COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
第6回:2015年5月「村上春樹作品が電子書籍化」

takano
 鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などをコメントしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、著しく電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

◇ ◇ ◇

2015年4月30日 4月のまとめが公開された日のニュース。昨年12月にβ版としてスタートした「楽天Koboライティングライフ」が、いよいよ正式スタート。β版開始時の記念イベントはマガジン航にレポートを寄稿しています。予約販売機能が追加されたのが当時との違い。この楽天Koboの動きに追随する形で、Kindleダイレクト・パブリッシングも米国納税者番号不要に変わっており、強力な競合があるとサービス競争が起きてユーザーにとって良い結果をもたらすのだな、というのを実感しました。

楽天Koboライティングライフ トップページより(スクリーンショット)

楽天Koboライティングライフ トップページより(スクリーンショット)

2015年4月30日 新潮社は「村上春樹作品、国内初の電子書籍化」とアピールしていますが、厳密に言うとNHK出版の『村上春樹「かえるくん、東京を救う」英訳完全読解』(2014年7月18日)と『村上春樹「象の消滅」英訳完全読解』(2015年1月17日)の方が先に出ています。英訳版と日本語原文が一緒に載っている、NHKラジオ『英語で読む村上春樹―世界のなかの日本文学』からの単行本です。いずれにせよ、こういった動きをきっかけにして電子書籍に興味を持つ人が増えるのではないでしょうか。他のビッグネームも追随して欲しいところ。

新潮社の書籍版告知ページより(スクリーンショット)

新潮社の書籍版告知ページより(スクリーンショット)

2015年5月3日 新刊書店が新刊を売るだけではもはや立ちゆかなくなっているので、事業を複合化するのは自然の成り行きでしょう。この朝日新聞記事に取り上げられたちょっと珍しい事例以外にも、神奈川に何店舗かある文教堂併設スリーエフ、愛媛のセブンイレブン併設書店、広島のローソン併設書店などのコンビニ併設店とか、レンタルと書店併設の「TSUTAYA BOOKS」は全国701店舗ある(2013年)とか、「遊べる本屋」ヴィレッジヴァンガードは決算説明資料によると書籍売り上げの比率は10%以下だったりとか。新刊書店が古本を扱う事例も増えてきました。いずれ「新刊書籍雑誌専門店」の方が珍しくなるかもしれません。

2015年5月12日 印刷書籍売上はアメリカでは安定しているけど、イギリスではダウンしているという話。その代わりに電子書籍は増えているとなると、「やっぱりカニバリズムが起きるじゃないか」という声が強くなりそうです。ただ、イギリスの電子書籍市場はKindleのシェアが95%と、ほぼ完全な独占市場らしいのです。利益を出しやすいデジタルで競争相手がいなければ、利益を出しづらい印刷物の売上に悪影響がある施策を積極的に打って、デジタルにユーザーを誘引してもおかしくはない、という気がします。

2015年5月15日「電子図書館」進まぬ普及(元記事削除済み)

 要因として「貸し出し可能な電子書籍の少なさ」が真っ先に挙げられています。版元や著者が、電子書店で売れなくなることを恐れ、図書館での貸出を許諾してないケースがまだまだ多いのでしょう。紙本の貸与は非営利無料なら許諾不要(著作権法38条2項)なので版元や著者にはコントロールできないのですが、電子書籍は公衆送信権(許諾不要で貸与可となる例外規定がない)なのでコントロール可能なのです。イギリスのように「公共貸与権」による補償金制度を整備し、電子書籍を公共貸与権の対象にすれば一気に普及するかもしれませんが、法整備までの道のりは遠そうです。

2015年5月15日 リアル書店に「Rポイントカード」が導入されるのは初とのこと。楽天が大阪屋の筆頭株主になった効果でしょう。共通ポイントサービス戦争という面でも注目しておきたい動きです。楽天Koboでは既に「書店内Koboストア」という形での提携を積極的に行っていますが、リアル店舗とのコラボはAmazonが真似できない領域なので、楽天全体として今後もっと力を入れるようになると思われます。

2015年5月15日 Facebookが始めた新サービス「Instant Articles」について。記事へのリンクを貼って投稿しサイトへの誘導を図るのではなく、記事そのものをまるごとFacebook専用の形式でニュースフィードへ流す形になるようです。モバイルだと、いちいちタップして記事を開く動作が面倒ですし、読み込みまでの時間もかかるので、Facebook上でそのまま記事が読めてしまう方がユーザーとしてはラクになります。少し前にBuzzFeedのCEOが「リンクのシェアは時代遅れ。コンテンツを流せばチャンスが広がる」と言っていましたが、これも同じ流れの施策でしょう。しかし同時にこれは、Facebookに囲い込まれる方向でもあるわけで、ちょっと怖い気もします。

2015年5月25日 また1つ、電子書店が消えていきます。4月20日にリリースが出ていたのですが、恐らく媒体社向けには配信しなかったのでしょう。1ヶ月経ってようやく話題になり、記事にもなりました。他社への引き継ぎや、ポイント還元などによる救済もなし。ダウンロード済みの本は読み続けられますが、ファイルの移動やコピーはできないし、OSをアップデートしたら終了。「サービス終了で読めなくなる」不安を無関係なユーザーにも与える意味で、最悪の幕引きです。

電子書店アプリ「BookGate」ホーム画面より(スクリーンショット)

電子書店アプリ「BookGate」ホーム画面より(スクリーンショット)

2015年5月26日 非常に手間のかかっている良連載。「ラインアップ編」「どれだけ読めるのか編」と合わせ、ピックアップします。結論としては、やはり「dマガジン」がどの切り口でも強い、ということが明白になっています。そろそろ会員数200万人突破する頃ではないでしょうか。配信している出版社にとっても、かなり大きな収入源の1つになりつつあるようです。

2015年5月27日 当初、購入済みユーザーの再ダウンロードも不能になっているという情報もありましたが、新規販売が停止されただけのようです。アメリカではAmazon.comが購入済みコンテンツを無断で削除したことがありましたが、日本では今のところ私が知る限り同様のトラブルは発生していません。ただ、続刊が同じストアで買えなくなるのは、本棚がストア単位で分断されている現状では厄介な話です。以前、iBooks Storeで『To LOVEる ダークネス』が販売停止されたこともあります(これは1ヶ月後に復活)。アメリカ企業のガイドラインは、アメリカの倫理観に基づいているので、日本の感覚とはズレる場合が多々あります。なお、記事では触れられていませんが、紙の本も販売停止されています。

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 5月もいろいろ興味深い動きがありました。さて6月はどんなことが起こるでしょうか。

 
 ではまた来月(=゚ω゚)ノ

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:第6回 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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