COLUMN

廣田周作 この話はタイムラインに流そう

廣田周作 この話はタイムラインに流そう
第3回「夢の値段と、決断のセンス(後編)」

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第3回 夢の値段と、決断のセンス(後編)

前編からの続きです

□かけた時間が価値になる仕事と、そうでない仕事

現在の広告会社のビジネスは、コミッション(メディア販売の手数料)のモデルから、フィーのモデル(アイデアを出してクライアントの課題を解決していくモデル)にだんだんとシフトしている。というかフィーをもらえるように様々なトライをしている最中である。

しかし、(これは僕の個人的な考えなのだけど)フィーを頂く時に、各社員が、どれだけの「時間」働くかによって値段が決められているという点に、大きな問題があるのではないかと思っている。アイデアを、時間という単位で測ることの矛盾が存在しているからだ。正直、僕らの存在意義というか、存在価値を、時間で測られることに疑問を感じるのだ。

例えば、分析が得意な戦略コンサルティングファームの人であれば、課題を整理するのが仕事なので、時間をかければかけるほど、課題を見つけることが出来る。だから、フィーを作業時間ではかることも良いと思うし、納得性も高い(人によって分析の質に差があるので、単価は違うだろうけれど、分析という行為は、すればするほど、良くなっていくだろうし、課題もそれに比例して見つかっていくだろう)。

一方で、広告のクリエーティブを考えた場合、確かに時間をかければかけるほど、良いアイデアになるのは(一般的には)そうなのだけど、実際の現場では、コピー一行を書く時に、3時間かけて考えたものと、3週間かけて考えたものがあって、結局、3時間かけて考えたものの方が良かった、ということも出てくる。アイデアの質は、時として時間に正比例しないのだ。というか、良いアイデアは、凄まじく良いアイデアなのであり、時間と比例しない、非線形の価値を持つ。あなただって、ある晩、自分の尻尾を自分で噛んでいる蛇の夢を見て、ベンゼン環の構造を思いつくことだってあるかもしれないのだ。

単純に言い切れないけれど(というか、これはかなり暴力的な整理だという自覚はあるのだけど)戦略コンサルティングの場合は、時間に比例して、課題は発見されていくが(何故なら、課題は常に、既にあるものだから)、一方、広告クリエーティブの仕事は、「発想」を軸として、「課題解決」を行うのが仕事なので、一瞬で出来ることもあれば、ものすごく時間がかかってしまうこともある。逆に、全く思いつかず時間切れになってしまうこともあるだろう。人によって出してくる答えが千差万別になる。でも、そこにアイデアの崇高さがある。

つまり、フィーを時間稼働率で計算してしまうと、アイデアの価値を測れなくなってしまうという矛盾をはらんでいると思うのだ。

では、どうすれば良いか?

答えは、まだ明確にはない。でも、アイデアを対象としたビジネスは、限りなくアートの世界に近づいていくのではないかと僕は思う。テトリスに関するアイデアを持っている人に対して、「それ」は素晴らしいと見抜き、思い切ってそれに投資してみようと思う覚悟。そういったものが、今後より求められるのではないだろうか。

アイデアを見極めるセンスと、それにかける覚悟。アイデアという、前例がないもの、一回性のものを、あなたはどう受け止めるか? それは、アートを鑑賞する人の教養とセンスが試されるのと似ている。他社の成功事例を見せてください、といわれても、前例がない世界。その判断が求められる世界。

それは、もはや時間単価で計算されるフィーの世界ではなくなっているだろう。成果報酬型のビジネス(ボーナス型のビジネス)が待望されていることの理由の一つは、ビジネスのルールが変わってきていることの一つの象徴なのかもしれない。アイデアは、それが生まれた時点では、結局その価値を測ることは出来ない。だから、時間的には後追いだけど、成果でもって評価しようという考え方。アイデアの価値は、歴史や社会が後から定めていく。でも、いずれにせよ、そのアイデアを実現しようと判断する時には、覚悟が必要であることには変わりない。まず、信じてみなければ、プロジェクトは進まないのだから。夢でアイデアを思いつくのは、割とみんなやっていることなのかもしれないけれど、アイデアで夢を見るのは、意外に結構大変なんじゃないかと思う。

[夢の値段と、決断のセンス 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

廣田周作(ひろた・しゅうさく)

1980年生まれ。2009年電通入社。コミュニケーション・デザイン・センターを経て、12年からプラットフォーム・ビジネス局開発部。ソーシャルリスニングの知見に基づき、企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。ソーシャルリスニングのソリューションとして「Sora-lis」「リスニングプラス」などの分析メソッド、ツイッター上での話題の拡散度合いを測る指標の開発にも関わる。社内横断組織「電通ソーシャルメディアラボ」「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」などに所属。2013年、自著『SHARED VISION』(宣伝会議)を出版。


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単行本(ソフトカバー): 208ページ
出版社: 宣伝会議
発売日: 2013/6/4