネスへ

当たり前に思うかもしれない。

広告マンはアイデアを出すのが仕事だと、広告業界の外にいる人たちは思っていると思う。確かにそれはその通りだ。これまでだって私たちはアイデアを仕事にしてきた。しかし今、それがより切実なものになってきているのだ。「アイデアを出すことができる」という状況から、「アイデアを出せないといけない」にその相対的な位置が変化してきている。周りを取り巻く環境が変われば変わる程、その台風の目としての、「アイデア」という核の必要性がくっきりと浮かび上がってきているように思う。変化がなければ、アイデアが重要であることに気がつかなかったけれど、変化しているからこそ、アイデアが必要になっているということが分かるのだ。

もう少し、具体的に書いてみよう。

広告会社において一番の利益の構造はメディアのコミッション(手数料)のビジネスだ(った)。広告枠を仕入れてきて、それを手数料を載せて販売する。基本的には、不動産業界と同じ収益の仕組みである。広告枠の価値は基本的には視聴率とか、販売部数とか、「どれだけ注目されているか」という数値的な指標で管理できる。そのビジネスの上にアイデア=表現がのっかっていた。価値あるメディアをさらに価値ある場所にするためのアイデア。

しかし、現在は、様々な要因があってこのメディアビジネスの構造が変わってきている現実がある。まさに、台風のように変化が激しく起こっているのだ。

そこで何が重要になってきたかと言えば、メディアという枠をとっぱらった時のそもそものアイデアである。表現のアイデアだけではなく、どれだけクライアントの課題を解決できるか? より根本的なアイデアが求められ始めたのである。広告枠の手数料とそこに掲載される表現にではなく、どれだけ課題を解決してくれるのかというアイデアにお金を出そう、という話だ。

最近の広告会社は、しきりと、クライアントの「課題解決」をする会社であると主張している。これは、まさにメディア環境の変化にともなって、手数料のビジネスではなく、アイデアにお金をもらうように体質や商習慣をシフトさせていこうとする流れだ。

コミッションのビジネスからフィー(アイデア)のビジネスへ。

これまで、アイデアは広告枠を華やかにし、注目を集め、メッセージをより効果的に伝えるための手段であった(広告におけるクリエーティブは、与えられた枠をいかに価値のあるものに磨き上げるかが勝負であった)。しかし、これからは、アイデアによる課題解決案が先にあり、その手段として広告枠が位置するようになった(今のクリエーターは、まず枠ありきで考えない。何がもっとも効果的かを考えた上で、場合によっては広告を解決策としない場合もある)。目的と手段の位置関係が変わってきているのだ。

メディアがあって、その価値を上げるアイデアがある
から
アイデアがあって、場合によってメディアをうまく使う
に変わってきているのだ。

地としてのメディア環境の変化や、社会環境の変化があり、複雑になればなるほど、図=台風の目としての、アイデアの価値が相対的に上がってきているのである。

冒頭の新入社員の話に戻そう。今、期待と不安を抱えているのは新入社員だけではない。多くの広告マンがこの時代に期待と不安を抱えているのだ。じつはアイデアなどなくともビジネスを成り立てていた人たちもいたし、アイデアがあってもビジネスの論理によってそれが実現できない人もいた。しかし、今後はアイデアを持っている人こそが最も輝く時代になるだろう。

[この話はタイムラインに流そう:第1回 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

廣田周作(ひろた・しゅうさく)

1980年生まれ。2009年電通入社。コミュニケーション・デザイン・センターを経て、12年からプラットフォーム・ビジネス局開発部。ソーシャルリスニングの知見に基づき、企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。ソーシャルリスニングのソリューションとして「Sora-lis」「リスニングプラス」などの分析メソッド、ツイッター上での話題の拡散度合いを測る指標の開発にも関わる。社内横断組織「電通ソーシャルメディアラボ」「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」などに所属。2013年、自著『SHARED VISION』(宣伝会議)を出版。


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