INTERVIEW

掲載は“早い者勝ち”。インディーズ作家たちの雑誌の挑戦

掲載は“早い者勝ち”。インディーズ作家たちの雑誌の挑戦
鷹野凌 3/3「書きたい欲求と読まれるかどうかは、全然別のもの。」(『群雛』編集発行人)

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今年の1月末に創刊され、3月25日には第3号が発売された文芸誌『月刊群雛 (GunSu) ~インディーズ作家を応援するマガジン~』。毎月“早い者勝ち”で掲載作品を募るなど、とにかくオープンであることに徹した編集方針を掲げるこの雑誌は、作品がより多くの人の目に触れるための新しいプラットフォームとしても一部のインディーズ作家たちから注目を集めています。
『群雛』の編集発行人であり、そこへの参加作家たちが加盟する「日本独立作家同盟」の呼びかけ人でもある鷹野凌さんに、創刊に至る経緯や手応え、今後の展望などをDOTPLACE編集長の内沼晋太郎が尋ねてきました。

【以下からの続きです】
1/3:「作家が集まり続けられる場所としての月刊誌。」
2/3:「名前が出る覚悟さえあれば、何でもできる場所に。」

継続するための価格設定

内沼晋太郎(以下、内沼):「日本独立作家同盟」のGoogle+コミュニティの参加者は今、何人ですか?

鷹野凌(以下、鷹野):自己紹介をして参加者になっている人が140人ぐらい、コミュニティに入ってる人が250人ぐらいですね(※編集部注:2014年3月3日当時)

内沼:以前、「年間1万円くらいを投資してくれる方が100人くらいいれば」成り立つんじゃないかと書かれていましたよね。

鷹野:作家1人あたり5000円ぐらい返せるんじゃないかということです。1号800円で12回買ってもらうと、1万円ぐらいですよね。

内沼:お話を伺っていると、鷹野さんがやっていることって、公共性が高いと思うんです。少なくとも私的な利益のためにやっているふうには感じない。NPOにして寄付を集めたり、クラウドファンディングで資金調達することもありうるのではと思いました。

鷹野:NPOは考えてなかったな。でも、組織の継続性を考えたとき、今は僕が辞めると瓦解するので、儲けることが目的ではない形で継続できるモデルを考えたほうが良いかもしれないですね。クラウドファンディングは、1つのプロジェクトに対してお金を集めるもので、継続してやってくものと方向性が違うように感じました。ただ、クラウドファンディングを出版にあてはめる部分はすごくいろいろ考えていて、有料メルマガに近い形でできるんじゃないかなとか考えたことがある。定期的に支払うかたちで。本当は創刊で話題になったときに年間購読みたいな形の窓口があればいいなと思ったのですが、そのプラットフォームがないんです。BCCKSにはそういうシステムはなくて、Pubooにはサブスクリプション(定期購入)があるけど共同編集システムがない。

内沼:創刊時に、12冊買うと9600円のところ、定期購読で9000円です、みたいにキャンペーンすれば、払った人は結構いたでしょうね。それってほとんど現状のクラウドファンディングに近くて、そういう何かをやりたい人を応援する気持ちは、日本でも少しずつ育っている気がしますよね。

鷹野:私も、無料頒布や100円の価格設定で、広くあまねく届けるというよりは、こんなふうに頑張っている人たちを応援したいなと思ってくれる限られた人たちに、ちょっと高いけど800円で提供しているほうが続くんじゃないかなと思うんです
 
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セルフパブリッシングの今後

内沼:『群雛』に書いている人たちは、いわゆるセルフパブリッシングを、自分でされていた人がほとんどなんでしょうか。それとも同盟や創刊の存在を知って参加してきた人が多いですか?

鷹野:創刊号のときは、参加してくる方で1人だけKDPで本を出した経験がありませんでしたが、2号目からは、ある程度経験がある人に限ります、というかたちに切り替えています。遊び半分で参加しちゃう人が出てくるんじゃないかという危惧があって。真剣じゃない方に枠が1つ押さえられてしまう、それが商品として読者に渡ってしまうのはどうなんだろうと思ったんです。そこで、デジタルに限らず漫画は16ページ、文章は32ページ以上の本を自分で出したことがある人、というところで線を引くことにしました。

内沼:そういう本を出したことがある人って、人口的にはどれぐらいいるんでしょう。

鷹野:コミケに参加しているサークル数は万単位であるし、コミケ以外でやっている人もいるので、日本全国では万単位の後半ではいると思います。

内沼:電子出版に限ると?

鷹野:数百はいると思います。千単位はどうだろう? いずれにしてもそんなに多くはない。

内沼:紙でどんどん自分の本を作っている人たちの数に比べると、KDPなど電子書籍に参入してきている人は少ないと感じるのですが、なんで出さないのでしょうか?

鷹野:コミケに参加している方々は、8割方二次創作だから出せないのだと思います。作品として出せるはずなのに出してない場合、デジタルの出版を難しく考えているんだと思います。僕自身、自分でやってみて難しいと思うんですよ。そんなに簡単じゃない。例えば『群雛』でも、3月号からReader™ StoreBookLive!など外部ストアに配信するようになったんですが、実際にEPUBをリーダーに取り込んで読んでみたら、丸囲み数字が横転しちゃったり、いろんなわけのわからない障害が出てきて、究明するのに丸一日かかる。

内沼:完璧なものを出そうとすると難しいですよね。

鷹野:僕はEPUBの制作をやっている方々とも仲良くしていてFacebookでも繋がっているので、「これ、どうなってるの?」と質問を投げると答えを返してくれるんです。だからなんとかできているけど、そういうヘルプがなければものすごく大変だろうなと。

内沼:中には挫折している人も?

鷹野:そうですね。あと、もっと売れると思っていて実際にやってみたら売れなくてやめちゃった人はかなりいると思います。

内沼:全体として、今後セルフパブリッシングをする人が増えると思いますか? 最初の頃はいくつか話題作やこれが売れてるみたいな本があったと思うんですけど、今もあるんですかね?

鷹野:当時より話題にならなくなったというのがありますよね。大手出版社がこぞって電子化をするようになったので、プロの作品のほうが圧倒的に多くなって、そのなかにセルフパブリッシャーが埋もれてしまった。
 

『群雛』創刊号より。仲俣暁生氏(「マガジン航」編集人)による「『群雛(GunSu)』の創刊によせて」

『群雛』創刊号より。仲俣暁生氏(「マガジン航」編集人)による「『群雛(GunSu)』の創刊によせて」


 

本を「どう作るか」から「どう売るか」の時代へ

内沼:僕は、とはいえ、セルフパブリッシングに参入する人はまだまだ増えていくと思うんです。細かい問題はありますが、出版するための方法は検索すればインターネット上に書いてあるし、作ることに対するハードルは下がった。これから作り方はさらに簡単になっていき、作りたい人がもっと気軽に参入してくる。だから「どう作るか」のフェーズはある意味でもうほとんど終わっていて、問題はすその大量のネット上の本の中で埋もれずに「どう売るか」に、すでに移っていると思います。そのあたりについてはどう思われますか?

鷹野:「どう売るか」という点では、継続することじゃないですかね。正当な手段でツイッターでフォロワーを増やすにはどうしたらいいかという話とすごく似ていると思います。そのためには周りの人が興味を持ってくれるような面白い話をツイートし続けるしかない。同じネット上で、セルフパブリッシングでデジタルでやっていくとなれば、いろんな手段で情報と作品を出し続けて、多くの人に興味を持ってもらうことをやり続けるしかない。
 最近読んだ記事に、アメリカではKindle上で売られている作品のうち半分はセルフパブリッシャーで、売れている作品はシリーズで出し続けているものだという分析が出ていました。シリーズで出し続けていると、それによってより売れるようになる。

内沼:シリーズ化できれば、ストア上である程度の存在感が示せる、気に入ったら他の作品も買ってもらえる、話題を継続し続けられるというメリットがありますね。
 僕はネット上で有名になった人が、どうやって有名になったのかを少し体系的に研究すべきだと思っていて、DOTPLACEで近々そういう企画を立ち上げたいなと思っています。自分の作品をネットで売り出した人が有名になるヒントが、そこにあるかもしれない。鷹野さんは、記憶に残っている人はいますか?

鷹野:すいません、思い浮かぶのがだめになっちゃった人ばかりです(笑)。ひとつ思うのは、炎上マーケティングをしてる人は長続きしないだろうなということですね。精神科医でシロクマという名前でブログを書いてる方がいるんですが、彼が「ブログを読んでくれる読者には銅・銀・金がいて、銅はいちげんさん、銀は感想を書き込んで発信してくれる人、金はロイヤルカスタマー。金や銀の人たちは、炎上でPVを稼ぐような記事を書くと去ってしまう」と書いていて(※編集部注:「シロクマの屑籠」2014年2月24日のエントリーより)、なるほどなと思いました。私も炎上でPVを稼ごうとしてるなというのが見えたブログ、記事、サイトは読むのをやめるんです。もう嫌だと思って。ブログが本格的に広がって10年ぐらい経ちますが、炎上的な形で有名になった人は、いつかどこかで姿を消している。

内沼:今は過渡期だと思うんです。仰る通り、いわゆる今のネットニュース的な、内容はすごく薄いのにタイトルで「釣る」みたいな記事に対して、こんなの嫌だ、こんなの読みたくないと思う人も増えているから、少しこれから揺り戻しが来るような気がします。「ここは地味だけど、良質な記事が読める」みたいなサイトが確固たるブランドを築いていき、PVが着実にゆっくり上がっていく、みたいなことですね。半分は希望的観測ですが(笑)。

鷹野:良質な情報を発信し続ける場所は、とにかく継続すること以外に存在を示す道はないと思います。

内沼:『群雛』の、全作品に作家のインタビューがついているというのは、いい形式ですよね。雑誌という形式では他にない形だなと思いました。インタビューを読むとより深まるし、この人はこういう人なんだ、こういう気持ちで書いたんだっていうのがあるだけで、ちょっと読んでみようという気になる。まずインタビューを呼んで、面白いことを言っていたら作品を読む、という入り方もあるのかなと思います。

『群雛』創刊号より。作品と常にセットで掲載される、著者へのインタビューのページ。

『群雛』創刊号より。作品と常にセットで掲載される、著者へのインタビュー(写真はDOTPLACEでも以前ご紹介したセルフパブリッシング作家、山田佳江さんのページ)

鷹野:セルフパブリッシングの業界では、こういう作家に焦点を当てる形式がけっこうあって、それは見て面白かったので、やるとしたらそういう形にしようと思っていました。メタデータというんですが、作品周りのストーリー、背景、作家の人となりを含めて作品の価値だったりするので、メタデータはなるべく多いほうがいいと思っています。何が引っかかるかわからないし、情報が溢れてる時代だからこそ、たくさん情報を出さなきゃいけないと思います。

内沼:鷹野さんが、自己紹介や作品紹介をしろと言ったらやっつけ仕事で1行しか送ってこない人について「この人には自分の作品にその程度の思い入れしかないのだな、と私は判断します」と書かれていて、そりゃそうだなと思いました。少なくともインターネットでやっている以上、インターネットの作法に合わせられない人は、よほどの才能でない限り見つけてもらうのは難しいと思います。
 こうしてセルフパブリッシングが少しずつ広がっていく中で、いつか何かを書きたいと思ってる人ってすごく多いと思うんです。鷹野さんはそういう人たちに対して有益な情報を提供されていますよね。未来の書き手に何かメッセージをお願いします。

鷹野:書きたいという自分の欲求と、その書いたものを読んでもらえるかどうかは、全然別のものじゃないですか。書きたいという思いと同時に、誰に向けて書いているかを考えることがすごく重要だと思います。群雛の参加者のインタビューに、この本は誰に読んで欲しいですか、という質問を入れているのはそういうことで、作品を書くときに読者をちゃんととイメージできているのかを問いたい。読み手を想像して書いて欲しいですね。

内沼:今日はありがとうございました。

[掲載は“早い者勝ち”。インディーズ作家たちの雑誌の挑戦 了]

聞き手:内沼晋太郎 / 構成:川内イオ
(2014年3月3日、本屋B&Bにて)


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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『月刊群雛 (GunSu) 2014年 04月号 ~ インディーズ作家を応援するマガジン』

発売日: 2014/3/24
フォーマット: Kindle版
ファイルサイズ: 5238 KB
紙の本の長さ: 171 ページ
出版社: 日本独立作家同盟