今年の1月末に創刊され、3月25日には第3号が発売された文芸誌『月刊群雛 (GunSu) ~インディーズ作家を応援するマガジン~』。毎月“早い者勝ち”で掲載作品を募るなど、とにかくオープンであることに徹した編集方針を掲げるこの雑誌は、作品がより多くの人の目に触れるための新しいプラットフォームとしても一部のインディーズ作家たちから注目を集めています。
『群雛』の編集発行人であり、そこへの参加作家たちが加盟する「日本独立作家同盟」の呼びかけ人でもある鷹野凌さんに、創刊に至る経緯や手応え、今後の展望などをDOTPLACE編集長の内沼晋太郎が尋ねてきました。
オープンな作家のコミュニティを作る
内沼晋太郎(以下、内沼):今回は、昨年に日本独立作家同盟を立ち上げ、1月28日に『月刊群雛 (GunSu) ~インディーズ作家を応援するマガジン~』を創刊された鷹野凌さんにお話を伺いたいと思います。まずは、日本独立作家同盟を立ち上げたきっかけから、あらためて教えてください。
鷹野凌(以下、鷹野):以前からGoogle+のコミュニティ機能を使って、「電子書籍Lovers」という電子書籍に興味がある人のコミュニティを作っていて、当時、2000人以上が集まる場所になっていました。そこは電子書籍に興味がある人の集まりで、著者だけではなく、読者、システム会社の方などいろいろな人がいるコミュニティでした。そういう方々と交流する中で、作家だけのコミュニティがあったほうがいいんじゃないかと感じていたんです。
内沼:なるほど。
鷹野:そんなことを考えていたときに、昨年4月にマガジン航に掲載されていたロンドンブックフェアの報告のなかで、オーナ・ロスさんという方が「独立作家同盟」(Alliance of Independent Authors)なるものを立ち上げたという話を読んだとき、日本にもこういうものがあったらいいなと思ったんです。それからしばらく、ロスさんがやったような形で活動するにはどうしたら良いんだろうと考えて、実際に活動を開始したのは昨年9月です。
内沼:そもそも、日本には作家のコミュニティというものがないということですか?
鷹野:ないわけではないと思います。竹の子書房というサイトがあって、そこではいろいろな方が参加して、電子出版のための情報交換などをしています。ほかにも、ライブドアブログの佐々木大輔さんが中心となって、Kindleダイレクト・パブリッシング(KDP)を利用して『ダイレクト文藝マガジン』という雑誌を作っていました。ただ、『ダイレクト文藝マガジン』は11号ぐらいで終わってしまって、そのときに、何でやめちゃうんだろうってすごく残念だったんですよね。コミュニティがあったとしても、止めてしまったら人が散ってしまう。だから、うまく人が集まり続けられる場所はできないのかなという思いはありました。
加入するのにお金や資格が必要だったりすると、それが障壁になりますよね。とはいえ、同盟でもまったく障壁を設けていないわけではなくて、コミュニティに入ること自体はワンクリックでできますけど、同盟の参加者であると名を連ねるには自己紹介が必要です。
内沼:同盟の参加にはGoogle+、編集にはGoogleドキュメント、出版にはBCCKSを使うなど、本当にオープンな形を目指していらっしゃいますよね。
鷹野:自分が使い慣れているからというのが大きいんですが、オープンで誰でも使えるツールであること、アカウントをひとつ持っていれば、Googleドライブ、ドキュメント、コミュニティなどGoogleが提供しているサービスを全部使えるので、便利だろうなと思いました。
内沼:BCCKSを使っているのはなぜですか? プレミアムプランにすると印税がシェアできますが、そういう機能面ですか?
鷹野:そうですね。まず条件として、どうしてもKindleストアは外せないんですが、Kindleストアだけでやるつもりはありませんでした。いろいろストアがある中で、利用者が自分のスタイルに合わせて使える形になって欲しいという思いがある。だから、いろいろなストアで配信したかったんです。そういう配信スタイルを考えたときに、雑誌という形態でネット上の繋がりしかない複数の参加者と利益をシェアするとして、入ってきたお金を私が管理して分配しますねといっても信頼してもらえないと思ったんです。だから、印税シェア機能のあるBCCKSを選びました。
内沼:『群雛』はデジタルだけでなく紙でも出版されていますが、それには理由があるのでしょうか。
鷹野:結果的に、BCCKSを利用すれば紙も出せた、ということです。
内沼:売り上げはもうわかるんですか?
鷹野:BCCKSで直接売れた分は、ほぼリアルタイムでわかります。ほかのストアで売ってる分に関しては、情報が入ってくるのは2ヵ月遅れぐらいですね。創刊号の売り上げは4月10日になると見えてくる感じです。
内沼:発売してみて、感触はいかがでしょう?
鷹野:創刊号はいろいろなメディアで取り上げて頂きましたし、Google AdWordsやYahoo!にも少し広告を出していて、それなりにプロモーションコストもかけたので、数百部は売れたと思います。ただ、問題はその後ですね。2月末に出した3月号が100部に達するかがバロメーターになると思います。
先陣を切る楽しさがモチベーション
内沼:運営についても伺いたいと思います。先行していくつか立ち上がっているこうした媒体がその後あまり継続していかないなかで、鷹野さんは月刊で出すと決めて雑誌を創刊されたわけですが、いつまで続けられるか、という見通しのようなものはありますか。
鷹野:正直、僕の気力が続く限り、みたいなところはありますよね。わりといい値段の800円という金額設定にして、きっちり作家にシェアしようとしていますが、編集へのシェアはすごく少なくて、100部とか200部売れたところで、かけた労力には見合わない。ビジネスとして続けていこう、儲けてやろうなんて思っていたら続けられません。
内沼:そうですよね。でも一方で、気持ちだけで続けていくというのは、難しいのではないかという気もしてしまいます。継続するためには、なるべく運営のコストを下げていかないといけないんじゃないだろうか、とも思うのですが……。
鷹野:そうですよね(笑)。
内沼:今、鷹野さんは群雛の編集発行人、独立作家連盟の主宰者として、毎月やらなければいけないことが結構あるのではないかと想像します。コミュニティに加入した人がいたらコメントを返したりしていますよね。実際はどのくらいの分量あるのでしょうか。編集作業もほとんど鷹野さんがやっているんですよね?
鷹野:まず、同盟に関していうと、メンバーが新しい本を出したのでプロモーションをして欲しいというときに、それを記事にします。ただ、作家の方が書いた文章をそのまま記事化する形になるんで、1記事あたり10分もかかりません。あとはコメントを返す、作家が自己紹介をしたらメンバーに登録する、宣伝してといわれたら転載する。同盟ではそれぐらいですね。『群雛』は、参加者募集のイベントを立てて、立候補者にコメントを返し、受け取った原稿を編集に回したり、チェックしたり、整理をするなどきわめて編集的なことをやっています。
内沼:2号まで作ってみて、もともと思っていたのと、大変さの度合いは違いますか?
鷹野:作業部分に関してはこんなもんだろうという感じです。自分がライターとしてほかの仕事をしつつ、『群雛』の制作をするのはなんとかできるだろうと思っています。ただ、イレギュラーな対応が発生したときの負荷が大きい。それは作業コストよりはるかに大きいんです。
内沼:でも、月刊だから〆切がはっきりしていますよね。間に合わない場合はどうするんですか?
鷹野:〆切と、それをチェックして戻してもらうのはいつまで、と全部ルール化しているので、間に合わない作品は掲載しません。
内沼:現時点では、何年か継続できそうという感触ですか?
鷹野:そうですね。最初にいろいろなルールを明文化したり、使い方を指南するのが大変だったのですが、2回やってみて、その負荷がなくなって、ようやく大体の流れが見えてきたところです。
内沼:なるほど。もちろん、大きな意義があるのは間違いないと思うのですが、それを鷹野さんがそれだけの負荷を背負ってまで継続していくモチベーションは、いったいどこにあるんでしょうか?
鷹野:一言で言うと楽しそうだから(笑)。
今、自分がやっていることはそれほど先駆者的というわけではないと思うんです。でも、出版業界がビジネスとしてやっている部分がだんだんと崩れつつある状況で、恐らく、出版社がビジネスとしてやっていた部分がそうじゃない部分に移行していくところの一端を担っているんじゃないかなという気はしています。これから新しく出てくる領域で、自分が先頭を切ってやってるんだぞ! というのが楽しい。
内沼:なるほど。独立作家同盟や『群雛』を始めてから、その活動を見た人が自分たちもやろうとか、別の団体が立ち上がっているとか、そういう動きはありますか? あるいは、そういう志望者から質問が来たりしますか?
鷹野:いや、どちらもないですね。オープンスペースでやっていて何も秘密にはしていないし、ルールも公開しているので、それを見ればわかるというのもあるかもしれません。
[2/3「名前が出る覚悟さえあれば、何でもできる場所に。」](2014/4/2更新)
聞き手:内沼晋太郎 / 構成:川内イオ
(2014年3月3日、本屋B&Bにて)
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