INTERVIEW

写真と映画の中間領域にある可能性 ホンマタカシ「ニュードキュメンタリー映画」特集上映

写真と映画の中間領域にある可能性 ホンマタカシ「ニュードキュメンタリー映画」特集上映
(1/2)各作品に通底する、対象へのカメラの向け方

写真と映画の中間領域にある可能性
ホンマタカシ「ニュードキュメンタリー映画」特集上映

文:小林英治

 

 

ホンマタカシが2002年より写真活動として平行して制作してきた映像作品4作が、12月10日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムにて、「ニュードキュメンタリー映画」と題して期間限定で特集上映されている。彼が今回の上映作品全体に冠した「ニュードキュメンタリー」とは何を意味するのか。そして作品を通して我々に問いかけていることとは何だろうか。公開に先立ち11月23日(水)に開催されたプレイベントで美術評論家・椹木野衣と行われたトークでの発言や、他の映画作家の作品なども参照しながら探ってみたい。

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※2/2:「形態を変化させながら探求を続ける『ニュードキュメンタリー』」はこちら

実験の場としてのニュードキュメンタリー

 今回の特集では、初の長編ドキュメンタリー『After 10 years』(2016年)をはじめ、これまで美術館やギャラリーなどでインスタレーションとして発表されてきた映像作品を劇場用に再編集した『最初にカケスがやってくる』(2016年)、飴屋法水の演劇「教室」を上演会場外の歩道に三脚を据えた定点カメラから捉えた『あなたは、あたしといて幸せですか?』(2016年)、さらに過去に劇場公開された写真家・中平卓馬の姿を写したポートレートムービー『きわめてよいふうけい』(2004年)が追加ショットを新たに加えたバージョンで上映されている。ホンマはこれらを総称して「ニュードキュメンタリー」と呼び、その説明として、「ここで僕がニュードキュメンタリーと言っている、いくつかの映像は、いわゆるメッセージのはっきりしたドキュメンタリーではありません。ましてや物語のある映画とは全く異なります」とプレスリリースに記している。

『After 10 years』(2016年/日本/101分/カラー/16:9/日英字幕)

『After 10 years』(2016年/日本/101分/カラー/16:9/日英字幕)

 そもそも、ホンマが「ニュードキュメンタリー」という語を最初に使用したのは、2011年から12年にかけて、金沢21世紀美術館、東京オペラシティアートギャラリー、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館を巡回した展覧会のタイトル「ニュー・ドキュメンタリー」においてである。美術館で初めて開催する大規模な個展となったこの展覧会で、彼は従来の写真プリントだけでなく、写真を元に制作されたシルクスクリーンやインスタレーション、映像作品といった様々な形態の作品を展示し、写真というメディアが孕む多様性と多義性を提示していた。また、巡回する会場ごとに作品を追加したり、美術館以外の複数の場所でサテライト展を同時に展開するなど、展示自体の内容もゆるやかに増殖し変化していくものだった。

 そのアプローチは今回のニュードキュメンタリー映画にも受け継がれている。先日行われたプレイベントでのトークでも、映画館で上映される作品は決して固定された最終形ではなく、「今回は映画興行という制度の中での一つのバージョンであり、これで終わりではなく、この映像素材をバラして美術館では別なインスタレーションをやろうとも思っていて、一種の運動というか、実験の場と考えています」と述べている。そして、「上映会自体がニュードキュメンタリーの一部だと僕は思っていますし、ここで椹木さんと話すことも僕にとってはニュードキュメンタリーです。全体のイベントが終わった後に、上映期間に行うトークも含めて映像とは別の形で一つにまとめたいと思っています」と、ニュードキュメンタリーが現在進行形のものであり、アウトプットとしても映画だけに留まらないことを示唆していた。

スマトラ島沖地震のことを知らずに撮った「In a morning」

 ニュードキュメンタリーの個々の作品を見ていくと、共通しているのは、カメラが捉えた対象物そのものへの関心というよりも、対象へのカメラの向け方、つまり撮影の姿勢にあることがわかる。例えば、101分の長編『After 10 Years』は、2004年12月に起きたスマトラ島沖地震の津波で被災したスリランカのホテルで、2014年におこなわれた10周年追悼式典を迎えるまでの数日間のホテルの様子を記録した映像をメインに構成されているが、冒頭から流れる映像に映しだされるのは、ホテルの従業員が早朝に敷地内の庭やプール、ピロティ、客室などを淡々と掃除している姿だ。「津波の式典みたいなものは、僕にとってはフックみたいなものでしかない。ほんの一秒でもそのホテルにいると感じれるように、ストーリーよりも質感を味わってもらいたいんです」とホンマは言う。全体の構成としても、式典がクライマックスになっているのではなく、それはホテルの日常の経過のなかで起きる一つの出来事として捉えられている。そのような映像の中で際立つのは、ところどころに唐突に挿し挟まれる、10年前にこのホテルで津波に遭った体験を語る従業員たちのインタビュー映像だ。

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『After 10 years』より

『After 10 years』より

 実はホンマが最初にヘリタンス・アフンガラ・ホテルを訪れたのは、このホテルがスリランカを代表する建築家ジェフリー・バワの有名建築であり、雑誌の依頼で建物の撮影を頼まれたからだったという[★1]。実際に現地を訪れてみると、「朝早く起きて撮影していたら、シャーシャーって箒で掃く音と、そこにピヨピヨと鳥の鳴き声だとか海岸の波の音とかいろんな音が混ざって、その音がすごくいいと思ったんです」。その場の空気と音をそのまますくい取った数分間の動画「In a morning」は雑誌のウェブサイトにもアップされ、『After 10 Years』の映像の基調となっているが、この撮影を終えたあとに、ホンマはこのホテルがスマトラ沖地震による津波の被害に遭っていたことを知らされる。そして、「あ、もしかしたらここで東北のことを考えられるんじゃないかなって思った」というのだ。

★1:『Casa BRUTUS』2014年5月号「死ぬまでに泊まっておくべき100のホテル」特集に掲載。

後編「形態を変化させながら探求を続ける『ニュードキュメンタリー』」に続きます


ホンマタカシ
「ニュードキュメンタリー映画」特集上映

2016年12月10日(土)より
渋谷 シアター・イメージフォーラムにて上映中(全国順次公開)
上映作品・スケジュール詳細はこちら

制作:between the books
宣伝・配給協力:mejiro films

(C)Takashi Homma New Documentary


PROFILEプロフィール (50音順)

ホンマタカシ

写真家。1962年東京生まれ。1999年『東京郊外』(光琳社出版)で第24 回木村伊兵衛写真賞受賞。2011年から2012年にかけて、個展「ニュー・ドキュメンタリー」を日本国内3ヵ所の美術館で開催。著書に『たのしい写真 よい子のための写真教室』(平凡社)がある。2016年イギリスの出版社「MACK」より、カメラオブスキュラシリーズの作品集『THE NARCISSISTIC CITY』を刊行した。

小林英治(こばやし・えいじ)

1974年生まれ。フリーランスの編集者・ライター。ライターとして雑誌や各種Web媒体で映画、文学、アート、演劇、音楽など様々な分野でインタビュー取材を行なう他、下北沢の書店B&Bのトークイベント企画なども手がける。編集者とデザイナーの友人とリトルマガジン『なnD』を不定期で発行。 [画像:©Erika Kobayashi]


PRODUCT関連商品

ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー (展覧会図録)

ペーパーバック: 240ページ
出版社: 朝日新聞社
言語: 日本語, 英語
発売日: 2011/1/8