今年の1月末に創刊され、3月25日には第3号が発売された文芸誌『月刊群雛 (GunSu) ~インディーズ作家を応援するマガジン~』。毎月“早い者勝ち”で掲載作品を募るなど、とにかくオープンであることに徹した編集方針を掲げるこの雑誌は、作品がより多くの人の目に触れるための新しいプラットフォームとしても一部のインディーズ作家たちから注目を集めています。
『群雛』の編集発行人であり、そこへの参加作家たちが加盟する「日本独立作家同盟」の呼びかけ人でもある鷹野凌さんに、創刊に至る経緯や手応え、今後の展望などをDOTPLACE編集長の内沼晋太郎が尋ねてきました。
【以下からの続きです】
1/3:「作家が集まり続けられる場所としての月刊誌。」
掲載作家を“あえて選別しない”意味
内沼晋太郎(以下、内沼):独立作家同盟のコミュニティの中で、アメリカではフリーの編集者が個人作家の作品を出版して売り上げをシェアするハイブリッド出版社が台頭している、という内容の記事にコメントされていましたね。その中で、「アメリカの場合は、良い作家を選んで儲けるというのが目的だから『群雛』とは違う」といったことを書かれていましたけど、確かに『群雛』は選別しない。そこで質問なのですが、選別しないで作家が集まることがどういう力を持ち得るのかが、実はよくわからないんです。ばらばらのものを集める、特に選ばない、早い者順です、というシステムの雑誌はどういう強さ、意味を持つとお考えでしょうか?
鷹野凌(以下、鷹野):そのあたりのルールは、今までの雑誌の事例を見て、逆をやろうと思ったんです。例えば、価格設定に関しても無料で頒布している事例もあれば、1部100円などストアで売れる最低価格で売っているものもある。でもそれらは結局、続かなかった。だったらしっかりと価格設定をしても良いんじゃないかと(※編集部注:『群雛』2月号(創刊号)〜4月号の電子版の価格は800円)。一般的な雑誌に載せる作家の作品も、編集長がいて、編集者がいて、何を載せるのかを選別するのが従来のスタイルですが、その逆をやろうということです。
内沼:選別しない分、コストがかからないというのはありますよね。そういうコストの面でもなるべく続けられるモデルということで、選別しないモデルを採用したんですか?
鷹野:そうなんです。
内沼:選別しないとなると、フィクションはともかくとして、例えばノンフィクションにおける嘘や誤認についてはどのようにお考えですか。
鷹野:それはずっと意識しています。本当に困るだろうなと想像しているのが、政治と宗教です。でも、そういう作品って商業ベースでも既に世に出ている。そこを端から排除するのはどうなんだろうという思いもあるんですよね。嘘でだましてやろうという意図が読めばすぐわかるものであれば公序良俗、法律に反するという部分でダメと言えますが、読んでもわからないならどうしようもない。
内沼:でもそういうのは嫌ですよね。今後、『群雛』に影響力が出てくればくるほど危険性が高まる。
鷹野:今のところ、政治宗教お断りとは書いてないんですが、正直、すごく怖いですね。まず同盟に加盟する形にしているので、プロフィールを見て危なそうな匂いを感じたらそのとき考えようと思っています。
内沼:作品のクオリティに関しては、どう捉えていますか? 例えば「てにをは」レベルでおかしい作品などについては、フィクションでもさすがに直しますよね。
鷹野:既刊のものに関しては、それは世の中に出てる商品ですから中身には触りません。インタビューと新作は、しっかりと編集しています。表紙も早い者勝ちなので、自分で何かしら作品を作ったことがある人という制限していますが、落書きレベルの作品がきたらどうしようと思いました。
内沼:表紙も早い者勝ちなのはすごいですよね。表紙はかなり露出しますし。
鷹野:バーンと露出されて、自分の名前が出るという覚悟があるなら何でもできる状態です。あとは、当人が後先を考えるかどうか。そこで自分の名前を出して、描いたイラストが世に出回っていいかどうか。覚悟があるんだったらやってくださいという。こちらもそれぐらい腹を据えないと。
内沼:何事もやってみないとわからないですからね。先陣を切った者にしかわからないこと、とりあえずやってみてわかったことが経験やノウハウとして蓄積される。「最初は表紙も早い者勝ちだったんだぜ」というのが伝説になったりするのも面白いですよね。
「自分の足で立つ」作家を輩出するために
内沼:この手法で創刊号と2号目、2冊を作ってみて何か感じたことはありますか? 「やっぱりこうすれば」みたいなことはありましたか?
鷹野:実は、創刊号を出した後でルールを継ぎ足しました。早い者勝ちなんですが、連続で新作の掲載はお断り、サンプルも3号連続はお断りします、と追加しました。それは、毎号同じ作家ばかりになってしまう可能性と、群雛に載せることが目的になってしまい、とにかく早く参加募集の募集にコメントをつけるという傾向が見受けられて、それはどうなのかな? と思って歯止めをかけました。今の群雛の形のままずっと続くとは思わないんですよ。いろんなことが起きる中で、たった2号でも新しいルールを加えたり、形を変えてきているので、早い者勝ちのルールもこの先続けていくのかはわかりません。
内沼:日本独立作家同盟の趣旨の中にも「自分の足で立つ」ことが記されていますし、群雛に載ることが目的になってしまうと、自分の足で立ってないことになりますよね。
鷹野:実際、15人も参加者がいれば、当然いろいろな人がいますからね。例えば、参加者がそれぞれのブログやSNSでいっせいに宣伝をすれば一人でやるよりも効果は高いだろうと思ったので、宣伝して欲しいと話をしました。でも、実際にやってくれる人は2割3割です。こういう趣旨でやっている本で、それに参加している人でもみんなが宣伝してくれるとは限らないんだなとすごく感じました。
内沼:それはルール化したほうが良かったりしないですか? 作家の選別をせず、早い者勝ちでただ集まるだけ、という形がどのような力を持つのかまだわからないんですが、話を聞いていて確かにあるなと思ったのは、15人いたら15倍の宣伝力を持つということです。でも、それもやってくれないとなると……。載せる側はお金がかかるわけでもなく、編集もしてもらえて、お金まで入ってくるわけですよね。作家側のリスクが少なすぎませんか?
鷹野:宣伝に関しても、それをルールにするのはどうかと思っています。「自分の足で立つ」とは「自主的にやる」ということじゃないですか。それができない人は、多分、続かないと思うんです。実際、創刊号に参加してくれて2号には参加していない方が、2号が出たときに宣伝してくれたりすることもある。そうやって参加してくれた人の輪が広がっていく、それで良いんじゃないかなと思います。
内沼:なるほど。独立作家同盟自体への帰属意識を持っている人が増えていけば、たとえ自分の作品が載っていなくても、告知力が増していくこともあるということですね。たしかに、これから『群雛』を継続されていけば、その中で同盟に参加したい人、『群雛』に参加したい人はどんどん増えていくと思います。今は紙にすることを想定して作家は15人限定で、新作が5本と、既存のものを10本になっていますが、これも狭き門になるでしょう。今後、たとえば増やしていくことは考えていますか。隔週にするとか?
鷹野:ノンフィクションジャンルとフィクションジャンル、文章ジャンルとイラスト・漫画ジャンルに分けたほうがいいかなとは思っています。
内沼:ちなみにその場合、鷹野さんの作業は倍になりますよね……?
鷹野:独立作家同盟で、私は編集者です、何かやりたいです、という参加者が、作家の10分の1ぐらいいます。そういう形で、編集でかかわってくれる人が増えてくれば本を増やしてもやれるんじゃないかと思います。群雛の編集を手伝ってくれている人は、創刊号で1人、2号目で2人いました。
内沼:なるほど。確かにやり方をオープンにしているから、『群雛ノンフィクション』、『群雛イラスト』みたいに横展開して、それぞれ編集長がいることも想像できますね。鷹野さん以外の人が取り仕切って、独立作家同盟の名の下に、別のジャンルの編集長になるのもありということですよね。
鷹野:ありです。
[3/3「書きたい欲求と読まれるかどうかは、全然別のもの。」](2014/4/3更新)
聞き手:内沼晋太郎 / 構成:川内イオ
(2014年3月3日、本屋B&Bにて)
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